voice of mind - by ルイランノキ


 倚門之望16…『ルイの部屋』

 
「ここが僕の部屋です」
 
階段の横の廊下を進んだ先に、ルイの部屋があった。
一人部屋にしては広く、男の部屋にしては整理整頓が行き届いている。
 
「イメージ通りだぁー!」
 と、カイはシワひとつないルイのベッドにダイブした。
「つまんねぇ部屋だなぁ」
 と、シドは室内を見回した。「グラビアアイドルのポスターくらい貼っておけよ」
「貼ってるんだ……?」
 アールが横目でシドを蔑む。
「どうだったかな、忘れた」
 シドはカイが寝ているベッドに腰掛けた。
 
アールは黒と白で統一された男の子らしいルイの部屋に落ち着かずにいた。男性の部屋といえば、雪斗の部屋にしか上がったことがなかったからだ。こうして部屋にお邪魔するとやっぱり男の子なんだなと、異性を感じた。
 
「座布団持ってきますね」
 と、ルイは立ちっぱなしだったアールとヴァイスに言い、部屋を出た。
 
「長居するの?」
 アールはシドを見遣った。
「長居してどうすんだよ。ゲームもねぇ漫画もねぇのに」
「おいとましたほうがよさそうだね。──でも」
 と、開けっ放しのドアから廊下を眺めた。「ルイは多分、まだいてほしそうだった」
 
何となくそう感じて言ったアールの言葉に、ヴァイスもシドも疑問を持ったりはしなかった。二人も同じように感じている。
カイは人のベッドだろうとお構いなしに横になって寝てしまった。
 
「もう少しいよっか。カイ寝ちゃったし、ルイもわざわざ座布団持ってきてくれるみたいだし」
 
するとシドは寝ているカイの頭を叩き、起こした。アールはてっきりカイを起こして帰ろうとしているのかと思ったが、違った。
 
「痛いなぁ! せっかく夢の世界の入口まで来てたのにぃ!」
「ゲーム機だせ」
「まったくもぉ。それ人に物を借りる態度かなぁ?」
 ぶつくさ言いながらも、カイはシキンチャク袋から携帯ゲームを取り出してシドに渡した。
 
「すみません」
 と、座布団を取りに行ったルイが戻ってきた。
 
床に並べ、ヴァイスとアールに「どうぞ」と言った。その顔は明るいとは言えない。
 
「ルイ、大丈夫? 顔色悪いけど」
「えぇ、大丈夫ですよ」
 いつもの笑顔がどこか辛そうに見える。
「何もありませんが、少しゆっくりしていてください」
 ルイがそう言ったとき、部屋をノックする音がした。ルイの母、メイレイだった。
「少しじゃなくて、泊まって行ったらいいじゃない」
「母さん……」
「せっかくなんだから。ねぇ? 隣に客間があるから、人数分のお布団、出しててあげるわね」
 そう言い残し、メイレイは部屋のドアを閉めた。
 
「……ルイ、私たちはどっちでもいいよ、迷惑なら帰るし」
 と、アールは浮かない表情のルイに言った。
「すみません……少し母と話してきますね」
 ルイはまた部屋を出て行ってしまった。
 
ベッドに腰掛けているシドはゲーム中で、その画面を斜め後ろから覗き込んでいるカイ。
床に座り、壁に寄り掛かっているヴァイス。
 
アールは座布団を引っ張ってヴァイスの近くに座った。
 
「ヴァイスも呼ばれたの?」
「あぁ」
「そっか。あ、ねぇシドはここがルイの住んでた街だって知ってたの?」
「俺は知んない」
 と、なぜかカイが先に答えた。
「聞いたことはあった気がするが、忘れてたな。故郷の話なんかそんなしねぇし」
「そうなの?」
「お前もだろ」
「……そうだね」
 
確かにそうだ。でも仲間なら話しそうなものだけど。
 
「それより気持ちわりぃな、この部屋」
「え、なんでよ」
 アールは部屋を見回した。気持ち悪いものなど特にない。むしろ綺麗で気持ちがいいくらいだ。
「ルイは長らく帰ってなかったんだぞ。ほこりひとつない」
「お母さんが掃除してたんじゃないの?」
「異常なくらいにな。窓は曇りも指紋もない。床も新品のカーペットみてぇだし、机も磨いたばかりのように部屋の電気の光が反射してる。ペン立て見てみ」
「ペン立て?」
 アールは立ち上がると、机に近づいた。机の棚に置いてあるペン立てを覗き込むように見遣り、怪訝そうに眉をひそめた。
「どうしたのー?」
 と、カイ。
「ほこりがない……」
「気持ち悪いだろ。ペンの上くらいほこりがたまってそうなもんだが箱から出したばかりのようにピカピカで」
「凄いよこれ……ペンをノートとかに引っ掛ける部分があるじゃない? その内側にもほこりとかゴミがない」
 
ペン立て自体も、よく見れば異常だった。
編み目状になっているペン立てで、普通に毎日使っていても編み目の部分に白いほこりが溜まるものだが、どの編み目も綺麗なままだった。
 
漸くシドが言った“気持ち悪い”の意味がわかる。
 
「子供の部屋の掃除をするのは別におかしいことじゃねぇよ。ただ、やり過ぎだ」
「超綺麗好きなのかも」
「…………」
「潔癖症的な……」
「だといいが、お前もあの母親の異常さに気づいてんだろ。最初から」
「…………」
 
黙り込んでしまったアールに、カイが言った。
 
「よくわかんないんだけどさぁ、ルイとあのお母ちゃん、なんかあんの?」
「……わからない」
 アールは座布団に座り直した。
「ルイの生みのお母ちゃんはなんで死んだんだっけぇ? 病気かなぁ?」
 
ヴァイスは静かに座っている。カイたちはまだ、ルイがアマダットであることに気づいていなかった。
 
「俺が思うに」
 と、シドがゲームを中断してカイを睨んだ。「お前はどっかで話を聞き間違えてんじゃねぇのか」
「ほえ? 急になんの話?」
「アマダット。あれはルイのことだろ」
「え?」
 アールとカイは口を揃えて聞き返した。
「お前、ほんとにアマダットが“女”だって聞いたのか?」
 

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©Kamikawa
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