voice of mind - by ルイランノキ


 シャットダウン44…『夢幻泡影21』

 
足どりが重い中、丈瑠が待っている部屋へと向かう。
これまで一言も発しなかったシドが口を開いた。
 
「で、どうすんだ? 結局、なんでタケルを選ばれし者に仕立てた明確な理由がわかんねぇままだろ。それでも伝えるのか?」
「……騙し続けるわけにはいきませんよ」
「でもさぁ、でもさぁ」
 と、カイはルイの前に立ち、足を止めた。「タケル、ガッカリするよねぇ……? やっと自分の居場所を見つけたって感じだったしぃ」
「……ですが、いずれ話すことですから」
「すぐ話すのか? まだ黙ってたほうがよさそうな雰囲気だったぞ」
 そう言ったシドの意見に、ルイは考えが纏まらないようだった。
「本当の選ばれし者が現れてから、『こちらが本物です』なんて言えませんよ……。話すなら早い方がいいのではないでしょうか。考える時間も欲しいでしょうし」
「お前が話すんだよな?」
「……はい」
「わかった」
 と、シドは歩きだす。
「タケル、どんな顔するのかなぁ……」
 カイはそう言って俯きながらシドの後ろを歩く。ルイも続いた。
「……そうですね」
 
ルイはタケルにどう話を切り出そうか頭を悩ませていた。
人から必要とされ、嬉しく思う。世界のために役に立てるなら、この命は惜しまない。だけど、大きな覚悟をして旅立つことを決意した矢先に、「やはりお前は不要だ」と言われたら、自分でも心にぽっかりと穴が空いてしまいそうだった。
丈瑠が、結局どこに行っても自分は必要とされないんだと思ってしまわないだろうかと、ルイは暗鬱になった。
 
廊下ですれ違ったゼフィル兵が、丁寧に頭を下げてきた。
この態度も一辺してしまうのだろうか。
 
 
丈瑠がいる部屋の前へとたどり着き、シドはルイと目を合わせ、ドアを開けた。
丈瑠は部屋にあったベッドに腰掛け、ゲームをしていた。
 
「あ、おかえり! 遅かったね」
 と、画面から目を離し、言った。
「あぁ……」
 シドは軽く返事をすると、床に腰を下ろした。すぐにカイはシドの隣に座ると、気まずそうに視線を落とした。
 
ルイは部屋のドアを静かに閉めた。
 
「遅くなってすみません。話が長くなってしまって……」
 ルイがそう言うと、丈瑠は再び携帯の画面に視線を戻した。
「なんの話?」
 
丈瑠は知らないフリをした。
 
「タケルさん、実は……」
 
── Game Over
携帯のゲーム画面に、タイミングよく終わりを告げる文字が浮かび上がる。
 
「あ、もしかして俺の話?」
「え……はい……」
 ルイはドアの前に立ったまま、視線を落とした。
「俺が弱いから?」
「え……?」
「心配されてるとか。──俺、もっと頑張るよ。まだシドたちに頼ってるところあるし。いずれは世界を救うんだ。相応しい人間になれるように努力するし、強くなるから」
「タケルさん、あの……」
「あっ! このステージ難しいんだよなー。なかなか次のステージに行けないや。もっとレベルアップしないといけないか。今の俺と同じだ」
 と、ゲームオーバーで停止している画面を見ながら、丈瑠は笑った。
「タケルさん、話があるんです」
 ルイは意を決し、改めてそう言った。
「──それって今じゃないとダメかな」
「…………」
「あ、そういえば俺昨日、いい夢見たんだ」
「……なんの話ですか?」
 と、ルイは困惑する。なるべく早く伝えたかったが、タイミングが掴めない。
「みんなと楽しく過ごす夢。夢の中のカイは強かったよ?」
 と、笑いながらカイを見た。
 カイは笑顔を返した。
「シドは現実でも夢の中でも強くてさ、かっこいいんだ。ルイは相変わらず優しくて、豪華な料理を作ってた」
「タケルさん……今その話は……」
「ガッカリしたんだ」
 と、丈瑠は突然声のトーンを落とした。「楽しかった夢から覚めて」
「…………」
「現実も楽しいよ。でも夢の中の俺は現実より強くて……だからまだ覚めないでほしかった。もう少し、夢を見ていたかったよ。偽りだとわかっていても」
 
 
──もう少しだけ夢を見させてあげよう。
 
そんな甘い話しじゃない。
なぜもっと早く話してくれなかったのかと問い詰められ、「夢を見させてあげた」など口が裂けても言えなければ、そんな風には思えもしない。
けれど、丈瑠はまるでそれを望んでいるかのようで、ルイは結局、言い出せなかった。
 
丈瑠は知っていた。ゼフィル兵に聞かされた話はあくまでも“噂”だったが、戻ってきたルイ達の様子で確信に変わった。
自ら言うつもりはなく、ルイ達から話してくれるのなら聞き入れるつもりだった。
だけど、急に真実を聞かされるのが怖くなった。
 
──もう少し夢を見させてほしい。
 
咄嗟にそう思った。
何故かはわからない。また現実から逃げたかったのかもしれないし、嘘であってほしいと思ったからかもしれない。
真実を聞かされたとき、どんな表情をしてどんなセリフを吐けばいいのか、まだ思い付かなかった。
 
「まだ信じられないや……俺が選ばれし者だなんて。でも頑張るから。みんなの役に立ちたい……この世界を救いたいんだ」
 
そして暫く一人にしてほしいと伝えた。ただ少し休みたいからとだけ伝えて。
 

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