voice of mind - by ルイランノキ |
「スポーク町の跡地? そんなところに行くゲートなんてあるわけないだろう」
一行はゲートボックスを使おうと思ったものの行けないことを知り、ツィーゲル町の受付所で話を聞いていた。
「ねぇーのかよ、使えねーな」
「なんだと?!」
と、喧嘩っ早いシドと受付所の男。
仲裁に入るのは決まってルイだ。
「落ち着いてください。では行く方法を知りませんか」
「知らないね。でも前にもスポーク町に行く方法を訊いてきた奴はいた。そいつがそのあとどうしたか知らないが、訊いてみる価値はあるんじゃないか?」
「その方は今どちらに?」
「知るわけないだろう」
「知らねぇーのかよ。使えねーな」
「なんだと?!」
「落ち着いてください。その方の名前や特徴はご存知ありませんか」
「腰に短剣を三つ挿してたな。あとは若い容姿のわりにハゲていた」
「わかったあいつだ」
と、シドが歩き出す。
「お知り合いですか?」
ルイは受付の男に頭を下げ、シドの後をついて行く。
「居酒屋で最初にバシリスクについて訊いた男だよっ。振り出しに戻されるみてぇで腹立つ!」
「振り回されてるみたいでもう歩きたくなぁーい……」
と、カイが足を引きずりながら歩き始めた。
「靴底が減りますからその歩き方はやめましょう」
「そうだよ、それに余計に疲れるよ?」
と、ルイとアールから注意を受けたカイは、ムスッとした。一番後ろを歩いているヴァイスを見遣る。
「おぶってくれてもいーよ」
「断る。」
「スーちんばかり肩に乗せてても飽きるでしょ、たまには俺が乗ってあげてもいーよ」
「断る。」
「ケチ! ヴァイスのヴァーはバカのバー!」
「…………」
「カイ、子供みたいで超カッコ悪いよ」
と、アールは呆れ顔でカイを見た。
「アールのアーは……汗くさいのア!」
「なにそれひどい!」
「謝りましょう、カイさん」
「ルイのルーは、ルックスしか自慢するところがありません、のル!」
「…………」
「なんかちょっとムリあるよね」
と、アール。「汗くさいより全然いいし」
「シドのシーは、死んだ目をしているのシー!」
「どういう意味だよっ」
と、ツッコミづらい。
「カイのカは?」
「可愛いしカッコイイし髪型素敵だし顔もいい! の、カー!」
「なんか色々ひどい」
「あーもう歩きたくない。なんのご褒美もなく歩きたくない」
「ちび女が乳揉ませてくれるってよ」
「あ、まじ? ありがとうございます。がんばります。」
「誰が揉ませるかッ!」
「揉むほどねぇもんな」
「コロス。」
「じゃあ確かめてあげよう」
「潰す。」
「さすることしか出来ねんじゃね?」
「ヴァイス、シドの頭撃ち抜いていいよ」
「──わかった」
と、ヴァイスはガンベルトから銃を抜いてシドに銃口を向けた為、慌ててルイが間に入って止めた。
「悪ふざけはほどほどに……。カイさん、疲れているのでしたらツィーゲル町で待っていてください。僕たちはバシリスクを倒したら戻ってきますから」
「あ、じゃあアールと待ってる」
「私は行くよ、クロエの仇とらなきゃ」
「えーじゃあスーちんと待ってる」
スーはヴァイスのコートの中に身を隠した。
「酷い! みんな俺のこと心配じゃないんだ!」
「なんの心配するのよ」
アールは冷たく言い放ち、カイを置いてシドについて行った。
カイは仕方なくツィーゲル町で待機することを決め、何をして暇を潰そうかと頭を悩ませる。宿を借りる金はない。そうなれば考えつくのはひとつだけ。
「おねぇさまーっ!」
シドの実家、バグウェル家へと急ぐ。
一方シド達は居酒屋に向かい、スポーク町へ行く方法を知っているかもしれない男と会い、事情を説明した。
「じゃああんたバシリスクを倒すことに決めたわけか」
「まあな」
「スポーク町に行きたいんならまず別の街に行ってそっからゲートでスポークに行くしかねぇな。俺が調べた限りではログ街に行ってからスポーク町へ行くのが一番安上がりだ」
「ログ街からなら行けるのか」
「まぁあの街はなぁ、やばい輩が多いから」
と、男はグラスに注がれた酒を飲んだ。
「他は? ログ街以外から行ける街はないのか?」
ログ街にはあまり戻りたくはない。自分ひとりならまだしも、大勢で戻るのは好ましくないだろう。
「イサイチという村に行けばそこから徒歩で行けなくはない。2日もありゃ着くだろうよ」
「2日もかかんのかよ……」
「もしくはその村にいるビトラムという男を訪ねてみるといい。スポークに行く手段を提供してくれるかもしれん。俺が知っているのはそれくらいだ」
「わかった。ありがとな」
と、シドは1,000ミル札をテーブルに置いた。「ショボいが一杯分出してやるよ」
「おぉ、ありがとう」
シドは店を出ると、店の前で待っていたアール達に知らせた。
「ログ街ですか……」
「もう随分前だから騒ぎは収まってるんじゃない? 懸賞金を出すって言って私達を賞金首にした人も死んじゃったわけだし……」
「えぇ、ですがまた騒ぎ立てるでしょうね。僕らは“逃げ出した獲物”が戻ってきたとしてまた追われるでしょう。懸賞金など関係なく」
「二度と戻れないじゃない」
と、肩を落とす。
「イサイチ村へ行きましょう。お金には余裕がありますからね」
一行は再びゲートへと向かい、スポーク町の跡地へ向かう為だけにイサイチへ移動した。
イサイチは村というだけあって家が少なく、田畑が広がっている長閑な場所だった。
畑にはキャベツや小松菜、じゃがいも、大根など収穫時期を迎えており、周囲には黄色い菜の花が咲き誇り、緩やかな風に揺れている。
「春って感じだね」
アールはそう言って、すぐ側を飛び回る蝶を眺めた。
四季が狂ってしまったこの世界で季節を感じる。
「春の村ですね。この村には力のある魔術師がいるようです」
「え、悪い人?」
「いえ、力があるからと言ってその力を悪いことに使う人ばかりではありません。この村は小さいですが、きちんと結界で守られているようですし、“春”を維持している」
「そんなこと出来るんだ……」
「大きな街なら難しいでしょうけれど」
田畑の道を歩きながら、最初に見つけた民家を訪ねてみることにした。
こんなに穏やかな場所に立ち寄るなら、カイも連れてくればよかったと、アールは思った。
Thank you... |