voice of mind - by ルイランノキ


 シャットダウン28…『夢幻泡影5』

 
「──嘘を吐くのは心が痛む」
 と、窓のある廊下から庭園を眺めながらゼンダは言った。
「必要な嘘です。仕方ないでしょう」
 ジェイは全てを理解し、受け入れたように言った。
「……私の見間違いではなければ、あの少年の魂と肉体に繋ぎ目があった。針と糸で縫い合わせたような繋ぎ目だ」
「繋ぎ目?」
「ギルトが言っていた意味を、漸く理解できた。あの少年は……一度肉体を失っている」
 
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「ん……」
 ベッドで眠っていた丈瑠が目を覚ました。
「具合はどうですか?」
 そう訊いたのは、ルイだった。
「だいぶ……よくなりました……」
「それはよかったです。食事はどうなさいますか?」
「食欲はまだ……」
「わかりました。では、お腹が空いたら言ってくださいね」
 そう言って、ベッドの近くに腰を下ろしているルイは、本を開いた。
「なんの本……ですか?」
「“猫背の運転手”という小説です」
「面白そうですね……」
「はい、面白いのでつい何度も読んでしまいます。あとで読みますか?」
 と、笑顔を向けるルイ。
「はい……俺、小説好きなんで」
「そうですか! どのような小説が好きなのですか?」
 ルイはしおりを挟んで本を閉じた。
「えっと……SFとかファンタジーが一番好きですけど、ホラーや推理系も時々読みます」
「えすえふ? ファンタジーというのはどういう内容のものですか?」
「え、ファンタジーは……冒険ものです。モンスターを倒したり、魔法を使ったりして旅をする話が多くて」
「…………」 
 ルイは小さく首を傾げて言った。
「それはどなたかの自叙伝ですか? タケルさんもそういった生活をなさっていたのですか?」
「え? どういう意味ですか?」
「旅を、していたのでは?」
「え? してませんよ」
 と、丈瑠は笑った。「ファンタジー小説は夢の話ですから。モンスターなんか現実にはいないですし、架空の生き物ですよ?」
 ルイは驚いた顔をした。
「……タケルさんの世界には、モンスターはいないのですね」
「え……それってどういう……」
「この世界は、モンスター…、いえ、魔物で溢れているのですよ」
 
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灰色の雲が覆う空の下で、横たわっているモンスターを少年達が取り囲んでいる。
息を切らしながら、丈瑠は言った。
 
「ビックリした……死ぬかと思った……」
「さすがですよタケルさん!」
 と、ルイが声を上げた。
「やっぱ選ばれし者は違うなぁ!」
 と、カイが言った。
「そ、そうかな? 死に物狂いだったんだけど……」
「俺なら無理無理!」
 笑顔でそう言ったカイに、シドがすかさず突っ込んだ。
「バカか。雑魚モンスターに死に物狂いとか先が思いやれる」
「これで雑魚なんですか?!」
 と、丈瑠は驚いた。
「お前、力あんだろ? もっと上手く使い熟せるよう特訓が必要だな」
「はい!」
「ねぇーねぇー」
 と、カイが丈瑠をつついた。
「ん?」
「なぁんで俺にだけ友達口調で2人には敬語なんだよぉ……別にいいけど」
「え、だってカイは敬語じゃなくていいって……」
「ルイとシドにも友達言葉でいいよぉ……」
「そうですよ」
 と、ルイが笑顔で言う。「敬語はやめてください」
「じゃあ……ルイさんも敬語は……」
「すみません、僕は癖ですから」
「うぅーん……」
「なんで悩むかなぁ」
 と、カイは納得いかない様子だ。
「敬語使われてるのに、俺だけ友達言葉ってなんか偉そうにしてるみたいで……」
「いいじゃんかぁ。世界を救う選ばれし者! ちびっとくらい偉そうにしてもいいと思うよぉ!」
「……うぅーん」
「じゃあさぁ、ルイが敬語やめたらぁ?」
「僕がですか?」
「そうそう。んじゃ、今からルイは友達言葉でタケルと話してみて! お題は……今後について!!」
「……困りましたね」
 と、ルイは腕を組んだ。
「じゃあ俺から……」
 と、丈瑠が言う。
「この世界のこと、まだ知らないことばかりだけど、俺に出来ることがあるなら頑張ろうと思うんだ。ルイさ……ルイは?」
「僕は……えっと……そうで……そうだね、そんなタケルさんを支えることが出来ればと思って……るよ」
「あはははは!」
 と、カイは笑った。「なんで片言!」
「僕には難しいですね……」
「ルイは子供相手にも敬語だもんねぇ」
「……すみません」
「なぁ」
 と、シドが呆れ顔をする。「くだらねぇ話ししてねぇで魔物退治行くぞ」
「あ、はい!」
 と、丈瑠は元気よく返事をした。
「あー、また『はい』って言ったぁ。『うん』でいいのにぃ」
「俺、シドさんが戦うところ見たいです!」
「あ? ……まぁいいけど、この辺は雑魚ばっかだからなぁ」
 
