voice of mind - by ルイランノキ


 百花繚乱33…『めいろ』

 
ルイとシドは岩山の洞窟内に足を踏み入れていた。
土の壁が複雑に張り巡らされており、牢屋など何処にもない。火を燈した松明が同じような道を照らしている。
 
「やはり洞窟に入る“時間”が関係していたのですね」
 ルイは辺りを警戒しながら言った。
「だな。じいさんが言っていた通り、迷路だ」
 シドは刀を右手に持ち、慎重に足を進めた。
「朝までにはテオバルトさんが見たと言っていた伝説の武器を見つけて戻りたいところです」
「じいさんから預かった地図があんだからちょろいだろ」
 
以前テオバルトが一人で洞窟に訪れたとき、道に迷わないようにと洞窟内の地図を描きながら歩き進めていた。
その地図を預かったため、目的地までの道程は問題ない。
 
ただ、地図には書かれていない道もあった。テオバルトは全ての道を通ったわけではないようだ。あくまで洞窟内で道に迷ったため、出口までの道を探り探り描いた地図といえる。
 
「こういった中途半端な地図を見ると、完璧に仕上げたくなりますね」
「だな。もしかしたら立ち寄ってねぇ道にも宝があるかもしんねーし」
 
最初の道を右に曲がったところで、待ち構えていた吸血コウモリと出くわした。
もう見飽きたと言わんばかりの顔をしたシドだったが、迷路洞窟に現れた吸血コウモリは戦闘力が高かった。そのため、油断していたシドは危うく相手からの攻撃をまともに喰らいそうになった。
 
「シドさん気をつけて!」
「わかってる」
 
少し苛立ちながら、狭い洞窟内で戦闘を繰り返した。
一段落ついてから、シドは言った。
 
「地図、完成させるのか?」
「そうしたいのは山々ですが、長居はやめて先を急ぎましょう。スキマスマキスさんを待たせていますし。伝説の武器を手に入れたら引き返しましょう」
 
迷路洞窟は、吸血コウモリ以外にもゲジゲジやクモに似た生物が現れ、アールが虫嫌いだと知っているルイは彼女がついて来なくて正解だったと胸を撫で下ろした。
 
「あんま強くねぇな」
 シドはそう言って刀についた血を払った。
「シドさんが強いのでは?」
「一理あるが、せっかく武器を強化してもらったってのに、これじゃ宝の持ち腐れってやつじゃねーの?」
 と、ため息をつく。
「問題は伝説の武器がある部屋ですよ。僕ら2人で手に入れられればいいのですが」
 ルイは地図を見遣った。一番奥にあるスペースに、赤いバツ印しがついている。
「楽勝だろ」
 
ルイは不安げに地図を眺めていた。
テオバルトが言っていた「一番奥の部屋」と思われる場所に印しがついてはいるものの、迷路の道が途切れた先のなにもない空間に印しがあるのだ。
これでは“奥の部屋”がどれほどの広さなのか検討がつかない。
 
「ルイ!」
 
突然名前を呼ばれ、ルイは顔を上げた。シドが自分に向かって刀を振るおうとしていたのを瞬時にしゃがんで交わした。
シドの刀はルイの後ろに迫っていた吸血コウモリを斬り裂いた。
 
「ありがとうございます」
 と、ルイは立ち上がる。
「お前こそ気をつけろよ」
「えぇ、すみません」
 
━━━━━━━━━━━
 
おかえり、と、シオンがテオバルトの家から顔を出し、アールを出迎えた。
 
「ただいま。お腹すいちゃった」
「ルイ君が下ごしらえしてくれてたから、すぐ出来るよ」
「わぁーい」
 
アールは空腹のお腹を摩りながら居間に入ると、背中にスーを乗せて俯せに寝ているカイと、そのとなりで短い足を伸ばして大の字に寝ているマスキンがいた。
 
「よく寝るなぁ」
 
アールは床に腰を下ろし、足を投げ出した。
カイはよく眠るが、この島はのどかでダラダラしたくなるのもわかる。
 
暫くして、シオンが夕飯を運んで来た。
小さな食事テーブルに煮物が並ぶ。
 
「私たち先に食べたから、どうぞ」
「ありがとう。いただきまーす」
 
アールはこんにゃくを箸で掴んで口に運ぶと、シオンに目をやった。シオンは囲炉裏の上に吊していたヤカンを取り外している。
 
「シオン、テオバルトさんと仲直りしたの?」
「…………」
 シオンは黙ったまま取り外したヤカンを持って流し台へ持って行った。
 
仲直りしてないのか、とアールは察した。
「うぅーん……」と寝返りを打ったカイの服がめくれ上がり、お腹が丸出しになった。
いつもだらけているわりに腹筋が割れていたが、アールはそんなことよりも寝返りを打ったことで下敷きになったスーを気にかけた。
慌てて箸を置き、カイの体を傾けた。
 
「スーちゃん大丈夫?!」
 
スーはカイの背中と床の間からニュッと出てくると、目をぱちくりさせた。
 
「よかった。気をつけてね、カイは寝相が悪いから」
 そう言ってめくれ上がっていたカイの服を下ろしてお腹を隠した。
 
「仲直りするタイミングって逃すとズルズルしちゃうよね……」
 
アールはスーに言いながら、ご飯を口に運んだ。スーは大の字に寝ているマスキンのお腹の上に乗って、アールを見つめた。
 
「そもそも喧嘩してるわけではないと思うけどね。詳しくは知らないけど」
 
自分達が島を離れる前に仲直りしてくれたらなと思っていると、シオンが居間に戻ってきた。その手には一切れのスイカ。
 
「食べるでしょ? 甘いよ」
「あ、うん! 今は夏?」
「今は季節外れよ」
「ん?」
 
言葉が噛み合っていないような気がする。
 
「私またちょっと畑行ってくるね」
「あ、うん」
 
シオンが外に出て行ってから、むくりとカイが起き上がった。
 
「わぁ! びっくりした……」
 と、アールはカイを見遣る。
「季節外れ。それはすなわち、四季から外れた期間のことを示すのです」
「え?」
「季節外れ。ふたつの意味があるんだよ、タケ……ル」
 と、後ろにバターン!と倒れて再び眠りこけたカイの代わりに、マスキンが驚いて目を覚ました。
「タケルじゃねーし」
 アールは頬を膨らませた。
「え、タケル? は?」
 マスキンは目を擦った。
「こっちの話。──マスキンさんはスイカ食べた?」
「食べましたけど? 呼び捨てでいいですシオンさん」
「私はアールだよ」
「そうでした」
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -