voice of mind - by ルイランノキ


 シャットダウン25…『夢幻泡影2』

 
「あのおっさん、相変わらずだな」
 と、ゼフィル兵の為に用意されている個室の一室で、ベッドに寝転がりながらシドが言った。
「俺おっちゃん好きー!」
 と、カイは床に座った。
「カイさん、先程のような態度は失礼ですよ」
 ルイはそう言って個室のドアを閉めた。
「えーなんで? おっちゃんがフレンドリーに接してくれって言ったんじゃん」
「そうですが……」
「ジジイが望んでんだからいいだろ別に」
 と、シドは寝返りをうった。
「“ジジイ”は言い過ぎです」
「ていうかさー、“アレ”ってなに?」
 と、カイが言う。伝わっていない人間がここにいたようだ。
「例の件ですよ。選ばれし者」
「あーぁ、あのことかぁ!」
「ほかに何があんだよボケ」
 と、シドが言った。
「いつ儀式が始まるわけー?」
「これからでしょうね。別世界から何者かを召喚するなど危険な賭けですから、危険性を考え僕等は集められたのですから」
 そう言ってルイも床に腰を下ろした。
「危険って?」
 カイは首を傾げる。
「なにが起こるか分からないということですよ」
「そのわりにはおっちゃん、そんな感じしなかったけどなぁ」
「そうですね、変に不安を煽らないように……でしょうか」
「バーカ。あのジジイはいつものことだろ。国王としての自覚もなけりゃ、偉大さもない」
「シドさん……、でも皆から尊敬され、慕われていますよ」
「あのジジイのどこを尊敬すんだよ……よっぽどジェイのほうがしっかりしてる」
「あー、ジェイわかるー」
 と、カイが言った。「普段口数少ないよねーあの人」
「王の首狙ってそうだよな」
 と、シドは笑った。
「シドさん?!」
「あーハイハイ、すいませんね。──けどまぁ呆れ果ててそうだろ、世話係なんてよくやるよな。ジジイもなんであんな冷めた奴を選んだのか理解出来ねぇ」
「ジェイさんも尊敬しているからこそ、だと思いますが」
「あ、そういえばさぁ、ゼンダのおっちゃんが愚痴ってた。『新しい法案沢山出されちゃって正直めんどい。手伝って』って」
 と、カイが笑いながら言ったが、ルイもシドも黙って小さくため息をついた。
「あとねぇ、『飲みに行く時間がないからやる瀬ない』ってー」
「カイさん……もうその辺に」
「え? なんで?」
「国の支配者って……なんだろな?」
 と、シドは言った。「国王に対する俺のイメージが間違ってたのか……?」
「現実なんてそんなもんじゃなーい?」
 と、カイが言った。「国王も所詮俺たちと一緒で人の子なんだよぉ。各国の王が集まったとき、なんの話で盛り上がったか知ってるー?」
「……あまり聞きたくありませんね」
「“入れ歯はいつからが妥当なのか”らしいよ。ちなみにゼンダのおっちゃんは総入れ歯らしい。その話で盛り上がったんだってー。『私はまだ半分は残っている』とか! 『柔らかいものを好むようになった』とか、総入れ歯にもメリットはあって、虫歯にならないからお金かかんないってさ。俺も参加したかったなぁ」
「カイさんはなぜそんなに詳しいのですか……」
「今朝ね、おっちゃんの寝室にお邪魔したんだよー。暇だったから」
「…………」
 
暇だったからという理由で一般市民を王のプライベート空間に招き入れるのはどうなんだろう……と、2人は思った。
 
━━━━━━━━━━━
 
──ゼフィル城 - 東の塔-地下。
 
薄暗く、ひやりとしたコンクリートで囲まれた部屋に、足元まで長いコートを羽織った男が俯き、座禅を組んでいる。黒いコートのフードを被り、重々しい空気が漂っていた。
 
「物騒な場所で悪いな」
 と、“鉄格子”を挟んで声を掛けたゼンダ。その斜め後ろにはジェイが立っている。
「いや、構わないさ。処刑される身だからな」
「……魔力振起は済んだのか?」
「あぁ。失敗は許されないからな。試用する力は十分に溜め込んである」
「試用? どういう意味だ?」
 と、ゼンダは眉をひそめる。
「選ばれし者という膨大な力を引き寄せるには、膨大なエネルギーを使う。少しでも計算を間違えば、未来はない。──グロリアと同じ世界で生きる光を、試しに引き寄せるのだ」
「可能なのか? 本来、力を持つグロリアだからこそお前の力に潰されることなくこちらの世界へ引き寄せることが出来るのではないのか?」
「可能なものを選ぶ。既に潰れた残骸ならば私の力によって肉体が散ることもないだろう」
 ゼンダはギルトの考えを読み取ろうとしたが、黒魔術師の考えることは到底理解できない。
「……お前にはお前の考えがあるのだろうな。我々はお前を信頼している」
「ふっ」
 と、ギルトは下を向いたまま微かに口元を緩めた。
「なにが可笑しい」
「いや、あんたらしくないと思ってな」
 ギルトは顔を上げ、ゼンダを見遣った。
「……お前が黒魔術師とはな」
「なにを今更。感づいていたのではないのか?」
「そうだな」
「ゼンダよ……」
 と、ギルトは立ち上がり、鉄格子に近づいた。
「これはいい機会だ。薄弱な光に情報を聞き出すとい。グローリアが存在する世界がどのような世界か、予め知っておいても損はないだろう」
「薄弱な光……試用で引き寄せる人間か」
「どうせ消えゆく光。利用すべきだと思うがね。彼等の指導ぶりを見るにもいい機会だ」
「彼等? ルイ達か?」
「あぁ。何事にも“予行練習”は必要だろう。──言っておくが……私の力は絶対ではない。だが、命をかける以上、最善を尽くすつもりでいる」
「あぁ、わかっている」
「もし私の力に歪みが生じれば、引き寄せる段階で白い光の力と私の黒い力が混ざり合い、化け物化したグロリアを召喚させてしまうかもしれんぞ」
 と、ギルトは不気味に笑った。
「その時はその時だ。我々はもはやなすすべを失った身。お前の指示通りに動く他あるまい」
「ゼンダ様」
 と、これまで黙って話を聞いていたジェイが口を開いた。「私も儀式に同行致します」
「うむ……」
「ジェイといったか」
 と、ギルトは言い、ゼンダに目を向けた。「あんたの世話係にしては真面目そうな男だな」
「あぁ、冗談が通じない男でな」
 ゼンダは笑った。「妻が選んだのだから致し方あるまい」
「なるほどな」
 と、ギルトも微かに笑った。
「どうだ? 事を始める前に一杯でもやらんか」
「ゼンダ様……今そのような冗談を言っている場合ですか」
 ジェイは呆れたように言った。
「冗談ではない。なぁギルト。一杯くらいならなんの心配もなかろう」
「あぁ。しかし杯(さかずき)を交わすのは、無事に仕事を終えた後にしないか。──そうだな、処刑の前日がいい」
「……そうだな。下の物に用意させておく。──ジェイ、鍵を開けろ。ギルトをサモンズルームへ連れて行く」
 

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