voice of mind - by ルイランノキ |
「なんか黄色い花がいっぱい咲いてるなぁ」
と、少年がしゃがみ込んで言った。
「あ、それねぇ、イエローなんとかって言うんだよぉ」
と、カイが少年の隣にしゃがみ込んで答える。
「“イエロー・ル・シャグラン”ですよ」
そう言ってルイも隣にしゃがみ込んだ。
「おいお前ら! 道草くってんじゃねーよ!」
と、シドは道の先で腕組みをしている。
「へぇ、そんな名前の花、はじめて聞いたよ」
少年はそう言って、指先で花をつついた。
「悲しみの花……と言われているのです」
「悲しみ?」
「えぇ。この花を沢山積んで、部屋に飾っておくのです。丁寧に世話をしてあげると、自分の中にあった辛い思いや悲しみを、この花が身代わりとなって吸いとり、枯れてゆく」
「……へぇ」
「親族が亡くなった人とかに、よく贈る花だよー」
と、途中からカイが言った。
「へぇ」
「興味ないのー?」
「ううん……。俺の世界にもそんな花があったら、俺の人生はもう少し……花やかだったかなって」
花をいつまでも眺めていた3人に痺れを切らしたシドが、歩み寄ってきた。
少年は立ち上がり、小さく笑った。
「……俺さ、ここに来れてよかった。向こうには、俺の居場所なんかなかったから。ここは……俺を必要としてくれる人がいる。だから俺も、誰かのために頑張ろうと思えた。──それにみんなに会えて、本当によかった」
「な、なんだよぉ! 照れるじゃーん」
と、カイは少年の肩を叩いた。
「イテテッ……。ほんとに心から信頼出来る仲間だと思ってるよ」
「俺もだよぉ!」
と、カイはまた少年の肩をバシバシと叩いた。
「叩くなよぉ!」
「僕も、貴方と出会えてよかったと思っていますよ。ね? シドさん」
「はぁ? なんで同意求めんだよ!」
「シドは思ってないのぉ?」
と、カイが言った。
「いや……まぁ……思ってなくもねーよ」
「ほんとに?」
少年は不安げに訊いた。
「……お前でよかったと思ってる。気ぃ合うしな」
「ありがとう。シド、ルイ、カイ」
少年は照れ臭く笑った。
「んじゃ、行こうぜ。タケル」
──信じて疑わなかった。
なにも知らなかった。
聞かされたのは城に戻ってからだった。耳を疑いたくなる真実。
知らなかったで済まされることではなかった。伝えられなかった真実。
騙そうと思っていたわけじゃない。騙そうと思っていたわけじゃないが、騙されたと思われてもしかたがない。
告げなかった。告げられなかった真実。
伝えようと思っていた。タイミングを見計らっていた。言葉を探していた。
──あの日、まだ闇に包まれた時間の中、シドは目を覚ました。
いるはずの少年の姿がなかった。テント内に立てかけてあった少年の剣もなかった。
「……どこに行ったんだ?」
騙すつもりはなかった。真実を伝えようと思っていた。
だけど、そんなことを知らない少年はあの時なにを思いながらシドを見つめていたのだろう。
「──タケルッ?!」
タイミングなどいつでもあったのに。
いつも側にいたのだから。
Thank you... |