voice of mind - by ルイランノキ


 シャットダウン26…『夢幻泡影3』

 
赤い絨毯に金色の糸で大きく刺繍された魔法円。どんな膨大な力も外には漏出させず、部屋の中だけに留まらせる力があるサモンズルームに、ギルトを連れたゼンダがやってきた。
 
「ジェイはどうした」
 と、ギルトが訊く。
「兵達に日常の仕事へ戻れと伝えに行っている」
 そう言ってゼンダは壁に寄り掛かり、腕を組んだ。
「その方がいい。彼には耐え切れるとは思えんからな。……あんたの世話係を請け負うほどの力は持っているようだが」
「直ぐに始めるか?」
「あぁ。──その前に、時計は持っているか?」
「時計? 持っているが……」
 と、ゼンダは腕に嵌めている時計に目をやった。
「タイミングが重要になる。──15分30秒になったら知らせてくれ。全ての力を発動する」
 
━━━━━━━━━━━
 
その頃、ルイ達は静かに個室で待機していた。
 
「呼び出しかからないねぇ……」
 と、カイは欠伸をしながら言った。
「なんの報告もありませんね。予定時刻は過ぎているのですが……」
 と、ルイは腕時計を見ながら言った。
 シドはベッドで眠りについている。
「予定変更とかー?」
「そうだとしても、なにかしら連絡があると思うのですが……」
 と、その時、ルイ達がいる部屋の前の廊下から話し声が聞こえてきた。
「兵士さんでしょうか。ちょっと見てきますね」
 そう言ってルイは立ち上がると、部屋のドアを開けて廊下に出た。
 
2人の兵士が歩いてくる。
 
「あ、ルイさん!」
 兵士はルイに気づいて一礼した。
「こんにちは。なにかあったのですか? 儀式はもう始まる時間のはずですが……」
「いや、それが……持ち場に戻れと連絡がありまして」
「持ち場に? なにかトラブルでもあったのでしょうか」
「それが我々も詳しい事情は分からないのです。知らせに来たジェイさんは慌てている様子で……とにかく持ち場に戻れと」
「そうですか……」
「ただ、他の兵がギルトさんとゼンダ様がサモンズルームへ入って行くのを見た……と話しておりましたが」
 
部屋のドアが開き、カイが顔を出した。
 
「なになにー? やっぱ予定変更?」
「それが……」
 
ルイが説明しようとしたそのとき、突然地響きのような大きな揺れが彼等のいる廊下を襲った。振動が足元から伝わってくる。
 
「なっ、なにー?!」
 と、カイはあまりの揺れにドアにしがみついた。「なに今のー?!」
「わかりません……」
 ルイは険しい顔で廊下の先を見遣った。──この揺れはどこから伝わってきたのだろう。
「おい……」
 と、目を覚ましたシドも顔を出した。「始まったのか?」
「え……そんなはずは……」
「始まったってなに?!」
 と、カイはシドにしがみつく。
「いや、だから召喚?」
「え……じゃあもしかして……選ばれし者光臨?! やったぁあぁ!!」
 カイは目を輝かせて走り出す。
「カイさん! どこへ行かれるのですか?!」
「どこってサーモンルームに決まってるだろぉー? 俺が一番にご対面しちゃうもんねー!!」
「あの馬鹿ッ!」
 と、シドは直ぐにカイを追いかけた。「つかサモンズルームだっての!」
「失礼します!」
 と、ルイも2人の兵に頭を下げ、後を負った。
 
先にサモンズルームの前に着いたカイだったが、部屋のドアは魔法円の鍵がかかっているため入れない。
 
「おーっちゃんおっちゃんおっちゃんゼンダのおーっちゃん!」
 と、ドア越しに叫ぶと、カチャリと鍵が外れる音がした。
「やったぁ!」
 カイはドアを開けた。
 
カイの目に映ったのは、部屋の中心に呆然と立ち尽くしている見慣れない青髪の少年だった。
メープルローズ色のロングTシャツと、下はジーンズに、カラフルなスニーカーを履いている。
 
少年は、突然部屋に入ってきたカイに怯えるような目を向けた。状況を把握出来ていないようで、警戒しているのが感じ取れる。
壁に寄り掛かり、苦しそうにしているギルトの背中をゼンダは摩っていた。
 
「カイか……」
 と、ゼンダは呟いた。
「だいじょうぶー? 力使い過ぎたの? でも! 召喚成功したんだねぇ!」
 と、カイは少年に近づいた。少年は後ずさる。
「彼はまだなにもわかっていない」
 ゼンダはそう言ってギルトを支えながら部屋を出ようとし、
「私はギルトを連れていく。すまないが少年を第8の客間へ連れてきてくれ。彼を外に出すのはまだ後だ」
 と伝えた。
「はぁーい」
 ゼンダとギルトはサモンズルームを後にした。
 
