voice of mind - by ルイランノキ


 一蓮托生17…『ソース』

 
「もうだいぶ傷口が塞がったようだね」
 と、医師はそう言って、ベッドの上でうつぶせになっているカイの背中を診た。
「傷残りますー?」
「そうだな、安定する前に魔法治療を行えば綺麗に消せるかもしれない」
「あ、いや、傷消さなくっていいんです。背中に大きい傷があったらかっこいいじゃないか!」
「背中の傷は嫌がる者が多いが、君は珍しいな」
「へ? なんで嫌がるのさ」
「何者かに背後を取られたということだろう? 君に隙があった証拠だ」
「消してください。今すぐ消してください」
「カイさん、魔法治療は少し値が張りますので」
 と、隣のベッドのルイ。
「なんだよぉ! 俺に恥を晒して生きてゆけと言いたいの?!」
「考えようだと思いますよ。その傷も戦った証かと」
「戦ってつけられた傷なのか戦う間もなくつけられた傷なのか相手にはわからないじゃないか!」
「それは……そうですが」
「ルイお金払って。一生のお願い」
「カイさんから一生のお願いを聞いたのは何度目でしょうか」
「いいから払って! 俺の今後の人生がこの傷によって大きく左右されるんだよ! 女の子とピンクタイムのときに背中の傷を見られて笑われてムードぶち壊しになるたびにルイを恨むから!」
「わかりました……お願いします」
 と、ルイは医師に頭を下げた。
 
喜ぶカイを横目に、シドがここにいたら医師と同じ事を言っていそうだなとルイは思った。
そろそろ退院だ。そして、シドと再会する。そのときが勝負だ。彼を説得させ、目を覚ましてもらう。だれど、その後は? 組織から足を洗うことなど出来るのだろうか。彼の命は属印によって組織に支配されているというのに。
 
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シドはアジトを離れ、VRCがある街へ移動していた。戦闘部屋を借りて3時間汗を流した後、休憩がてら施設内の中庭に出てベンチに腰掛けた。シキンチャク袋から水筒を取り出し、喉の渇きを癒す。
そんな彼に近づいてきたのはメイクを落としているクラウンだった。
 
「あの時は驚きましたよ」
 と、隣に座る。
 
シドは嫌な顔をして距離を取り、座りなおした。水を飲んだ口を袖で拭き、水筒をシキンチャク袋にしまう。
 
「眠らせたと思っていたのに背後から声を掛けられるとは。しかも、同じ組織の人間とはねぇ」
「…………」
 シドはそっぽ向き、無視を通した。
「はじめから騙すつもりで彼らの仲間に? ──いや、確かあなたは国王から声を掛けられたんでしたねぇ。果たして、どちらが先だったのでしょう。組織に入ったのが先か、後か」
「テメェに関係ねーだろ」
 と、うんざりして立ち上がる。
「関係ありますよ。我々は仲間でしょう? 私は第三部隊に入った一員。信用できない人間に従うのはどうも気が引けましてねぇ」
「…………」
 シドは振り返り、クラウンを睨んだ。
「いるんですよ、“世界を脅かす”組織の正体を暴こうと入り込む馬鹿者が」
「…………」
 
シドは視線を逸らし、ジャックを思い浮かべた。彼のことを言っているのか、他にそういう輩がいたのか。どちらにせよ、ジャックの心は組織にはないだろうとシドは察していた。
 
「ま、実際入り込んで我々が脅かしているわけではないと知って改めて組織に身を置く者も多いようですけどね。──あなたはどちらなんでしょう? 我々が“彼女”の身体に触れることを拒んだあなたは」
「……気持ち悪くて見てられなかっただけだ。仮にも長く旅をした“知り合い”だからな」
「私ならばいい気味だと思いますけどねぇ」
「それはテメーの趣味だろ。顔見知りが犯されて興奮できるお前と一緒にすんなよ」
 と、鼻で笑い、建物内へ戻った。
 
クラウンはシドの後姿を見届け、「そうですか」と、微笑し、呟いた。
 

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