voice of mind - by ルイランノキ


 涙の決別28…『別れと旅立ち』


ルイたちに、なんて報告しようかと考えてた。
 
カイ、やっぱり旅やめるってさ。
 
そんな気軽に言える言葉ではなかったから。これまで一緒に色んなものを見て色んな経験をしてきたのに。
 
それでもカイが危険な目に合うよりはいいのかなって、思うようにした。
でも、見つけちゃったんだよね。
 
あの時、私がカイに進めた選択は、間違っていなかったかな?
今でも不安になるよ。
 

「──んで、俺のおかげで巨大魚を釣り上げたってわけ」
「えー、それ結局釣りの話じゃない!」
 と言いながらも、店員は楽しそうに笑った。
 
カイはアールがいるとばかり思っていた刀剣が置かれている場所に目を向けたが、いない。視線をずらすと、階段の下で呆然と2階の武器を眺めていた。
 
「アール、ごめんね話長くなっちゃった」
 と、隣に歩み寄る。
「カイ、カイは本当に旅をやめたいの?」
 アールは一点を見つめたまま、そう訊いた。
「……急になに?」
 アールはカイを見て、もう一度問う。
「旅、やめたいの? もうみんなと一緒にはいたくない?」
「……一緒にいたくないわけじゃないよ。旅だって、しんどいけどしんどいばかりじゃないし、やめたいわけじゃない。でも俺がいたら足手まといになるだけだから」
「足手まといにならなかったら?」
「え……まぁそりゃあ、旅をやめる理由はなくなるけど」
「カイは強くなれるよ」
「…………」
 カイは困惑した。
「“彼女”と別れる決断が出来るなら」
 
アールはカイの腰に視線を落とした。
その視線を辿るようにカイも自分の腰に目をやり、彼女に触れた。
 
「キャサリン……?」
 
カイが愛用している刀の名前だった。
 
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誰にだって向いていることと不向きなことくらいある。
子供の内から色んな習い事をさせるのは、我が子には何が向いているのか知るためでもあるだろう。
 
けれど時に、本人が望んだものは不向きで、興味がなかったものの方が向いていることもある。
 
「まだ戻んねぇのかよ」
 シドはテントから出ると、体をねじってストレッチをした。
「えぇ。でも雨が止んでよかったです」
 そう言ってルイは空を見上げる。雨雲の隙間から光が差し込んでいる。
「さっさと連れ戻してこい」
「……お二人をですか?」
 ルイの質問に、シドは答えなかった。
 
連れ戻してこい。その中にカイは含まれていないのだろう。
ヴァイスもテントの外で、木に寄り掛かって腕を組み、アールの戻りを待っていた。その肩に身を置いているスーも、町のほうを眺めながら戻って来るのを待っている。
 
ルイがテントをしまおうとしたとき、森の中を物凄い速さでなにかが飛んできた。シドの表情が険しくなり、刀を抜いた。
しかし、飛行物はシド、ルイ、ヴァイスの目の前でUターンし、森の奥へと戻っていった。
 
「な、なんだぁ?」
 シドが刀をしまうと、飛行物が戻っていった森の奥からアールが姿を見せた。
「アールさん……今のは……」
 と、ルイは言いさした。
 
アールの後ろから、カイが姿を見せたのだ。くの字の大きなブーメランを肩に担いで。
 
「思い出したの。もっとはやく気づくべきだった。カイは“投げる”命中率が高いって。シドに雪の球をぶつけたときも、拾った石を魔物に向かって投げたときも、私に武器を投げて届けてくれたときも、百発百中だった」
「──確かにそうですね」
 と、ルイは柔らかい表情でカイを見た。「自分に合った武器を見つけたのですね」
 
カイは少し照れ臭そうに頷き、シドに近づいた。
 
「あのさ……」
「使えない奴が仲間にいても足を引っ張るだけだ」
「…………」
 カイは視線を落とした。
「少しは使えるんだろうな?」
「え? あ、当たり前じゃん! 俺昔からブーメラン好きだし! ブーメランでりんご落としたことあるし!」
「──じゃあ行くぞ。」
 
シドが歩き出す。ルイは慌ててテントをしまった。
 
「レプラコーンは?」
 と、どこか嬉しそうなアールがルイに訊く。
「アールさんが町に戻ってから現れて、次のルートを教えてくれました」
 
詳しく説明し、一行は歩き出した。
クロエとキャサリンとの別れを胸に、カイの新たな武器、ブーメランを頼りに旅路をゆく。スーが嬉しそうにカイの頭に乗った。
 
「あ、見てみて」
 と、アールはヴァイスにチェーンのブレスレットを見せた。
「なんだ?」
「小さい剣がぶら下がってるでしょ? 予備の武器をここにつけたの。いつでもすぐに使えるように」
「賢いな」
「か、かしこい?!」
 
雨雲は風に流され、晴れ晴れとしている。
足どり軽く、次の目的地へ向かう。
 
「アール」
 と、カイ。
「ん?」
「後でさ、俺の話を聞いてくれる?」
「?」
「俺と……」
 カイは前方を歩くシドを見遣る。「シドの出会い、とか」
「シドとの?」
 正直、気になっていた。
「俺の過去もね。これから先、まだまだ一緒に旅を続ける仲間として、話しておきたいんだ。ま、大した話じゃないけどさ」 

第二十二章 涙の決別 (完)

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