voice of mind - by ルイランノキ


 千思万考6…『用心棒』

 
シドがいない、二日目の夜も、物寂しい静けさに包まれていた。
目を閉じるとシドの顔が浮かんで、これまで共に旅をしてきた思い出が蘇ってくる。それがそのまま夢になって、夢の中でシドと会い、問いただす。どうして裏切ったの? 本当はなにか理由があるんでしょ? と。
夢の中のシドは、突然憎しみに満ちた表情を浮かべて斬りかかって来た。全身斬り刻まれて、夢から覚める。
 
「アールさん」
 と、声を掛けられ、布団から起き上がった。
「ルイ……おはよう」
「起きてらしたのですか?」
 起きてくださいと言う前にあまりに早く起きたため、そう訊いた。
「ちょうど起きたとこ」
「そうでしたか。コーヒー入れますね」
 
アールは布団を畳み、シキンチャク袋にしまった。ベッドではカイがまだ眠っている。辺りを見回し、ヴァイスがいないことに気づいた。
 
「ヴァイスはまた外?」
「えぇ、スーさんを連れて」
「あ、そういえばヴァイスのことなんだけど、人間と同じくらい睡眠時間をとったら身体が鈍っちゃうんだって」
「そうなのですか?」
 と、テーブルの上でポットからコーヒーを注ぐ手を止めた。
「うん、あまり眠らないみたい」
「なるほど……」
「カイとは大違いだね」
 と、笑った。
 
ルイがコーヒーを入れるとアールに手渡し、カイを起こしにかかった。
アールは座卓に移動し、静かにコーヒーを飲みながら、窓を見上げた。空が見える。天気はいい。
 
シドを説得できるだろうか。戦闘は避けたい……。
 
「カイさん、起きてください」
 何度か体を揺さぶり、カイは目を覚ました。
 
あまり寝付けなかったのだろうか。寝言もなく、いつもより早く起きたカイは目を擦りながらアールの向かい側に座った。ルイはカイに甘いコーヒーを注いだ。
ふたりがコーヒーを飲み終えるとルイは朝食に取り掛かった。その間、アールとカイはベッドをなるべく端に寄せてストレッチをはじめた。
 
「アール、柔らかくなったね」
「うん。すっかりね」
 
前屈をすれば、痛みもなくつま先に手が届く。旅を始めた頃は、90度に座るだけでもきつかったというのに。
 
「毎日がんばっていましたからね」
 と、ルイ。
「うん、誰かさんがスパルタだったから」
 
誰かさんのお陰で、旅に相応しい体つきになっていった。まだまだだけど。
ルイとカイは何も言わずに、それぞれの時間を過ごした。朝食が出来、ルイがヴァイスに連絡を入れているとき、カイの携帯電話に連絡が入った。デリックからだった。
 
「……どしたの?」
 と、浮かない表情で電話に出た。
『お嬢にかわってくれ』
「じゃー直接アールに電話してよめんどくさいなぁ」
「なに? 私? 誰?」
 と、アール。
『わりぃ、お嬢の連絡先しらねんだわ』
 
カイは携帯電話をアールに渡すと、朝食を食べ始めた。
 
「もしもし?」
『あ、お嬢、俺っす』
「デリックさん! どうしたんですか?」
『俺の連絡先登録しといてもらえます? 電話してくれたらこっちも登録しとくんで』
「あ、はい」
『ところで例の件なんすけどね』
「例の件?」
 と、聞き返したせいでカイと、ヴァイスに連絡を終えたルイがアールに目を向けた。
『リアさんと謎の部屋について気になってたじゃないっすか』
「あぁ! 宮殿の……」
『あの部屋になにがあるのかわかった。エテルネルライト』
「エレツ……エテ……エテヌネ……」
『エテルネルライトっすよ』
 と、デリックは笑う。
「知ってますよ! 言いにくいから」
 アールは頬を膨らませた。
「エテルネルライト?」
 と、カイが会話に入ってくる。「なんの話してんの?」
「あ……ちょっとね」
 
ルイも気になっていたが、テーブルにつき、お茶を飲んだ。
 
『なんか研究してるみたいっすね』
「なんの?」
『エテルネルライトの』
「それはわかってます……」
『詳しくはまだわからんのです。ま、エテルネルライトってのはまだ謎が多いっすから、何が出来るのか試してるとこなんじゃないっすか?』
「あ、そっか」
 と、アールはルイに目をやった。
「そういえばルイが知らせてたね、ゼンダさんに。エテ……エテルネルライトを見つけた場所」
「……えぇ」
「なんか城内に開かずの間みたいなところがあって、リアさんが気になってたの。それでデリックさんが調べたらエテルネルライトが保管されてたみたい」
「なるほど……。リアさんにも知らせていなかったのですね。昨日その部屋に僕も招かれました」
「そうなの?」
「ヨーゼフさんがいらっしゃいました」
 と、詳しく話した。
『貴重なものだからな、厳重保管してるんだろ』
 と、話しを聞いたデリックがそう言った。
「城の方は今大丈夫なんですか? 騒ぎは……」
『まだしばらく用心だ』
「そうなんですね……。あ、デリックさん忙しい? って、忙しいですよね」
『なんすか?』
「シドん家に行ってくれないかと思って」
『なんでクソ野郎の家にこの俺が行かなきゃならんのですか』
「おねえさんたちが心配なんです。きっとシドのこと心配してるだろうし、それに……シドがいる部隊とはまた別の部隊も関わってて、一度シドの家の場所知られているからまたなにかあったら大変だなって」
 
カイがシドの家にいたときに、クラウンがカイを訪ねてやってきた。あの家が別の部隊に身を置いているシドの家だということまで知られているのかどうかはわからないが、用心にこしたことはない。
 
『なるほど、俺に用心棒を頼みたいってのか。俺こう見えてエリートなんすけどね』
「すみません……。デリックさんじゃなくても、手が開いている方がいたら……」
『いや、お嬢からの指令なら喜んで受けますよ』
「ありがとう。お願いします」
 と、電話を切った。
 

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