voice of mind - by ルイランノキ |
サラサラと風が木々の葉を揺らして、その風は息絶えたシオンの髪も揺らした。うつろな目でシオンを見つめるアールに声をかけようとしたカイだったが、名前を呼ぶことしかできなかった。
「アール……」
けれどアールはその声に気づきもしない。
ルイも肩をすくめ、かける言葉を見つけられずにいた。ヴァイスも同じだった。それでも虚脱状態に陥っている彼女を立たせようと、デリックがアールに歩み寄って肩に手を置いた。
「お嬢、第8部隊、討伐完了っすね」
「…………」
アールの眉間にしわがよった。
「俺の手助けは必要なかったっすね」
「そうですね」
冷静にそう答えたアールは、彼の手を振り払うように立ち上がった。その手に握られたグラディウスにはシオンの血がベッタリとついている。血を払い、ブレスレットに戻した。それから地面に落としていたデュランダルも拾い上げると、鞘に固定する為に巻いていた下緒を解いて腰に挿した。
その場を離れようとする彼女に、ルイが声をかける。
「アールさん……どちらへ?」
「一人になりたい」
ルイに視線を向けることなくそう答えた。
「……わかりました。なにかありましたら連絡を」
「…………」
アールが広場を去ってから、ルイはヴァイスを見遣った。口に出さなくても、ルイが言わんとしていることはわかる。彼女が心配だから自分の代わりに様子を見てきてほしいと訴えている。ヴァイスは、アールを追うように広場を後にした。
けれど、アールは広場の外で足を止めていた。振り返らずに、そこに横たわっていたアメリの亡骸を見下ろしながら言った。
「殺したんだね」
「あぁ」
額に銃口が撃ち込まれた穴があった。アールはしばらくアメリを眺めた後、「ついてこないで」と言って歩き出した。
ヴァイスは考え込み、肩にいるスーを見遣った。
カイは地面に座り込み、茫然と息のないシオンを眺めた。
「カイさん……? 大丈夫ですか?」
「あ……うん。アールは……大丈夫かな」
と、ルイを見上げるカイ。
「…………」
ルイはカイから目を逸らし、シオンに視線を落とした。
「よりにもよって……最初に人を殺したのがシオンちんだなんて、立ち直れないんじゃないかな……」
「お嬢の判断だろ?」
デリックは腕を組んだ。
「だからこそだよ」
と、ムッと口を尖らせる。「殺したくて殺したわけじゃないじゃん。肩を刺したときは咄嗟にだったけど……」
そこにヴァイスが戻ってきた。ルイが浮かない表情で訊く。
「アールさんは?」
「ついてくるなと。──スーを行かせた」
「そうですか……」
シドのことといいシオンのことといい、次から次へと重荷が増えて彼女に負担が掛かってゆく。そばにいてやりたいが、彼女はそれを拒むからなにも出来ない。
ルイはギリギリとした胃の痛みを感じた。
「大丈夫か?」
と、ヴァイスが気にかける。
「えぇ……」
地面に座り込んでいるカイは、動かなくなったシオンを静かに眺めていた。楽しかった思い出が、悲しみへと変換される。
彼女の笑い声が、記憶の中で虚しく響いた。
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「第8部隊が全滅したようです」
と、シドの耳に連絡が入った。
「全滅?」
「はい。ドレフさんが目をつけていた一味によって。第8部隊は元々隊長が不在だったようですし」
「なんでだよ」
「仲間割れのようです」
「……へぇ。頭がいなくなっても存続出来るんだな。──で? 8部隊のアーム玉は?」
「彼女らが持っているかと」
その報告をしたのはモーメルとミシェルを連れ去った内の一人だった。
「…………」
シドは窓の外に目を向ける。「女の様子は?」
「女……アールですか? 一人を殺した後、仲間から離れて今はひとりでいるようです。狙いますか?」
「一人を殺した?」
と、怪訝な顔で振り返る。「誰が誰を」
「そのアールという女が、8部隊のシオンと呼ばれていた女を、です」
「…………」
「どうかなさいましたか?」
「……いいや? おもしれー展開だなと思ってな。まぁまだ泳がせとけ。焦る必要はない」
シドはそう言って、薄ら笑いを浮かべた。
Thank you... |