voice of mind - by ルイランノキ


 悲喜交交31…『静かな夜』

 
この世界で死んで
アーム玉に宿って
この世界の為に使われて
 
使われて、
 
それから?
 
それで終わり?
 
そうなれば、それが私の人生として幕を閉じるだけ。
異世界に飛ばされ、そこで過ごし、生涯を全うする。
それが私の人生になるだけ。
 
これが運命だったのだと、受け入れるしかないだけ。
タケルのように。
 
━━━━━━━━━━━
 
ヴァイスも自分のアーム玉を手に入れ、用は済んだ。後はルイたちのアーム玉を取り返すだけだ。けれどサンジュサーカスが今どこにいるのかわかるはずもない。
 
一向はモーメルの家を出て、元いた休息所へ戻ってきた。
取り合えずテーブルを出し、ルイは晩御飯の準備を始め、他のメンバーはテント内へ。
 
「ジャックに電話してみる?」
 と、口に出したのはアールだった。
「居場所言うと思うのー?」
 と、カイ。「死にかけてるかもしれないのに」
 
確かに酷い怪我だった。その怪我が完治するまでは会おうとは思わないかもしれない。それにサンジュサーカスを襲った二人の男の存在も気になる。
 
「私が、アーム玉を手に入れたって言ったら?」
「正気か?」
 と、シド。
「誘き出すにはいいと思うんだけど」
「俺らのアーム玉を持って現れるかは別だけどな」
「そこはシドが脅せばいいよ」
「脅して吐くかよ」
「わかんないじゃない。なんにしても、もう一回会わなきゃ」
「どこにいるのかわかれば奇襲かけられんだけどな」
「テンプス街は?」
「んなわかりやすいとこにいるかよ」
「でも緊急でどっかに移動したんならありえるよ。それかもっとちゃんとしたアジトみたいなとこあるのかな」
「サーカス団だよ? 転々としてんじゃないのー?」
 と、鼻をほじるカイ。
「そっか。サンジュサーカスって、本当にサーカスやってたりしないのかな。元々本当にサーカス団で、ムスタージュ組織に勧誘されたんだったらありえると思うんだけど。そしたらサンジュサーカス知ってる人も多いんじゃない? 聞いたことある人くらいいるかも」
「もしかして聞き込みでもしようとしてるー? まぁ他に捜す方法なんて考え付かないけどさぁ、ムスタージュ組織の一員になってからもそんな目立つことするかなぁ」
 鼻くそを宙に飛ばした。
「目立つ格好はしてるけど」
 
晩御飯が出来ましたと、ルイが声を掛けに来た。真っ先にカイが飛び出し、シドもテントを出た。
 
「スーちゃん?」
 と、アールがヴァイスの肩を見遣る。
 
ヴァイスの肩にいるスーが目をパチクリとさせた。──なに?と言っている。
 
「たまには私と一緒にいてよ」
 と、手を伸ばした。
 
スーは目をパチクリとさせたあと、アールの手に飛び移った。
 
「スーちゃん借りるね?」
「あぁ」
 
アールはスーを連れて食卓へ。後からヴァイスも席に座った。
食卓を照らすランプの光。いつもよりも静かな時間が流れた。
 
スーはアールの食事の隣りに出した、水が入ったコップの中に浸かっている。なぜ自分を必要とされたのかわからず、アールを見上げていた。
 
「サンジュサーカスって有名だったりするのー?」
 と、ルイに訊いたのはカイだった。
「どういう意味ですか?」
「アールがもしかしたら組織に入る前は本当にサーカス団だったんじゃないかって」
「なるほど。調べる価値はあるかもしれませんね」
 
とはいえ、こんな時間では何かをしようにももう遅い。深夜にもう一度彼らが現れるとも考えにくい為、一晩ゆっくりと休むことにした。
 
全員が寝静まった頃、アールはテントを出て聖なる泉の縁に腰掛けた。シキンチャク袋から自分のアーム玉を取り出し、静かに眺めた。
ふと、タケルを思う。
 
──彼は、作らなかったのだろうか。
 
自分が今頃になって作ったのだから、タケルは作っていないのかもしれない。もしタケルのアーム玉があったとしたら、そこにどんな思いが宿っているんだろう。彼に力はなかったけれど、アーム玉には力だけでなく、思いや記憶なども収めておくことが出来ると聞いた。
 
ピョンピョンと、足元の視界に何かが近づいてきた。ヴァイスの元に戻ったはずのスーだった。
 
「スーちゃん?」
 
ということは、彼も近くにいるに違いない。
 
「ヴァイスは?」
 
スーは体から手を作って、森の奥を指差した。少し休息所から外れた先の木を背に、向こうを向いてに寄りかかっている。
 
「心配してきてくれたの?」
 アールがもう一度スーを見遣ると、拍手をして意思表示をした。
「ありがとう。──ヴァイスは眠らないの?」
 と、森に目を向ける。
 
ヴァイスは体の向きを変え、アールの元へ歩み寄った。そんな彼の肩に、スーが飛び乗った。
 
「睡眠時間を人間と同じように取っていれば体が鈍る」
「……ってことは人間ほどは眠らないってこと?」
 ヴァイスは小さく頷いた。
「そっか。じゃあ……いつも私達につき合わせてる感じだったんだね」
「…………」
「でもそれ、ルイにも言っておかないと。いつも心配してるんだよ? どこで寝てるのかって。ちゃんと眠れてるのかって」
「…………」
「私が伝えとくね」
「そうしてくれ」
 
ヴァイスはアールと距離を取って、泉の縁に座った。
アールは手の平に乗せたアーム玉をもう一度見遣り、シキンチャク袋にしまった。
 
星が全く見えない。明日は雨が降るのかもしれない。
 
「ヴァイスは、将来の夢とかあるの?」
「…………」
「もし、すべてが終わって、世界が救われたら。その後、どうするの?」
「……さぁな。先のことはあまり考えない」
 
アールは星を探すように夜空を見上げた。
 
「花火、したいね」
「……花火?」
「みんなで。手持ち花火。……ほら、カモミールっていう街でお祭りのあと花火があったじゃない? みんなバラバラで見ちゃったから。本当は打ち上げ花火がいいんだけど、手持ち花火でもいいや」
「…………」
「語り合いたいね。旅のこと。全て終わったら」
「…………」
「そのときは話してよ、将来の夢」
 と、アールはヴァイスを見遣った。
 
「考えておこう」
 
静かに夜が更けてゆく。
どこから来たのかわからない胸騒ぎを感じながら、アールは思った。
この会話がフラグになりませんように。誰かが欠けてしまう、死亡フラグに。
 

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