voice of mind - by ルイランノキ


 一蓮托生12…『シド』



──深夜の電話。記憶の欠片。
 
『へぇ。城に戻って泣き寝入りしてるかと思いきや、呑気にペットを育ててるわけだ?』
「違うよ! スライムは今日貰ったばかりでっ……」
『んじゃ、なにしてたんだ?』
「……休んでた」
『あーそう。ならそのままずっと休んどけ。帰ってこなくていいぞ』
「……なにそれ」
 と、アールは不快感を示した。
『お前が帰ってきたってまた迷惑かけるだけだからな』
「…………」
『お前がいなくても旅は順調だ。むしろお前がいなくなったお陰で、順調だ』
「……そう」
『お前を城に戻すとルイが判断した。だからルイは責任を感じて心配してるだけだ』
「うん」
『カイは男だけの旅に耐えられねぇからお前に戻ってきてほしいって思ってんだ』
「うん」
『お前じゃなくてもいいってわけだ』
「…………」
『お前は──』
「用無しってわけか」
 言われる前に察して口に出したその声は、自分が思ってた以上に小さくて弱々しかった。
『わかってんじゃねーか』
「用無しか。よーくわかった」
 と、弱々しさを取り消すように語調を強めた。
『あっそ。じゃーな。お前と話してる時間がもったいねぇ』
「──最後にひとついい?」
『なんだ?』
 
「タケルが生きてたら、タケルがグロリアだったらよかったと思う?」
 
しばらく、沈黙があった。
シドの突き放すような言い方に苛立ち、やけくそで訊いたようなものだった。どんな言葉が返ってきても、受け入れるつもりだった。だけど──
 
 
『お前もタケルと同じ道を歩めばいいと思うよ』
 
 
そう言って電話は切れた。
 
「どういう意味よ……」
   
(離合集散21…『同じ道を辿れ』より)


━━━━━━━━━━━
  
地響きがした。それに驚いたのはVRCの受付をしていた男と、その付近にいたヴァイスだった。ただの地震ではないことはわかる。ヴァイスはVRCに走り、受付の男と顔を見合わせた。
  
「今のは?」
「あ……アールさんが入られた個室からのようです」
 
バーチャル世界にとどまらずに放出された力が地面を揺るがしたようだった。
しばらくして、アールが使用していた個室のドアが開いた。中から出てきたアールはすっきりとした晴れやかな表情をしていた。
  
「ヴァイス! すっきりしたよー」
 と、額の汗を拭いながらその場に座り込んだ。
「なかなか出なかったものがドバーッて出た感じ!」
  
まるで長い便秘が解消されて清清しい表情でトイレから出てきたかのようである。
 
「……魔力の話か?」
「それ以外なにがあるの? でももう一回出せるかどうかはわからない。昼食食べたらまた挑戦してみる」
 と、立ち上がったアールの肩に、スーが飛び乗った。「スーちゃん!」
 
スーはアールに拍手を送った。──魔力発動おめでとう。と言っている。
  
「ありがとね、スーちゃん!」
  

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