voice of mind - by ルイランノキ


 シャットダウン38…『夢幻泡影15』- RUI


〜RUI Voice of mind〜

 
彼にとっては全てが初めてのことで、わからないことも多く、不安もあるだろうと思い、僕達がサポートしていけたらと思っていた。
 
けれど彼は、どんなことにも怯まず、積極的で、理解力、判断力があった。
例え僕達が足速に歩いたとしても、その速さについていける気力があった。
 
彼の前向きさや明るさに、圧倒されるほどだった。
 
「俺はあの日、自殺したんだ。実際はこうやって生きてたわけだけど、一度死んだようなもんだから、今の自分は新しい自分として、強く生きて行きたいと思ってるんだ」
 
旅を始めたばかりの頃、彼はそう言っていた。
傷や汚れのない、新たな命を貰ったかのように、彼は輝いていた。
 
彼の前に立って彼の手を引くはずが、彼の後ろに立ち、時折背中を支えるだけで十分だった。
 
彼が怪我を負ってしまったとき、自分より他人の心配をする人だった。
 
「ルイ、力使わせてごめん」
「いえ、治療をするのが僕の主な役目ですので」
「でもルイは治療するだけじゃないよね」
「……? えぇ、攻撃魔法を使うこともありますが」
「ううん、そうじゃなくて、治療だけしてくれるならいいけど、心配もしてくれる」
「それは……もちろんですが……」
「怪我をしても治療魔法で治せるから問題ないのに、ルイはそうは思わなくて、怪我する度に心配して体を気遣ってくれる。──だからなるべく心配かけないように、もっと強くなるよ」
 
 
僕はただ、微笑むことしか出来なかった。
頼られなくなるのは寂しいことだけれど、治療魔法を専門とする僕を頼ってほしいと願うことは、“気にせず怪我をしてください”と言っているような気がして。
 
左腕に嵌めたバングルを摩り、思った。
──自分の力に怯えていては何も出来ない。治療魔法以外にも、目を向けてみよう……。
 
そう思わせてくれた。
 
星が散らばる晴夜。
夜になるといつも、彼と僕だけが遅くまで起きていた。
 
同い年の僕が言うのもなんだけれど、思春期なせいもあって、よく女性の話をしてくる。
 
「ルイはさ、どんな女の子がタイプなの?」
 布団の中で腹ばいになり、携帯電話でゲームをしながらタケルは訊いた。
「好きになった人がタイプ……でしょうか」
 僕は小さなテーブルを出して読んでいた本から目を逸らし、そう答えた。
「そう答える人っているよね。今まで好きになった人の共通点ってないの? それがルイのタイプっていうか、惹かれるところなんじゃないかな」
「共通点……」
 
僕は記憶のアルバムを遡った。──といっても、恋愛感情を持った経験はそう多くない。
 
「なにかに一生懸命な人……でしょうか」
「なにそれ」
 と、丈瑠は笑う。「沢山いるよ、一生懸命な人」
「確かにそうですね」
 と、僕も笑った。
「──でも僕は思うんです。いくら好きなタイプを並べても、それに当て嵌まる女性がいたからといって好きになるかどうかは別なのでは?」
「そう? 例えばさ、見た目可愛くて、性格は優しくて、気の合う子がタイプだとして、実際出会えたら好きになっちゃうと思うんだけど……」
「もう一人同じ条件に当て嵌まる女性が現れたら、そちらの女性も好きになるのですか?」
「え……うーん……」
「それとも早い者勝ちのように先に出会った女性を選ぶのですか?」
「わぁーっ、なんかわからなくなってきた!」
 
眠りにつくまで2人でそんな会話をしていたことを今でもはっきりと覚えてる。
 
彼は確かにそこにいて、僕らと共に旅をした。
 
ほんの短い時間だったけれど──
 

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