そう言いながらも、辺りを見回しながら魔物を探すシドは意気込んでいた。
見つけるやいなや、刀を振るい、一発で仕留めてみせた。
 
「カッコイイ!!」
 と、丈瑠は歓喜の声を上げた。
「はぁ?」
「もっと見たいです!」
「テメェがやれよ! テメェの訓練のために外に出てきたんだろーが!」
「すいません……でも参考にしたいから……」
「ったく……しょうがねぇな。そのかわりちゃんと目に焼き付けとけよ?」
「はいっ!」
 
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ゼフィル城の敷地外裏にて、丈瑠はシドから剣捌きを習っていた。そんな彼等の姿を城から見据えていたのは、リアだった。
 
「──やっぱり黒魔術師ね。やることが卑劣だわ」
「必要なことだ。致し方あるまい」
 と、リアの背後に立つゼンダも、丈瑠を見遣る。
「必要? 関係のない人間を騙すことが?」
 リアは振り返り、ゼンダを睨んだ。
「下調べは必要だろう。別世界から人間を召喚させるのは前例もなく初の試みだ。どれ程の力を必要とするのか、試す必要があった」
「でもっ……」
「お前の気持ちはわかるが、現に力のない人間を召喚させることに予想を超えた力を使ったようだ。もしこれがグロリアだったなら、失態も有り得たのだ」
「彼が真実を知ったら……悲しむわ」
「少年が望むなら、旅を共にするも自由。この世界で新たな生活をするも自由だ」
「還してあげないの?! 元の世界に!」
「そんな力は彼にはない。この度の召喚で失った一部の力はアーム玉で補い、残りの力は全てグロリアの為に使い果たすだろう」
「お父様は……なにもしないの?」
「これは規則だ。黒魔術師を処刑する私が黒魔術を使うわけにはいかない。法を守らねばなるまい」
「そんなの納得いかないわ!!」
「落ち着いてください、リア様」
 と、2人の元にジェイがやってきた。「彼には元々、還る場所などないのです」
「……どういう意味?」
 と、リアはジェイに怪訝な表情を見せた。
 
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「結局、俺が倒してばっかじゃねーか」
 と、シドは刀を仕舞った。
「シドさん!」
 丈瑠がシドに歩み寄る。「師匠って呼んでもいいですか?!」
「はぁ? なんだよいきなり……」
「俺、シドさんの弟子になりたい!」
 それを聞いたカイが、丈瑠の肩にポンポンと手を置いた。
「やーめときなさーい。俺もねぇ、全く同じセリフを言ったことがあるんだ。シドに」
「え? じゃあカイはシドさんの弟子?」
「ううん。シドはねぇ、面倒くさがりだから大したこと教えてくんなくてねぇ。──まぁあとから考えたら、俺が十分強くなったから、もう教えることはないってことなんだろうけど」
「おい……、テメェは相変わらず勘違いが酷いな」
 と、シドが言った。「お前が全くやる気がねぇからだろーが」
「やる気はあったよぉ。でもシドが面倒くさがりだから」
「人のせいにしてんじゃねーよ!」
 
彼等の会話を笑顔で聞いていたルイは、空を見上げた。──夕暮れ時だ。
 
「そろそろ休息所へ行きましょうか」
「休息所?」
 と、丈瑠が言った。
「えぇ。聖なる泉がある場所です。旅が始まれば、主に休息所で休むことになります。予行練習ですよ」
「野宿ってことですか?」
「そうですね、テントは張りますが。街に着けば宿を借りるときもあります」
「そっか……、モンスターに襲われたりしないんですか?」
 一行は休息所を目指して歩き出した。
「大丈夫ですよ、結界で守られていますから」
「へぇ! なんか……ワクワクするなぁ」
「ワクワクですか?」
「俺、野宿とか初めてなんで。あと……誰かと一緒に……」
 と、丈瑠は言葉を詰まらせた。
「どうかしましたか?」
「……ううん。なんでもない」
「ねぇねぇタケルぅ」
 と、カイはタケルの肩に手を回した。「夜更かししちゃおーよ!」
「夜更かし?」
「ゲームしたりぃ、お話ししたりぃ、ゲームしたりぃ、お菓子食べたり!」
「ゲームしすぎだバカ」
 と、シドが呆れる。
「いーじゃん! だってまだ本格的に旅を始めたわけじゃないんだしさぁ、まだタケルのことよく知らないしさぁ。──いいよね? ルイぃ」
「夜更かしは体に悪いのですが、今夜だけなら、いいですよ」
「やったぁ! ね、遊ぼう! 遊ぼう!」
「う、うん!」
 丈瑠は戸惑いながらも、嬉しそうに返事をしたのだった。
 

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