voice of mind - by ルイランノキ |
「次の街まであと何日ぃ?」
カイがけだるそうに歩きながら訊いた。その腰には、シドに借りた刀が掛けられている。まだ一度も鞘から抜かれていない。
「街に着くことばっか考えてんじゃねーよ」
そう答えたのはシドだった。
「だぁってぇ……ねぇ?」
と、カイはアールに目をやった。
「私は知りたくないかな」
「えーなんで? 何日くらいかわからず歩き続けるなんて頑張れなくない?」
「何日か聞いたら待ち遠しくて長く感じるし……知らずに歩いて、歩いて……もうすぐだって言われたほうがいいかな」
最終的にどこへたどり着くのか、知らない。目指す場所を知らない。
いつまで旅を続けるのか知らない。知ったほうがいいのかどうかもわからない。
ただ、今はシドにも言われた通り、生きている今を、確実に生き抜くこと。1日を無駄にしないように生きることに意識を向けていたい。
ふと、アールは道端に咲いている小さな黄色い花に目を止めた。
「あ、可愛い」
「なになにぃ?」
と、すぐに反応したカイ。アールの視線を辿り、笑顔が凍り付いた。
──黄色い花。《イエロー・ル・シャグラン》
「おいっ、何立ち止まってんだ……」
そう行って歩み寄るシドの足が止まる。
「ねぇルイ、これなんていう花?」
アールは花の前にしゃがみ込むと、ルイを見上げて言った。
ルイはその黄色い花を、苦痛に満ちた瞳で見つめていた。
「…………?」
アールはカイやシドにも目をやり、空気の重さに気づいて、黙ったまま立ち上がり、黄色い花を見下ろした。
「──先を急ごっか」
作り笑顔で3人に言った。
小さな空気の変化でさえ、ストレスとなって心に蓄積していく。
なぜ何も知らない私が気を遣わなきゃならないの。
そう思うときもある。
でもそんなのわかってる。“居場所”が壊れてしまいそうで怖いからだ。
自分の居場所はここしかない。見捨てられては何も出来ない。
居場所が重い空気に覆われていると、自分の心も沈んでいきそうな気がした。だから、気を遣う。自分の居場所を少しでも過ごしやすくするために。
今ならプライドを捨てて媚びだって売れる。今唯一自分がいられる居場所を維持し続けられるのなら。
決して彼らが悲しそうな、辛そうな顔をしていたからじゃない。
自分を守るため。 自分のため。
──自分の為に生きれば、
人のせいにしなくて済むと思っていた。
誰かの為に生きていたら、
裏切られたときに恨んでしまいそうだから。
自分が誰かの為に生きようと思って決断したくせに、
きっと恩着せがましい感情が芽生えて、
なにかあったときに相手のせいにしてしまいそうだから。
Thank you... |