voice of mind - by ルイランノキ


 心憂い眷恋4…『彼女達の正体』

 
「アールさん!!」
 
ルイの結界がアールを包み込んだ。どこからやってきたのか、静かだった平原にルフ鳥が現れた。その数約20匹くらいである。
 
「ここの水綺麗だからかな」
 と、結界の中のアールは衣装をチェックしながら言った。「よかった汚れてない」
「ふふふん! おいらにおまかせくださる? あのときの俺とは違うんだから!」
 と、カイがブーメランを投げ飛ばした。
 
以前はルフ鳥に巣まで運ばれていたカイだったが、今は次々と頭上にいるルフ鳥を落としてゆく。倒しきれずに地面の上で暴れるルフ鳥はシドが仕留めた。
 
「なんで俺が後処理してんだよ」
「打撃で死ぬやつと死なない奴がいるんだからしょうがないじゃーん」
 と、一仕事終えたカイは武器を背中に背負った。
「死ぬように打ち所狙ってぶん投げりゃいいだろ!」
「簡単に言わないでくれるー? 俺この武器にしてからまだそんな経ってないんだからさぁ! 殺したくてもなかなか難しいんだよ!」
「だったら貸してみろ! 俺がそれで一発で殺してやる!」
「殺すだの死ぬだの連呼しないでよ……」
 と、結界から出たアール。
「おめーもいい加減慣れろ。殺しまくってきたんだろーが」
「…………」
 アールはムッとシドを睨んだ。
「シドさん。やめてください」
 ルイが注意すると、シドはふんと鼻を鳴らした。
 
ルフ鳥の羽もかき集めれば金になる。カイとルイは自然と抜けた羽根だけを集めた。
アールはぐっと背伸びをして、小さくため息をついた。──殺しまくってきた、か。
 
その通りだなと、沈んだ心で虚空を見遣る。
 
━━━━━━━━━━━
 
「じゃあ私はミートスパゲッティにしようかな」
 と、メニューを閉じるミシェル。
「俺はハンバーグ定食。ご飯は大盛りで」
「かしこまりました。メニューをお下げします」
 と、ウエイターは厨房へ向かった。
「やっぱルヴィエールは洒落た店が多いんだな、ログ街とは全然違う」
「そうね。ちょっと高いお店なんじゃないかって心配だったけど、お手ごろ価格だし」
 と、ミシェルは水を飲んだ。「そういえばアールちゃんたちの騒ぎって、すぐに治まったの?」
「いや、しばらくはお祭り騒ぎさ。今は旅人狩りになってる」
「なにそれ……」
「消化不良なんだよ。だからもう誰でもいい。弱そうな旅人が訪れたら金になりそうなもん奪ってる」
「ひどい……。でもお金になりそうなものなんて持ってるものなの? 旅人って高価なもの持ってるイメージないけど……」
「金に換えるものを持ってるんだよ。道中で見つけた宝箱に入ってたものから、いらなくなった武器、魔物の脚や羽根なんかも売れるし、そういうのを奪って金に換えるんだよ」
「そう……アールちゃんたちには言えないわね。特にアールちゃんはきっと自分のせいだって落ち込んじゃう……」
「あぁ、あの子はな……」
 
二人は暫く沈黙した後、おそらく互いに思っていた疑問をミシェルが口にした。
 
「アールちゃんたちって、何者なの?」
「……さぁな。聞いてないのか」
「アールちゃんとは今も仲良しだけど、詳しくは聞いてないの。ログ街では指名手配になって追われていたのよね? 詳細はなんだったの?」
「いや、俺もよくは知らねんだ。ただ……」
「ただ?」
 と、ミシェルは小首を傾げた。
「あいつらが悪い奴らだとはまったく思えねぇ」
 そう言ってワオンは笑う。
「ふふ、私もそう思うわ」
 
アールたちの話に夢中になっていると、注文していた料理が運ばれてきた。スパゲッティもハンバーグも美味しそうだ。
 
「あんなにポップコーン食べてたのに、よく入るのね」
「あれはお菓子だ。入るところが違う」
 と、大きな口でハンバーグに被りつくワオン。
「…………」
 ミシェルはガツガツと平らげてゆくワオンを見ているだけでお腹がいっぱいになりそうだった。
「ワオンさん、アールちゃんのことだけど」
「ん?」
「恋人、いるらしいの」
「……ほう」
「きっと心配してるわよね。彼も“外”に出てる人なのかしら」
「恋人がいるとは初耳だなぁ。いや、聞いたか? いや、聞いてないか」
「会えてないって言ってた」
「でもまぁ連絡くらいは取り合ってるんだろう?」
「わからない。なんだか訊けないのよ。寂しそうな顔をしていたから」
「…………」
「ごめんなさい。暗い話ししちゃったかな」
「いや、構わないが……。それなら尚更気になるな、なんで旅なんか」
「そうよね。それに、ゼフィル兵と繋がりもあるようだった」
「あぁ……そういやあいつらが指名手配になっていたときに出回ってた情報紙にそんなこと書いてたな。ログ街を乱す行為だってな。でもなんで……」
 と、ワオンは驚いた。
「ただの知り合いかしら。ログ街で私のことで色々あったときに、直接連絡していたのよ。ひとりの私服兵士が駆けつけていたわ」
「いや、その前に軍隊が来てんだよ。大勢でやってきて、西区域を仕切ってた奴らを捕まえていった。何が起きても見向きもされなかった廃れた街にだぞ。冗談かと思ったぜ」
「…………」
「…………」
 
食事をしていた手が止まる。彼女達は何者なのだろう。軍を動かす力でもあるというのだろうか。
 
「アールちゃんたちも、ゼフィル兵の一員だったりするのかしら」
「兵卒か、俺もそれは思ったよ」
「国に関わるお仕事をしているのなら、安易に人に話したりは出来ないわよね。恋人と離れ離れになってしまったのも、国からの命令で旅に出されたんだとしたら断れないだろうし。でもどうしてアールちゃんなのかしら。アールちゃん、そんなに強いの?」
「いや、特別強いってわけじゃねぇ。まぁ一般人よりは外を渡り歩いてきた分、それなりの力は身についていたとは思うが……」
「自ら志願した、とか? なにか目的があって」
「さぁなぁ。考えたってわかりっこねーよ」
 と、ごはんをかきこんだ。
「…………」
 
ミシェルはワオンを眺めながら、アールのことを考えていた。
 
「幸せになってほしいな」
 
そう呟いて、スパゲッティを口に運んだ。
 

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©Kamikawa
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