voice of mind - by ルイランノキ


 一蓮托生3…『存在する意味』

 
『──というわけで、協力し合えませんか』
「協力ねぇ……」
 と、シドは鼻で笑う。
 
ルイから早々と組織に入るかどうかの返答が来たのかと思いきや、違った。敵対している者同士が協力し合うなどなんの冗談かと思わざるおえない。しかしながらルイの提案に即断らずに考えるのは少なからず同意する気持ちがあるからだ。
 
アリアンの塔。存在するのかどうかも不明なものをろくな手がかりもなく探すのは困難だった。長い間、誰の目にも触れられずにいたとなると、魔法かなにかで隠されているに違いなく、物理的に探すのは不可能だろう。自分よりは魔法に詳しいルイがいれば少しは役に立つかもしれない。
 
「協力し合うっていう言い方をするってことは、こっちの仲間になる気はないんだな」
『……僕はシドさんが言っていた真実に核心が持てないんです。これまで言い伝えられてきた歴史を覆す決定的ななにかがその塔で見つかれば、考えが変わるかもしれませんが』
「女も連れて行くのか?」
『それは……もちろん。イスラ奉安窟でアールさんが何故か悪魔を封印する方法を知っていたのを覚えていますか。あのときのように、彼女にならわかることがあるかもしれない。あなた方と協力し合っている間は手を出さないと約束してくださるなら、彼女も連れて行くつもりです』
「…………」
『共に世界平和を望む者同士、手を取り合いましょう』
 
シドはしばらく考えたが、「わかった」と答えた。
組織の連中がアリアンの塔について調べていることは耳に入っていた。自分等に課せられた仕事ではなかったため、さほど興味はなかったが、ムスタージュ組織で生き残っている部隊は一から三部隊、そして十部隊だけだ。その十部隊も活動できるのは4人しかいない。その内一人は重傷を負っている。──となればアリアンの塔探しを任されるのも時間の問題だった。
三部隊の頭であるエルドレットがやられてしまった以上、副隊長を務める自分にこの事柄を決める権限があると思い、そう決断したのだった。
 
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「ヴァイス、こうして再び出会えたのもなにかの縁だと思う。我々の仲間になる気はないか」
「なに……?」
 
ハイマトス族の二人はヴァイスを連れてムゲット村の跡地に移動していた。ヴァイスが立てた村人の墓が見守る中で、勧誘を試みる。シドがルイにそうしたように。
 
「罪滅ぼしもしたい」
「…………」
「それに、この戦いが終わったら我々はハイマトス族を捜す旅に出るつもりだ。人間と共存出来ずに隠れるように生きているハイマトス族もいることだろうからな」
「…………」
 
ヴァイスはレビのことを思い返した。彼は元気だろうか。あの山に今も住んでいるのだろうか。それとも、もう一度人間との共存を試みただろうか。
 
「ハイマトス族は人間よりも遥かに寿命が長い。一時的な共存は出来ても、長くは無理だろうからな」
「…………」
「結局ハイマトス族は魔物でもなく人間にもなれない、はぶられた種族だと言う者もいるが、そうじゃない。ハイマトス族は特別な存在なのだ。我々はもう一度新たに村をつくろうと思っている。ハイマトス族がのんびりと過ごせる村をな」
「……それでまた感染病が流行れば村ごと焼くのか。それを繰り返すのか」
「…………」
 
男はため息をこぼし、虚空を見遣った。
 
「この種族を滅ぼしたいわけではない。むしろ感染病から身を守り、命を繋ぎ、遺伝子を残していきたいと思っている。──我々という種族はなんのためにこの世に生まれてきたと思う」
「…………」
 ヴァイスは黙ったまま男を見据えた。
「シュバルツ様に必要とされたからだ。彼が目覚める頃には集結し、彼の力になれればいいのだがな」
「なんだと……?」
「やはり知らないのか、我々の歴史を」
 と、男はヴァイスを見返した。
「歴史?」
「我々をこの世に生み出したのは、シュバルツ様だ。先祖が語ってくださった。この世界を守るために力を身につけようとかつて魔物を自身の体内に宿し飼いならそうと試みたシュバルツ様は黒魔術の研究を始めた。黒魔術で悪魔を召喚すれば契約内容次第では可能だろうが代償を伴うからな。研究の為に幾人もの人間が実験に使われ亡くなっている。しかしそのお陰で悪魔にしかなし得なかった“魔物を体内に宿す”ことに成功した。次にシュバルツ様が望んだのはその辺に虫のように湧いている小物ではなく、より強力な魔力を持った魔物を体内で飼うことだ。しかしこの世にいる魔物では満足が出来なかった。どれも大した力にはならない。それならば生み出せばいい。彼はまず、人間の女を破損しにくい身体にしてみせた。それから魔物の精子を採取し、生命力と今以上の魔力を与え、女の体内に入れた。魔物の精子は女の腹の中で成長し、何度も失敗を重ね、最終的には化け物を作り出した。──その過程で生まれたのがハイマトス族だ。人間の女の腹を突き破って出てきたらしい」
 
ヴァイスは吐き気を催し、地面に胃酸を吐き出した。
この世に存在するこの身体に拒否反応を示し、目眩がした。呼吸を繰り返し、目でものを見、口で言葉を話し、耳で音を聞く。この足で道を歩き、この手でものに触れ、生きていると象徴するように心臓が動き続けている。実験台にされた人間の身体を突き破ってこの世に生まれたこの身体が、生きようとひたすらに心臓が動いている。
 
「過程とはいえ、生み出してくださったのはシュバルツ様だ」
「生み出してくださった……だと?」
 口を袖で拭き、男を睨みつけるように見上げた。
「なんだ? 人間のような壊れやすい生き物でもなく、獣のように本能でしか生きられない生き物でもない。特別な人種を作ってくださった神だ」
「ふざけるな……」
「ふん、そうか。仲間になる気はない上に、我々の神を侮辱するか」
 と、男は地面に手をついた。ヴァイスをも囲む大きな魔法円が地面に広がった。
「ヴァイス。残念だ。あの日、この村と共に消し去るべきだったな」
「なにをする気だ……」
「調べたところによるとグロリアのお供をしているそうじゃないか。だったら尚更消さないとな。貴重なアーム玉だけは貰っておくぞ」
 
魔法円から槍のような岩が突き出してヴァイスの体に一撃を喰らわせた。
 
色とりどりの花が咲き誇るムゲット村に、血が舞い散る。ヴァイスの血が、淡く黄色い花の上にボタリと落ちた。血の重みで花はへしゃげてしまった。
 
「灰と化した村とは思えん美しさだな。同じ種族の仲間として死に場所を配慮してやったことに感謝してほしい。家族や愛する者が眠るこの場所で死にたいだろう?」
 
ヴァイスの懐の中にいたスーが飛び出し、体を大きく引き伸ばして彼らの前に立ち塞がった。
ヴァイスは呻きながら体を起こし、スーに言った。
 
「お前は手出しするな……。これは私の問題だ」
 

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