voice of mind - by ルイランノキ


 花の故郷22…『光る樹が見つめる先』

 
「いるよ……」
 
アールはそう呟いて、ポケットに携帯電話を仕舞った。
 
すっかり静かになった空には隠れていた星空は姿を見せていた。花火ほど眩しくはないけれど、星の光は消えることなくそこに止まって夜空を照らしている。
 
ルイは帰り道を歩いていた。一組のカップルが走りながらルイを追い越して、一本の樹の前で立ち止まった。ルイは微笑ましく二人を見遣った。なんの変哲もない樹に見えるが、二人はこの樹に定めたのだろう。
宿を目前にして、ルイは立ち止まった。宿の隣には細い道がある。その先に一本の立派な樹が立っていた。ただなんとなく気になり、その樹に近づいた。
 
シドは人混みから離れて遠回りをしながら帰り道を歩いた。宝探しでもしているかのように騒がしいカップルと出くわす。
 
「なにが楽しいんだか」
 
そんなシドも不意に立ち止まった。住宅街にあった、少し寂しげな樹。葉は殆どついておらず、枯れかけているように見える。その樹の枝に、なにかがぶら下がっていたのだ。
 
「なんだあれ」
 
目を細め、見上げた。手を伸ばしてもシドの背でも届かない。
 
一方カイはふて腐れながら、人にぶつかろうが関係なく帰り道を歩いていた。
 
「イチャイチャしちゃってさぁ!」
 
そんな彼が進む道の先に、見覚えのある女性が立っていた。
 
「あれ? 君、ヒミツさんじゃん」
「あ、カイさん……」
 カイがナンパした女の子だった。何を訊いても秘密でございますと言って教えてくれなかった。
「何してんの?」
「光る樹を探そうと思って……」
「ひとりで?」
「もし光る樹を見つけたら、運命の人と出会えるっていう願掛けのつもりで……」
 と、彼女は恥ずかしそうに俯いた。
「よし、じゃあ俺っちも一緒に探しちゃう!」
 
カイは彼女の運命の人になるつもりだ。
 
「いいんですか?」
「勿論だよ。俺ね、なんのために今ひとりでいたのかやっとわかったよ。それはね、君と──」
「さ、時間がないから早く探しましょ?」
「……はい」
 
カチカチカチと時計の針が時を刻む。
アールは帰り道を急いでいた。途中で出会ったカップルに道を尋ねると、この町の地図をくれた。これでもう迷うことなく帰れる。
 
花火の終了と共にお祭りも終わりに近づき、出店は店じまいを始めていた。他所から遊びにきた家族連れは予約していた宿に戻る人もいればゲートボックスへ直行する人もいる。親戚がこの町にいる人は親戚の家に泊めて貰ったり。遅くまで町に残ろうとするのはカップルだけ。一本の樹に一組のカップルが寄り添い、愛を誓い合うその時を待っている。
 
アールは足速に宿へ向かっていた。カップルを目にするたびに複雑な気持ちになる。
もし自分も雪斗と一緒だったなら、今頃一緒に走り回ってお気に入りの樹を見つけていることだろう。
 
そんな寂しさを振り払うかのように駆け出した。息を切らし、胸が苦しくなる。
 
そして、不意に立ち止まった。宿に戻る途中で仲間を見つけたからだ。
アールは息を整えて近づいた。
 
「こんなところで何してるの?」
 
カチカチカチと進む秒針がてっぺんに近づく。
この町に訪れた恋人達が見つめ合い、祈った。
そして秒針はその時を知らせるてっぺんを通り過ぎた。
 
「……わぁ」
 
アールは目を細めた。付近にあった一本の樹が、突然優しい光に包まれたからだ。思わず見惚れてしまう。その樹自身が暖かい光を放っている。
 
「綺麗! これってもしかしてあれかなぁ? 噂の光る樹?」
 
アールが感動しながら尋ねると、彼は言った。
 

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