「君が選ばし者?! あ、俺ねぇ、カイって言うんだ!」
 満面の笑みで、少年に自己紹介をするカイ。
「カイ……? 俺は……」
 少年が答えようとした時、ようやくシドとルイも部屋へやってきた。
「あ、ルイ! ゼンダのおっちゃん今出て行ったよ。ギルトって人、具合悪そうだったから! なんかね、第8の客間に連れてこいってさ」
「えぇ。今廊下で会いましたよ。──そちらの方が……?」
 
ルイは少年に目をやった。服を着ていても細身だということがわかる。この少年が本当に選ばれし者なのだろうか。
 
「うん! 名前なんていうのぉ?」
 と、興味津々なカイを見て、少年は少しだけ警戒心を解いた。無邪気そうなカイを見て、悪者には感じなかったからだ。
「俺は……たける……嶋田丈瑠」
「しまだたける? しまだが名前?」
「丈瑠が名前です……」
「たけるがなまえ? 変なの。じゃ、よろしくねタケルぅ!」
 と、右手を差し出して握手を求めたカイだったが、嶋田丈瑠はその手を拒んだ。「ん? あれ?」
「カイさん、きちんと説明はしたのですか? タケルさんの様子からして、まだなにも聞かされていないようですが……」
 と、ルイは言った。
「あ、まだだった!」
「では僕から説明しましょう」
「えーっ、俺が説明したい……」
「お前はグロリアと言って、選ばれし者だ」
 と、壁に寄り掛かり、腕を組んでいるシドが言った。
 
なんでシドが説明するんだ!と、膨れているカイを、ルイが宥めた。
 
「選ばれし……者?」
「あぁ。──ここはエスポワールという世界で、凶悪な力が目覚めようとしてる。それを阻止するためにはお前の力が必要ってわけだ。あんたには世界を救う力があるんだとよ」
「え……」
 嶋田丈瑠は、シドが言っていることを理解してはいるものの、信じることが出来ずにいた。あまりにも現実離れしている。
「タケルさん、ここは、あなたがいた世界とは別の世界なのですよ」
「そんな……でも……本当に?」
「本当だよー!」
 と、カイが叫ぶ。「いらっしゃいませエスポワールへ!」
「……本当に? 別世界……本当に?!」
 少年は興奮したようにそう言った。
「本当、本当!」
「すごい……でも……そっか……すごいや……」
「半信半疑ぃ?」
 そう訊くカイに、少年は首を振った。
 
少年が、思っていたよりも状況を飲み込むのが早かったことには理由がある。
 
「死後の世界かと思った……」
 と、少年は呟いた。
「ん? 今なんてー?」
「……ううん。なんでもない。俺になにかを救える力があるなんて信じられないけど……」
「とりあえずさぁ」
 と、カイは少年の肩に手を回した。「ゼンダのおっちゃんとこ行こう!」
「ゼンダのおっちゃん?」
「うん、さっきの人。ああ見えて国王なんだ」
「国王?!」
「まぁまぁ落ち着きなさーい」
 と、カイは少年を廊下へ連れ出した。「それより俺の名前覚えてくれたー?」
 ルイとシドも後ろを歩いている。
「カイ……さん」
「カイでいいよー。それかカッちゃんでも可!」
「じゃあ……カイって呼ぶよ」
 と、戸惑いながらも笑顔を見せた少年、丈瑠。
「いーよいーよ敬語なんかぁ。俺達仲間なんだからぁ!」
「仲間……」
 と、丈瑠は足を止めた。
「どうしました?」
 ルイが心配そうに訊く。
「あ……なんでもないです。ただなんか……嬉しくて」
「嬉しい?」
 と、シドが顔をしかめた。「気持ち悪い奴だな」
「え……」
「あ、シドの言うことはこれっぽっちも気にしなくていいよー、口が悪いのが癖だから!」
「うっせぇ。さっさと行くぞ」
 と、シドは足速に先頭を歩き出した。
「やっぱり俺……気持ち悪いかな?」
「えー? どこがぁ? まぁ俺よりはかっこよくないけどぉ」
 
ルイは丈瑠の様子が気になっていた。“やっぱり”とはどういうことだろうか。それに想像していた選ばれし者とは程遠い。
 
「カイは何歳なの?」
 と、丈瑠は訊いた。
「天才!」
 と、即答するカイ。
「カイさんは18ですよ」
 と、代わりにルイが答えた。「僕は17です。──あ、僕はルイと申します。自己紹介が遅れ、すみません」
「そうなんですか?! 年上かと思ってました……俺も17です!」
「同い年ですね」
 と、笑顔で言うルイの傍らには膨れっ面のカイ。
「あの人は……?」
 前を歩くシドを見ながら訊いた丈瑠。
「彼はシドさんです。タケルさんと同じ、17歳ですよ」
 

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©Kamikawa
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