voice of mind - by ルイランノキ


 一蓮托生13…『遠い世界』

 
「ねぇルイ」
 と、カイは仕切りのカーテンを開けて隣のベッドで横になっているルイを見遣った。
「なんです?」
 と、背中を向けていたルイは体の向きを変えてカイを見遣った。
「読む?」
 カイはグラビア雑誌を見せた。
「結構です」
「袋とじがすんごいの」
「そうですか。僕は結構です」
「ルイは覚えてる? タケルと袋とじの話したの」
「…………」
「寝る前にさ、タケルの世界にはこういう雑誌あるの?って訊いたらあるよって。しかも袋とじもあるよって」
「えぇ、カイさん驚いていましたね」
「でも中は大した写真じゃないことが多いってさ」
「そうですか」
「でもこれはすんごいの、見てみて」
「結構です」
「んもう! それでも男の子なの?!」
 と、カイがすねると、向かい側のベッドのおじいさんが言った。
「わしにも見せてほしいの」
「え」
 
カイはおじいさん側の仕切りも開けた。
 
「じいちゃん若いね。ていうかまだピーナッツ食ってんの? 永遠に食ってんじゃん。体に悪いよ」
「ピーナッツと交換してくれんかの」
「しょうがないなぁ」
 と、カイはベッドから下りておじいさんに雑誌を手渡した。
「ほほほ、こりゃ楽しみじゃ。ほれ」
 と、おじいさんはピーナッツをカイに渡した。
「一粒?! そりゃないよ! この雑誌はピーナッツ1000個分に相当するのに!」
 
ルイはそんな二人を見ながら少し呆れたように微笑んだ。
 
 

──アールがいない旅。過ぎ去った記憶。
 
「元気ねーな」
 
翌朝、村の公園にあるベンチに腰掛け、沈痛な面持ちを浮かべていたルイに、シドが声をかけてきた。
 
「シドさん……」
「少しは寝たのか?」
 と、シドはルイの隣に腰掛ける。
「アールさん……戻ってくると思いますか?」
「思うけどそれがどーしたんだよ」
「え……なぜそう思うのですか?」
「だーからそれしか選択肢ねーからだよ。結局あいつは戻るしかねーんだって」
 ルイは黙ったまま視線を落とした。
「いつになるかはわかんねーけど、戻ってくるから心配すんな。しけた顔してんじゃねーよ。老けるぞ」
 と、シドは立ち上がる。
「シドさん」
「あー?」
「ありがとうございます」
 ルイは、いつもの笑みを浮かべた。
「さっさとこんなちんけな村出て……」
 と、シドは一瞬言葉を詰まらせてから、「行くぞ。今度こそ“道を開く”」
 
(離合集散31…『巨大ダコ』より)

 
 
ルイは骨折していた腕を摩った。もうギプスはとれているが、まだ痛みが残っている。それに魔力も自然回復を待っているがまだ完全には戻ってきていない。
シドがカイを殺そうと刀の刃を向けていた光景を思い出す。ひやりとしたのは、彼を信じ切れていなかったからだろうか。
 
「まだ痛いの?」
 と、カイが歩み寄ってきた。
「いえ……」
「顔色悪いねぇ」
「心配いりませんよ。それよりカイさんこそ、背中の傷は大丈夫ですか?」
「唾つけてれば治る!」
「ばい菌が入るのでやめましょう。今の時代、魔法治療が当たり前になっていますが自然治療が一番いいのでしょうね。身体に良く、デメリットもないという魔法など存在しないのですから」
「どうしちゃったのさ急に」
 と、ルイのベッドに腰掛ける。
「時々思うんです。魔法が存在しない世界がどんなものか」
「アールやタケルがいた世界だねぇ。見てみたい」
「えぇ」
「もしさ、タケルとアールが出会ってたら、どんな会話が聞けただろうねー。自分たちの世界の話で盛り上がったりしたのかなぁ。同じ世界から来た人がいて話ができるってだけでも心強かったりするのかなぁ」
「えぇ、きっと……」
「一緒に冒険できたらきっともっと楽しかったのかも。シドもさ、きっとそう思ってるかもしれないね」
「……そうですね」
 

──アールとタケル。過ぎ去った記憶。
 
「シドさんは、アールさんに呆れているのですか?」
「訊くまでもねーだろ」
「なぜです? 確かに“彼”ほど前向きではありませんし、弱い面もありますが、自分と戦っているからこそあそこまで苦しんでいるのではないですか?」
「だからなんだっつんだよ。いくら自分と戦おうが旅を続けらんねぇなら意味ねぇだろ。力だけ身につけたって気持ちが弱けりゃ無意味だ」
「でも……」
「いくら戦っても結果自分に負けるときもある。どっちに転ぼうが俺達にはなんも出来ねーよ」
「なにも出来ない……」
 ルイは自分たちの無力さを思い知った。
「いや、違うな」
 と、シドは訂正する。「あいつが俺たちを頼ろうとしない限りは、だな」
「……そうですね」
「今のところ頼りにされちゃいねーよ。むしろ今は邪魔な存在だ。電話拒否されてんだろ?」
「えぇ……」
「まぁお前も考えすぎんなよ。お前まで動けなくなんぞ」
 と、シドは起き上がった。「なぁ……」
「はい?」
 
「──なんでタケルじゃなかったんだろうな?」
 
そう言ってシドはテントへと戻って行った。
 
(離合集散8…『リトール町へ向かう道程』より)

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