voice of mind - by ルイランノキ |
「あ! 後ろっ!!」
と、突然カイが叫んだ。
振り返ると、魔物が1匹、アール達の方へと走ってくるのが見えた。
「お前ヤれ」
と、シドがアールに言った。
「私?!」
「あいつは雑魚だ。お前でも十分だろ」
「……はい」
「アールさん、気をつけてくださいね。まだ体が完全に治ってはいないのですから……」
と、ルイだけはアールの心配をしていた。
「……うん」
アールは剣を抜き、身を構えた。体がキシキシする。ずっと同じ姿勢でいた時に感じるような違和感。
魔物は2メートル前で一度立ち止まり、姿勢を屈めた。
「来るぞ」
と、シドが合図を送った。
魔物が勢いをつけて走り出したと同時に、アールも魔物へと駆け出し、剣を振るった。
魔物はギャウ! と声を上げ、バタリと地面に倒れた。
何匹目だろう。自分の手で生き物を殺したのは……。
まだ慣れず、心が痛む。ヤらなければヤられると分かってはいても。
「まだまだだな」
と、シドが近づき、アールに言った。
「え……? 倒したのに?」
「剣捌きがなってねぇよ」
「しょうがないよ……習ってないんだから」
「俺の何を見てたんだバーカ」
アールがルイの結界にいるときは必ず、シドの動きを見ていたことに、彼は気付いていたのだ。
「俺に見惚れてる暇があったら学習しろ」
「見惚れてないしッ!!」
「何ムキになってんだ。冗談だろがバーカ」
「バカバカ言わないでよ! ムカつくなぁ」
「そうだよねぇ、シドはムカつくよねぇ!!」
と、カイがアールの味方になってシドに言い放った。
「あーウゼーウゼー」
シドは野良犬を払うように右手をひらひらさせて言った。
「なんだよぉ!!」
カイはまた反撃しようとする。
「喧嘩はやめてくださいね」
喧嘩が始まる予兆を感じたルイが、すかさず止めに入った。
カイとシドは直ぐ口喧嘩を始めるけれど、決して本気ではなく、基本は仲が良い。
「何してんだテメェ! 重いんだよ!」
「しんどいんだよぉー」
カイはシドの背中におぶさっていた。さっきまで喧嘩になりそうだった2人とは思えない。
「今さっき街出たばっかだろッ!」
と、カイを背中に乗せたシドが怒鳴る。
「でもしんどいんだよぉー…それに、俺をおんぶするとシドの為にもなるよぉ?」
「なんでだよ!」
「足鍛えるには良いと思うけどぉ?」
「……確かにな。……って、いいから下りろボケッ!!」
そんな2人の後ろを歩きながら、アールは彼等の仲良しっぷりを眺めていた。
「あの二人、仲良しだよね」
と、アールは横を歩くルイに言った。
「えぇ。基本は」
「犬と猫みたいだよね」
「そうですね」
と、ルイは笑いながら答える。
人懐っこい犬のようなカイと、我が道を行く野良猫っぽいシド。
「ルイは……2匹の飼い主だね」
と、アールは笑いながら言う。
「飼い主ですか? ではアールさんは?」
「私は……なんだろ」
──私は、迷い猫かな……と、アールは思った。
元々は飼い猫で、外に出たら家に帰れなくなって、外の世界に慣れていない飼い猫は、一人じゃ生きていけず。
「アールさんもいい飼い主になりそうですよ?」
と、ルイが言った。
「え……?」
キョトンとするアールに、ルイはニコニコと笑っていた。
魔物が現れるたびに、アールは複雑な心境で立ち向かっていった。
エスポワールというこの世界で初めて魔物を見たとき、咄嗟に振るった剣が運よく命中して一撃で倒すことが出来た。ルヴィエールの図書館でも、運よく一人で30匹もの魔物を倒すことが出来た。
──…運? 本当に運だろうか。
はっきりしないことばかりで苛立ちが募る。モヤモヤしっぱなしだった。
アールは暫し考えた。魔物を倒せたのは私の中で眠っていた力が何かをきっかけに、一時的に目覚めたのだろうか、と。それでも引っ掛かることがある。
また行く手に魔物が現れ、アールは鞘から剣を引き抜いた。握った剣を見つめ、思う。──目覚めたのは、あなたの力なんじゃない?“クロエ”……。
あの時「死ぬな」と聞こえた声も……。
第三章 ルヴィエール (完)
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