voice of mind - by ルイランノキ


 倚門之望35…『俺が』

 
森の中をさ迷う少年が一人。
足にはどろだらけのスニーカー、傷だらけの手には短剣が握られ、まだ幼い顔には手と同様に傷や痣が出来ている。
黒い髪をした少年は足元にあった石を蹴飛ばした。首にぶら下げているメダルが揺れる。
 
「くっそぉー! あのババァ! ぜってぇに許さねーっ!」
 
雄叫びのように空に向かって叫んだ少年は、突然表情を変えて目を細めると、森の奥を見遣った。
魔物が低姿勢で茂みの中からこちらを見ている。
 
「オレを餌にしようったってなぁ、無理なんだよバーカバーカ!」
 
石を拾い、魔物に向かって思い切り投げた。石は魔物に届かなかったもののすぐ脇の木に当たり、十分威嚇になった。
茂みから勢いよく魔物が飛び出してくる。モルモートだ。しかし少年は逃げるどころか仁王立ちをしたまま、向かってくるモルモートを睨みつけている。
 
そして、モルモートは少年から1メートル前まで近づいたところで足をぴんとのばして急ブレーキをかけた。少年を見上げ、鼻息を荒くしながら後ずさる。
 
「ざんねんだったな!」
 
いたずらげに笑う少年に、モルモートは背を向けて森の奥へと去って行った。
 
「それにしてもヒマだ。誰かいないかな。人がいい。旅人と出会わないかなぁ。腹へったし」
 
凹んだお腹をさすりながら、とぼとぼと歩き出す。
 
「やさしいおねえさんがいいけどいないよなー。外だし。ろくに風呂にも入ってないくっせー男しかいないだろうなー」
 
━━━━━━━━━━━
 
「可愛い女の子いないかなー。道端に倒れていないかなー」
 
カイは両手を頭の後ろで組み、退屈そうに言った。
 
「道端に倒れてたらとっくに魔物に喰われてんだろ」
 シドはそう言って欠伸をした。
「そういえばシドさん、面白い情報を手に入れたと言っていましたが、ライモンドさんからですよね」
 と、ルイ。
「あぁ」
「その情報は確かなのでしょうか。アマダットのことを調べて記事にしようとしていた人が何故そのような情報を……」
「しるか」
「情報料はどうされました?」
「あっ!」
 と、声を上げたのはアールだった。
 
そういえばライモンドにボイスレコーダーとフィルムの弁償代を渡す予定だったのをすっかり忘れていた。
シドはバツの悪い顔をしているアールを一瞥してから、鼻で笑った。
 
「情報料はボイスレコーダーとフィルム代でいいってよ。お前ぶっ壊したらしいな」
「げ。言わないでよルイの前で。恥ずかしいじゃない」
「アールさん……壊したのですか?」
「誤って踏んじゃったの」
 と嘘をつくアールに、カイが付け加えた。
「俺は誤ってカメラのフィルム抜いちゃったの」
「ありえねぇだろ! どう誤るんだよっ」
 シドはそう言って刀を抜いた。
 
前方に魔物が三匹現れる。シドはひとりで駆け出した。
 
「ところで情報ってなんの話?」
 聞いていないアールはルイに尋ねた。
「浮き島と、魔物を封印出来るアーム玉の話です」
「浮き島?」
 アールもカイと同じようにアーム玉よりも浮き島という響きに心を奪われる。
「上空に浮いている島のようです。しかしどうやってその島に行くのかは不明なのですよ」
 
ルイはシドから聞いた話をアールに説明した。浮き島に魔術師がいるということ。その魔術師は自由に過去へ行くことができるということ。そのアーム玉は魔物を封印した状態で今は沈静の泉に沈められていること。そのアーム玉を手に入れるには沈められる前の時代に行くこと。
 
「でも待って。過去に行けたとしてそのアーム玉を手に入れたとしても、中の魔物はどうするの?」
 
シドは三匹の魔物を斬り倒し、戻ってきながら言った。
 
「魔物を中に入れる前のアーム玉を手に入れんだよ」
「魔物はどうなるのよ。狂暴なやつだから閉じ込めたんじゃないの?」
「バカか。んなもん簡単だろ」
「え?」
「魔物は俺が倒す。それだけだ」
「…………」
 
シドはアールに背を向け、先頭をきった。
 
「──ねぇルイ」
「はい」
「超かっこつけてたけど、口先ではなんとでも言えるよね」
「そうですね」
 
「同感だ」
 
一番後ろを歩いていたヴァイスが呟き、頭の上にいるスーが拍手した。
 
 
第二十章 倚門之望 (完)

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -