voice of mind - by ルイランノキ


 涙の決別8…『ヘリに乗って』

 
一行はビトラム家で朝食をご馳走になり、ルイがカイに一言連絡を入れてからスポーク町へ向かうことになった。
 
ビトラムは広々とした裏庭にある小型飛行機へと一同を促した。
 
「こいつを動かしてやりたかったんだ。ちょうどいい」
 と、ビトラムは機体を軽く叩いた。
「動かしてやりたかった?」
 と、シド。
「修理したばっかでな!」
「大丈夫かよ……」
「それは動かしてみないとわからないだろう?」
「あなた」
 と、ココアがハナを連れてきた。「運転しなれているヘリコプターにしてください」
「してくださいっ」
 と、ハナが真似をした。
「冗談だよ冗談。そもそも滑走路がねぇのに小型飛行機をここから飛ばせるわけないだろ。──さ、ヘリに乗ってくれ」
 
一行は4人乗りのヘリコプターに乗り込んだ。後部座席に無理矢理3人座らされる。アールが窓からハナに向かって手を振ると、ハナは跳びはねるように両手で振り返した。
 
「おまえら忘れもんはないな?」
 
操縦席に乗り込んだビトラムがエンジンをかけるとプロペラが回り始めた。
隣の副操縦席に座っているヴァイスのコートの中からスーが飛び出した。肩に乗り、窓の外を眺める。
 
機体がゆっくりと浮上し、目的地へ飛び立った。
 
アールは目を輝かせながら窓にへばり付くように眼下を見遣った。風があるため、機体は上下左右に揺れている。怖さもあったが、興奮のほうが勝った。
 
「すごい! 飛んでる!」
「アールさん、ヘリコプターは初めてですか?」
 と、シドとアールに挟まれて座っているルイ。
「うん! 超感動!」
「僕からしてみればスーパーライトを乗りこなしていたアールさんの方が凄いのですが」
「スーパーライト?」
 と、ルイの方を見た。
「城から戻ってきたときにアールさんが乗っていた機体ですよ」
「?! 私が壊したやつだ……」
「えぇ」
 
確かにそうだ。けれど自分で操縦するのと、小型飛行機とヘリでは感動が違う。
それにあの時は感動よるも恐怖心の方が勝っていたし、とにかくみんなの元に急ぐことに必死だった。
 
「スポーク町の様子を上から確認出来るのは助かりますね」
「うん、バシリスクの大きさも気になるし」
 
上空からの景色に興奮していられるのもつかの間だった。
徐々にスポーク町の跡地が見えてくる。跡地と思われる一角は大きな黒い埃のようなものでうめつくされていた。その黒いベッドの中で眠るように、大きな体を寝かせているバシリスクの姿を捉えた。
 
「一面を覆っている黒い物体はなんでしょうか。あれがフフルド?」
「想像と違うんだけど……」
 と、アールは眉をしかめた。「音もなく近づいてくるどころか一面に固まってるじゃん……」
「増えたんだろうな」
 と、シド。
「どうするんだ? 引き返すか?」
 と、ここまで連れて来たビトラムが案じて言った。
「いや、降ろしてくれ」
 
一行を乗せたヘリコプターはスポーク町の跡地から少し離れた場所に着陸。ビトラムも機体から下り、ルイに一枚のメモを渡した。
 
「無理するなよ? 此処で待っていてやるからなにかあったら連絡しろ。いざと言うときは上空から梯子を下ろして助けてやる」
「ありがとうございます」
 
ビトラムに見送られ、足早に跡地へ急いだ。
 
「町だった形跡が残ってないから身を隠すところがないね……」
 と、跡地のすぐ手前で立ち止まる。
「えぇ、ですが固まっているのは好都合です。出来る限り結界で囲んで数を減らします」
「全部倒すの? じゃないとバシリスクと戦えないか……」
「えぇ……もしくはバシリスクからフフルドを遠ざけられたら戦い安くなりますね」
「どうやって遠ざけんだよ。“おとり”は今日はいねーぞ」
 カイのことだった。
 
アールは目を細めながらフフルドを観察し、訝しげに言った。
 
「こんなに近くにいるのに何で一匹もこっちに向かって来ないの?」
「…………」
 一同はフフルドを凝視する。
「アールさんが言っていたフフルドに寄生するエノックスというのはどのような姿なのでしょうか。フフルドとバシリスクしかいないようですが」
「成長すると人肉を貪るんだろ?」
「エノックスの見た目までは聞いてなかった……。でも寄生虫って言うくらいだから虫なんじゃ……」
 そう口に出しながら、想像するだけで背筋が凍る。
「とにかく突っ込んで行きゃわかるだろ」
「無謀ですよ。町をゴーストタウンにした魔物ですよ。計画を立てましょう」
 
レプラコーンに頼まれたバシリスクの舌を手に入れるだけならまだしも、クロエの故郷でもあったこの町の跡地で、クロエの望みでもある“親玉”の退治もしなければならない。
 
その“親玉”とは何を示しているのかもハッキリしない。憶測ではフフルド自体が親玉なのではないかと考えているものの、釈然としない。
 
アールはルイ達が作戦会議をしている隅で、首に掛けていたクロエを元の大きさに戻し、嵌め込まれているアーム玉を眺めた。
 
──クロエ。
ここは貴方の町でしょう? 親玉についてなにかわかるなら教えて。
 
アールは心の中で語り掛けた。なにか感じるものはない? と。
すると以前にも感じたドクンという“鼓動”が、柄から伝わってきた。心臓を握っているような脈を感じる。
 

──それは同時にさよならの時が近づいているということ。
 
私の強さの半分は、あなたの力だった。
あなたがいつも私に力を貸してくれていた。
あなたも立派な仲間の一員だった。
私がまだ剣を握ったことのない内から。
 
そう思ってた。
今も、思ってる。

 
「アールさん、始めに僕が動きます。結界である程度フフルドを囲み、倒します。それから足場と、出入り自由の結界をつくっておきます」
「足場?」
「高い位置からも攻撃が出来るように、結界でいくつか」
「なるほど、わかった」
「そのあと僕は回復や援護にまわります」
「シドは?」
「俺はとにかくぶった斬る」
「無計画……?」
「どんどん倒さねぇとバシリスクと戦う頃には体力も奪われるだろうが。こんな黒い塊に手こずってる暇なんかねんだよ」
「そっか。ヴァイスは?」
「ヴァイスさんにはバシリスクをお願いしようかと」
「ひとりで?」
「問題ない」
 と、ヴァイス。
「倒せなくても少しでもバシリスクの体力を削っておいてくだされば助かります」
「私はどうしたらいい?」
「アールさんは……」
 と、ルイはアールの右手に握られているクロエを一瞥し、言った。「様子を見つつ、シドさんに参戦を」
「わかった」
 

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©Kamikawa
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