voice of mind - by ルイランノキ


 一蓮托生21…『見る?』

 
外に出したテーブルは6人掛けだ。左右に座れば8人掛けだが椅子はない。
アールたちはテントの中で、シドたちはテーブルの席に座って食事を取った。
 
「飲み物はこちらに置いておきますので」
 と、ポットをテーブルに置いて、テントへ戻ったルイ。
 
テント内で丸い座卓をルイ、カイ、アールが囲む。ヴァイスは隅に腰掛けていた。
 
「いただきます」
 と、お茶碗を持ったアール。「シド、どんな感じだった?」
「どんな感じ、といいますと?」
 と、ルイも食事を始めた。
「あのテーブルを使うのも、ルイの手料理を食べるのも、久しぶりだろうから……」
「…………」
 シドの様子を思い出しても、これといって変わった様子はみられなかった。懐かしそうになど、していない。
「ねールイ」
 と、今度はカイが話しかけた。
「はい」
「あいつらがどんな攻撃できるのか知りたくない? てゆーか、知っておきたくない?」
「……確かにジョーカーさんは気になりますね」
「クラウンもだよ。まともに戦ってないけどさ」
「カイさんはクラウンさんと戦闘になったのですよね?」
「そうだけど……ポケットからライフル取り出したりハンカチから吸血コウモリ出したりしたくらいだよ」
「手品?」
 と、アール。
「手品とはまた古典的ですね。魔法が当たり前の世の中ですから」
「あ、そっか。じゃあポケットがシキンチャク袋みたいになってて、ハンカチから出したのは魔法で?」
「そんなのどうだっていいんだよぉ……」
 と、カイ。「魔物を寄せ付けないようにしてるのは自分の力を見せたくないからじゃないの? ってこと言いたいの!」
「…………」
 
アールとルイは驚いて顔を見合わせた。カイの発言とは思えなかったからだ。
 
━━━━━━━━━━━
 
「うまいな。噂には聞いていたが」
 と、ルイの手料理を食べたベン。
「あいつは食わないのか?」
 シドがそう言って目を向けたのは、仮面を被っているジョーカーだ。黙ったまま椅子に座っている。目の前の料理には一切手を出していない。
「仮面は外せませんからねぇ」
 と、クラウン。「私も彼の素顔を見たことがありませーん」
「そのうざいしゃべり方やめろ。普通にしゃべれるんだろうが」
「でも癖なんですよねぇ。長い間サーカス団でクラウンとしてこのしゃべり方でやってきましたからねーえ」
「…………」
 
ジャックは彼らの話を聞きながら、黙々と食事を進めている。
 
「しかしまぁ、こんな子供じみた汚いやり方でしか勝てないのでしょうかねぇ、我々は」
 そう言ってスープにスプーンを浸したクラウンを、シドは無言で睨みつけた。
「相手はエルドレット様をひとりで仕留めたんだ。用心にこしたことはないだろう」
 と、ベンはグラスの水を飲んだ。「我々の武器はそのときまで隠しておくのがいい」
「女相手に、なんともまぬけだなぁ」
 
ガタンッ!と立ち上がったシドを宥めるように、ジャックが声を張った。
 
「だったら! ……だったらあんたがひとりで挑んでみりゃいい。女ひとりに手こずらないんだろう?」
「おや、お前はいつから私に楯突くようになったんだーい?」
「同士だろ」
 と、水をがぶ飲みする。
 
シドは苛立ったまま席に座った。
 
「同士? 下っ端の下っ端だろう。この中じゃ、お前が一番の雑魚だ」
「…………」
 ジャックは悔しそうに歯をかみ締めた。
「アーム玉の力でも借りて少しは使えるようになることだな」
「……わかってる」
 
シドはご飯をかき込み、茶碗をテーブルに置いた。ふと、テーブルに何か書いてあることに気付いた。
 
《ひまぁーひまぁーひまぁーアールいないからひま》
 
「…………」──なんだこれ。
 
眉間にシワを寄せ、そういえばこの席はよくカイが座っていたことを思い出す。女がいないときに書いたのだろう。ルイなら気付いたら消しそうだというのに。木のテーブルに油性ペンで書いてあるから消しづらいのだろうか。
 
「どうした」
 と、ジムに声をかけられギクリとした。
「あ、いや……なんでもねーよ」
 
──どうでもいい。
もう、関係ないのだから。
 
━━━━━━━━━━━
 
「話さなきゃいけないことがある」
 と、食事を終えたアールは食器を重ねながら言った。「シドに」
「…………」
 ルイたちはアールに目を向ける。
「シドのお姉さんのことと……タケルのこと」
「タケル?」
 と、カイがその名前に反応する。
「できれば、シドと二人で話したい。でも、みんなが傍にいてくれると助かる……」
 みんなとは、ルイ、カイ、ヴァイス、スーのことだ。
「難しいですね……でも、アールさんとシドさんを二人きりにするチャンスならなんとか作れるかもしれません」
「ねぇ、タケルのことって、なに?」
 カイはアールの袖を引っ張った。
「タケルのアーム玉。作ってたみたいなの。タケル、自分が選べれし者じゃないって知ってたみたいで。それでも力になりたいから、ひとりでモーメルさんに会いに行って、アーム玉を作れないか頼んでた。それと、タケルの私物がシドの部屋にあって、タケルの携帯電話に動画のメッセージが入ってた」
「え……」
 
アールはシキンチャク袋からタケルの携帯電話を取り出した。
 
「……見る?」
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -