voice of mind - by ルイランノキ


 相即不離33…『泳げます』

 
アールは水面に顔を出したが、直ぐに沈んだ。掴まるものがないと浮けないのである。
ルイは視界が歪む中、アールを見つけて背中から腕を回し、水上に連れて上がった。
 
「アールさん! 大丈夫ですか?!」
「──?! ──ッ!!?」
 アールはじたばたと暴れている。
「落ち着いてください!」
 アールは体の向きを変えてルイにしがみついた。
「ルイごめん! 浮けない私!!」
「アールさん刀剣は?!」
「ない!」
 
流れた瞬間に武器を手離してしまった。
 
「探してくる! 泳げるから私!」
「え……?」
「浮けないだけで泳げるから!」
 
アールはそう言って息を吸い込み、水中に潜った。しかし目の前に河童の顔があり、吸い込んだ空気を半分吐き出してしまった。
河童はアールの足を掴んで底へと連れていく。アールは反対側の足で河童の頭を蹴り飛ばそうとしたが水中だと勢いが出ない。──息が苦しい……。
 
沈静の泉を思い出し、気分が悪くなった。
辺りを見ても濁っていてあまり広い範囲まではっきりとは見えない。
武器があれば……そう思ったとき、何か大きな物体が目の前に流れてきた。──斧だ!
手に取り、刃を河童に向けると河童はアールの足を離して今度は背後に回ってきた。
斧を離して背中に手を回すが、捕まらない。
残りの空気も吐いてしまいそうになり、口を塞いだ。背中に鋭い痛みを感じた。河童の爪が防護服を破って背中の皮膚を引き裂いたのだろう。溢れ出た血がゆっくりと水中を広がってゆく。
アールが気を失いそうになったとき、ふいに背中にしがみついていた河童が離れた。振り向くとシドが河童の首を絞めていた。シドの刀が河童の腹部に突き刺さる。
 
──空気……
 
アールは空気を求めて必死に水を掻いた。しかしまた別の河童が水面との間に姿を現した。
そこへルイが潜ってくる。ルイは河童に背中からしがみつき、アールに目配せをしてここは自分に任せてと伝えた。
アールは苦しげに頷き、なんとか水面に顔を出した。
 
「ぶはぁーっ!」
 思い切り息を吸い込み、再び潜った。というより、沈んだ。
 
アールはどうにか浮きたくて壁に手をつき、バタバタと足を動かした。──だめだ沈む!
 
ザバン!と、シドとルイが水面から顔を出した。アールはルイにしがみつき、息を吸って咳込んだ。
 
「仕留めました」「仕留めたぞ」
 2人は声を揃えた。
「ありがとうルイ」
 と、一先ずルイに例を言ってからシドに目をやった。「ありがとうシド。なんでいるの?」
「俺が聞きてぇよ」
 そう答えた瞬間、水面から河童が飛び出してきた。──が、天井に頭をぶつけて沈んでいった。
「……念のため留め刺してくる」
 と、シドはまた水中へ潜る。
 
河童は何匹いただろうか。確か5匹ではなかっただろうか。
突然アールがいる反対側から銃声が響いた。その音でヴァイスも来ていたのだと知る。
 
「ぎゃあああぁああぁ!!」
 と、今度はカイの声が響き渡る。
「なに……? カイもいるの?」
 アールは平泳ぎで向かったが、ふと武器を持っていなかったことを思い出して泳ぐのをやめると、沈んだ。
「アールさん!!」
 慌ててルイはアールに近づいたが、沈んだはずのアールが突如水中にチャポンと顔を出した。泳いでいる様子もなく、スイーッと頭を出した状態で流れてゆく。
「アールさん……?」
「溺れ死んでる。ミノタウロス。私の足の下にいる」
「なるほど……」
 
アールはサーフィンをするようにミノタウロスの背中に乗っていた。そのままカイがいる方に流れてゆくので、ルイは後を追った。
その後ろでシドが水面から顔を出す。アールの頭が水面を流れている状況がいまいち読めなかったが、後を追った。
 
「アールん!!」
 カイはアールに気づくと目を輝かせた。すぐ近くにヴァイスもいた。
 
アールはミノタウロスの背中から下りるとカイにしがみついた。
 
「カイなんでいるの? さっきの悲鳴はなに?」
「デッカイ物体が流れてたからビックリしたんだよぉ。牛に見えたけど……って、アールぅ、再会が嬉しいからってそんな抱き着くことないじゃないか照れるじゃないかぁ」
「違うの。浮けないの私」
「え、泳げないの?」
「泳げるよ。あ、ブタ……?」
 アールはブタと目が合った。
「ブヒッ。スキマスマキスですけど?」
「喋った! スキマ……スウィッチ?」
「マスキングテープです」
「……カイ、ブタさん日本語おかしくない?」
「ニホンゴってなにぃ?」
「あ、めんどくさいからもういい」
 
ルイが後から合流した。
 
「ここは罠が効かないようですね。アールさんを視界から外してしまいましたが、ここにいますし」
「ブヒッ。は? 罠はあくまでも森に仕掛けられてるんですけど? ここは洞窟ですけど?」
「スキマスマキスさんは詳しいのですね」
 と、ルイは一度聞いた名前をすぐに覚えていた。
「伊達に暮らしてませんから?」
「ところでお二人は何故ここに?」
 ルイはシドとカイに訊いた。
 
合流したシドは面倒くさそうにこれまでのことを説明した。
ルイとアールは天井を見遣った。確かに丸いマンホールがある。
 
「ではこの上にその魔術師が守り続けている何かがある、というわけですね? ──その前にお二人さん、ありがとうございます。おかげで僕たちが助かりました。スキマスマキスさんも」
「まぁ俺らは黄金しか頭になかったけどな」
 と、シドは言った。カイは大したことしていないが照れ臭そうに「どういたしまして」と言った。
「じゃあ早速上がってみる? でも上で魔術師が待機してたら怖いね……痛いッ!」
 アールは突然叫んで水中に沈んだ。
「アールさんっ?!」
 まだ他にも魔物がいたのかとおもいきや、アールはすぐに水中から顔を出してカイの肩にしがみついた。
「──ごめん怒られたのかも」
「怒られた?」
 とルイ達が声を揃えた。
「落としたの忘れてたから」
 アールは水中から自分の武器、“クロエ”を持ち上げた。「流れてきたみたいで足に軽く刺さったよ」
 

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