voice of mind - by ルイランノキ


 シャットダウン37…『夢幻泡影14』

 
──旅のはじまり。
 
目が覚めた丈瑠は、枕元に置かれている防護服に気づくと、すぐに着替えをはじめた。新しい靴も用意されている。なんの変哲もないツナギだが、身が引き締まる。──いよいよ旅が始まるんだ。
剣を腰に掛け、意味もなく抜いて構えてみる。鏡があれば何種類かポーズをキメているところだ。
 
「カイを斬り起こすのか?」
 と、笑いながらテント内に入ってきたシド。
「あっ……違うよ! ちょっとあの……気合いをさ」
「おい起きろっ」
 シドは寝ているカイの枕元にしゃがみ込み、おでこをひっぱたいた。
 
カイをたたき起こし、食卓を囲む。
丈瑠はまだ、誰かと食事を楽しむことに違和感を覚えていた。今まではずっと、一人だった。
中学時代までは、給食の時間になるとグループ分けされた班で机をくっつけていたが、自分の机だけは数センチ離されていた。珍しく班の一人に話し掛けて貰えたと思ったら、「これ食うだろ? やるよ」と、その子が嫌いなキウイを渡された。
自分は笑顔で受け取った。いつの間にか染み付いていた、気に入られようとする笑顔で。
 
「タケルぅ、防護服似合ってるねぇ」
 と、パンを頬張りながら言うカイ。
「あ、ありがとう!」
「防護服が似合うってどうなんだよ」
 と、シドは言う。「似合わねぇようになれ」
「……なるほど。防護服なんか必要なくなるくらい、強くなるよ!」
 そう丈瑠が意気込むと、シドは楽しそうに笑った。
 
朝食を食べ終えて旅支度をしている中、丈瑠はテントを出てソワソワと辺りを見回していた。特に気になることがあるというわけでもなく、ただ落ち着かない様子で休息所内を意味もなく歩いている。
ドキドキしてきた胸をおさえた。これから何が待ち受けているのだろう。
きっとこれから様々な人との出会いや別れもあるのだろう。巨大なモンスターと出くわして、仲間と協力し合って倒したり、自分も経験を重ねてレベルアップしていったり、それから……。
 
「タケルさん? 準備が早いですね」
 ルイがテントから出てくると、外に出していたテーブルをシキンチャク袋に戻した。
「あ……うん」
 と、丈瑠はルイに歩み寄った。「その袋どこかで手に入るのかな。便利そうだから……」
「予備がありますよ」
 と、ルイはポケットから新しいシキンチャク袋を取り出して、丈瑠に渡した。
「使っていいの?」
「えぇ。使い方は──」
「あ、大丈夫。ルイの見てたから大体わかるよ。俺の着替え、ルイのに仕舞ってるんだよね?」
「はい。そちらに移しますか?」
「うん!」
 
旅立ちの日に相応しい晴天。
これから起こりうるまだ見ぬ未来に、丈瑠は思いを馳せた。
 
──新しい人生。
 
これからが本当の、俺の人生が始まるんだ。
もう二度と、逃げたりはしない。こんな人生はもう嫌だと言って、投げ出したりなんかしない。
どんなことが待ち受けていようと、受け入れて生きてく。
過去の自分に胸を張れる自分になるんだ。
 
「おい! さっさと行くぞ!」
 シドが声をかけ、休息所を出た。
「はいっ!」
 誰よりも声を張り上げて返事をした丈瑠の表情は清々しく、気迫に満ちていた。
 

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