voice of mind - by ルイランノキ


 シャットダウン19…『拭えない不安』

 
「ねぇ、どうして朝から元気なかったの?」
 と、照れ隠しに話題を変えた。
「うぅーん、色々複雑なんだよねぇ」
「なにが?」
「色々だよぉ……」
「……そっか。話したくないならいいや。ごめんね」
 顔が寒くて、アールは深々とフードを被った。
「……アールはさぁ、強くなってるよね」
「そうかな。全然だよ」
「俺よりはもう強いと思うよ」
「どうかな。私鈍臭いし」
 そう言って苦笑した。
 
旅を始めたばかりの頃と比べれば少しは強くなったのかもしれないが、融通がきかないことが多い。まだ強いとは言えなかった。
 
「……面白くないんだよね」
 と、カイはぼそりと呟いた。
「え?」
「俺……アールに強くなってほしくないんだ」
 目を逸らしたままそう言ったカイの表情は曇っていた。
「……それ、どういう意味?」
 困惑したようにアールは訊いたが、カイが答えようとした時、人の足音が近づいてきた。
 
振り返ると、シドが立っていた。
 
「クソさみぃ中でなにやってんだよ」
 その後ろにはルイまで心配そうな面持ちで立っている。
「お二人の姿がなかったので心配しましたよ……」
「シドとアールのコンビなら心配しないのに、俺とアールなら心配するんだー?」
 と、カイはふて腐れる。
「そういうわけでは……。さぁ、テントへ戻りましょう。眠れないのならお薬を出しますから」
「はぁーい」
 
テントへ戻ろうとするカイに、アールは声をかけた。
 
「ね、ねぇ……さっきの、どういう意味?」
「え? あー、気にしないでぇー」
 
先に戻ったシドを追い掛けるようにして、カイはテントへと戻っていった。
立ち尽くすアールに、ルイは言った。
 
「アールさんも、戻りましょう。風邪ひきますよ」
「……強くなってほしくないって」
「え?」
「カイに、強くなってほしくないって言われたの……。どういう意味かな」
 カイが入っていったテントを眺めながら不安げに言ったアールに、ルイは少し考えてから答えた。
「カイさんも強くなりたいと思っているからではないでしょうか。一緒に強くなりたいとか、置いていかれたくない……とか」
「……そうなのかな」
 カイの曇った表情が気になってしょうがない。
 
先にテントへ戻ったカイは、ストーブの前で体を温めていた。
そんなカイにシドは、布団に入りながら言った。
 
「──で? なんであんなくだららねぇこと言ったんだよ」
 カイは布団に横になったシドに目を向ける。
「え? なんのことー?」
「あのなぁ、俺たちがなにも知らねーであのタイミングで声掛けたとでも思ってんのか?」
「もしかして話し聞いてたの?! 俺とアールが夢を熱く語り合ってたとこ立ち聞きしてたのーっ?!」
「はぁ? ──なんで強くなってほしくねぇなんて言ったんだって訊いてんだよ」
「あぁ……あれかぁ」
「置いてかれるのが嫌ならお前もちったぁ努力すりゃいいだろ」
「そうじゃなくてさ。──シドはいいの? アールが強くなっても」
「はぁ?」
 と、シドは不快な面持ちで体を起こした。「なんだよそれ」
「シドは強いよ。強いけどさ、アールがこれからもっともっと強くなって、もしシドより力をつけたら……俺たちどうなるのかなって。今はルイやシドがアールを守ってるだろ? それが指命でもあるんだし……。でもアールの方が強くなったら、俺たち、不要になるんじゃないかって。アールの邪魔になったりしないかなぁって…」
 
シドは呆れたようにため息をついた。 
 
「……くっだらねぇ」
 と、横になる。
「シドはまだアールのこと認めてないからそんな風に思えるんだろうけど、下の立場から見てるとアールは確実にどんどん強くなってるんだよ」
「まぁ、仮にお前が言ってる通りになるとすりゃ、一番先に切り捨てられるのはお前だろうな」
 と、シドは意地悪げに笑った。
 
だが、カイは何も言い返さなかった。
 
「……そうだね」
 

──カイがどんな思いであんなことを言ったのか、理解出来なかった。
 
それは今も変わらないよ。
 
必要としなくなる日なんて、来るわけないじゃない。
 
あんなことがあって、私は独り此処へ来てしまったけれど、みんなを必要としなくなったからじゃない。
みんなから離れたくなったからじゃない。
 
違うの
 
本当だよ? 嘘じゃない──
 

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