voice of mind - by ルイランノキ


 シャットダウン41…『夢幻泡影18』

 
旅を始めて3週間程が過ぎた頃、ルイの携帯電話に着信があった。
シドや丈瑠が戦闘中だったため、着信に気づいたのは結界のない休息所についてからだった。
外は雨。テントを出してみんながタオルで髪を拭いて服を着替えている中、ルイが着信に気づいた。──リアからだ。
テントの中では丈瑠とカイが着替えながら騒いでいるのでルイは外に出て自分を結界で囲み、雨を凌いだ。
電話を掛けなおすと呼び出し音が3回鳴り、リアが出た。
 
『もしもし、ルイ君?』
「はい。すみません、今着信に気づきまして遅くなってしまいました。なにかあったのですか?」
『えぇ。父が貴方達を呼び戻すようにと……。ワート魔法で出口のゲートを開くから、戻ってこれるかしら』
「今すぐに……ですか?」
『そうね。出来れば早いほうがいいわ』
「わかりました」
 
リアとの電話を終えたルイはテントへ戻り、仲間に伝えた。
 
「なんだそれ。なんかあったのか?」
 と、シドが面倒くさそうに言った。
「詳しいことはわかりません。とにかく、一度城に戻りましょう」
「来た道を戻るってこと……?」
 と、丈瑠は浮かない表情で訊いた。
「いえ、ワート魔法という移動魔法がありますから、それで戻ります。すぐですよ」
 シドがテント内を見回し、言った。
「物はどーすんだ? 一応片付けて行くか? 武器は置いて行くのか? どうせまたここに戻ってくんだろ?」
「……そうですが、一応持って行きましょう」
 
一同はテント内に出してあった着替えやカイのおもちゃなどを全て片付け、外に出た。ルイはテントをシキンチャク袋に仕舞い、ワート魔法で入口のゲートを開いた。
 
こうして一行は、ゼフィル城へと再び舞い戻った。
 
 
高級感のある応接間に集められた彼らだったが、そこに丈瑠の姿はない。
 
「なんでタケルは他の部屋で待たされてんだよ」
 と、シドが言った。
 
丈瑠は兵士用の個室で待つよう、ゼンダに言われたのだ。
 
「すまんな。この部屋しか空いていないんだ。なかなか洒落た部屋だと思わんか?」
 と、ゼンダは長い髭を摩りながら椅子に座った。「君達も座りなさい」
「話し逸らすんじゃねーよ……」
 そう呟き、仕方なくシド達も椅子に腰掛けた。
「それで……話というのは?」
 と、ルイが訊いた。
「タケルのことだ」
「タケルさん? それでタケルさんは別の部屋で待たされているのですね」
「よくねぇ話しか」
 と、シドが察した。
「良くない話ってなにー?」
 と、カイは首を傾げる。
「前置きは排除し、単刀直入に言おう。彼は──」
 
━━━━━━━━━━━
 
個室で一人、待たされていた丈瑠は、落ち着かない様子で部屋から廊下を覗いた。
 
「みんな遅いな……なんの話だろう」
 
不安が募る。
自分だけ待たされるなんて……俺の話だろうか。
それにしても広くて長い廊下だ。車が2台ぎりぎりすれ違えるくらいはある。廊下の両側には同じドアが一定間隔にあり、その内の一室のドアが微かに開いていることに気づいた。──誰かいるのだろうか。
 
丈瑠は部屋から出ようか迷っていた。出たところでなんの用もないが、部屋で1人、ずっと携帯ゲームをして待つのもなんだか落ち着かなかった。
 
──少しくらい歩き回っても怒られないかな……。
部屋を出てドアを閉めると、廊下の突き当たりからドアの数を数えた。なんの目印もないため、自分がいた部屋を忘れそうだったからである。
 
「左から、いち、にー、さん、しー……11番目か」
 
部屋の場所を記憶し、ドアが少し開いていて気になっていた部屋へと向かった。
そのドアの前まで行くと、中から男の話し声が聞こえてきた。
 
「あぁ多分な。つーかおかしいと思ってたんだよ」
「俺も俺も。どう見たって……なぁ? その辺にいそうな一般人だよ」
「ルヴィエール辺りから迷い込んで来た奴かと思ったよな!」
「アハハハハ! 確かにルヴィエールにいそうだな! ファッションセンスはありそうだったしな、あのTシャツ見たか?」
「見た見た。ちょっと欲しいと思ったよ。──でもまぁ俺達には出来ない格好だよなー。常に制服だし」
「あぁ……でもよ、ゼフィル兵になる前まではこの制服に憧れてたよ」
「俺も!」
 
中で話しているのは兵士のようだ。休憩でもしているのだろうか。
いつまでも立ち聞きしていては悪いと思い、部屋をノックしようとしたが、手を止めた。
 
「タケル……だっけ? 名前」
「そうそう。イケてるTシャツ君」
 
── 俺の話……?
 
「アハハハ! なんだよその呼び名!」
「略してイケティ様な。敬愛込めてみんな呼んでるよ。まぁさすがに本人には言えないけどな」
「そりゃそうだろ、馬鹿にしてんのかと思われる。失礼だろ」
「けどよ、噂が本当なら、敬愛する必要なくね?」
「ぷっ……まぁな」
「可哀相だよなー、選ばれし者だっておだてられてその気になっちゃってんのに、今更……嘘でしたーなんてよ」
 
──… 嘘?
 
「どう思うだろうね、イケティ」
「ぶはっ! やめろよその呼び方!」
「お前が言い出したんだろー? あはははは」
「真面目な顔でイケティって言うのは反則だろ! ──おっと、俺ちょっと便所」
「手ぇ洗えよ?」
「言われなくても洗うわ!」
 
丈瑠はハッとして後ずさったが、その場から動こうとはしなかった。
ドアが開き、談笑していた兵士の一人が顔を出した。
 
「あ……」
 丈瑠に気づき、青ざめる。
「あ、そうだ! もしイケティとすれ違ったらTシャツ譲ってくんねーか訊いてくれよ!」
 と、奥の部屋からもう一人の兵士が言う。
 
丈瑠の目の前にいる兵士は場の悪い顔を見せる。
 
「なんだよ。なんかあったのか?」
 奥にいた兵士が様子に気づき、立ち上がった。廊下に目をやり、面食らった。
「タケル様……」
 
「今話してたこと、本当ですか?」
 
丈瑠の問いに、2人の兵士は黙って顔を見合わせた。
 

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©Kamikawa
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