voice of mind - by ルイランノキ |
アールとカイは雨の中を走りながら、宿に戻った。その表情は明るい。
宿のオーナーがバスタオルを用意してくれて、髪や体を拭いて部屋に入った。
「よく部屋取れたね、お金あったの?」
と、シキンチャク袋から着替えを取り出すアール。
「……貰った」
カイは目を泳がせながら窓の外を眺めた。
「貰った? 誰から?」
「…………」
「言えない人?」
「ヒラリーちゃん」
「シドのお姉さん? なんでまた……」
「お小遣いだって」
「ふうん……お礼言った?」
「もちろん」
「…………」
アールは首を傾げた。カイの様子がなにかおかしい。
「カイ……」
「はい、すいません。みんなの分もらいました。ごめんなさい」
と、振り返り、頭を下げた。
「もう……いくら貰ったの?」
「ひとり2万です」
「そんなに?! 大金じゃない! 返してきなよ!」
ひとり2万ということは全員で10万だ。ヴァイスの分も貰ってるのだろうか? シドは? シドは弟だから渡すに決まってるか。
「えー、せっかくのご好意じゃん。一度受け取ったお金をやっぱりいりませんって突き返すのってどうなの?」
「それ言い方じゃん。突き返すって……」
「ありがく貰おうよ。これから先武器を揃えたりなにかと必要になるかもしれないし。……あ、まぁ俺は旅やめるんだけどさ」
「カイ……」
そうは言っても、カイはどこか寂しそうだった。
「あ、ルイのところに戻る前に武器屋に行きたいんだけど、ちょっと付き合ってもらえないかな」
「さっそくお金使うんじゃん」
「貰ったお金じゃないよ。クロエが……クロエがいなくなってから、急に武器が重く感じるの。それでもっと軽くて使いやすい武器がないか見たくて」
「あー、そっかぁ。そういえばクロエはもっと細身の男かと思ってた」
「カイにも見えたの?」
「うん、大男の黒い影をね。声も聞こえたよ」
「そうなんだ……聞こえてないと思ってた」
アールは襖で仕切られた隣の部屋で服を着替えた。カイも着替えを終え、部屋を出た。
「傘、持ってる?」
「え、アールが持ってるんじゃないの?」
「……持ってないや」
──着替えた意味がない。
宿の玄関で呆然と外を眺めていると、呆れたオーナーがビニール傘を二本、貸してくれた。
武器屋は広々としていた。出入り口から見て右奥にレジがある。防具は置かれていない分、様々な武器がところ狭しに置かれ、壁には銃が掛けられている。左側には5段の階段があり、上るとそこにも打撃武器や投擲武器、射程武器が置かれている。
刀剣は1階だ。
「いろいろあるね。持ち上げたり鞘から抜いたりしてみてもいいのかな」
「もちろんだよ」
重さを確かめようと片手で鞘から引き抜いてみる。カイが率先して選び、「これは?」と、アールに渡す。
それを20代半ばの若い娘店員はカウンターに頬杖をつきながら眺めていた。
「ねぇ」
と、店員は思わず声をかける。
「はい」
「それ、あなたが使うの? 普通逆じゃない?」
と、アールとカイを交互に指差した。
アールとカイは顔を見合わせて苦笑した。
「こう見えて俺より強いんだ」
「ほんとに?」
と、目を輝かせる。「カッコイイ!」
「か、カッコイイ……?」
アールは戸惑いながらも、照れ笑い。
「女剣士、憧れてるんだ、私」
「へぇ、だから武器屋で働いてんの?」
と、カイが歩み寄る。
美人というほどではないが、カジュアルで人良さそうな店員だ。
「そうなの。私は剣士になって外の世界を旅するのが夢だったんだけど、父が許さなくて。一人娘だから」
「あー、そりゃそうだよねぇ」
「だからじゃあせめて武器屋継がせてよってね。ここで働いてると色んな旅話を聞けるから楽しいの」
「俺の旅話も、聞くー?」
カイのナンパがはじまった。
アールはひとりで武器を物色し始めた。どれも重く感じる。とはいえ、旅をはじめたばかりの頃と比べれば腕の筋肉はそれなりについている。
これは軽いと思った刀剣は随分と細く、突くにはいいが斬り裂くには頼りなさそうに思えた。
「……クロエの重さに慣れるしかないかな」
そう呟き、はっとする。もうクロエはいない。デュランダルという名の名剣だ。
アールはちらりとカイを見遣った。手振り羽振、冒険話を聞かせている。店員は店員で興味津々に話を聞いているため、邪魔しないようにと暫く店内を見て歩くことにした。
Thank you... |