voice of mind - by ルイランノキ |
「ラムネ、ルイさんのところまでお願い。匂いが強く残っていた男性よ。わかるかしら」
と、ミシェルは腰を屈めてラムネの頭を撫でた。
ミシェルをモーメルの元へ連れて行ったときにシドとカイはいなかったため、アールとルイの匂いは強く残っている。
「食材とぉ、紅茶とぉ、コーヒーとぉ、薬品とぉ、洗剤の匂いが混ざった人だよ? 俺たちには洗剤の匂いしかわかんないけどー」
と、カイが補足した。
ラムネは匂いの記憶を辿り、自信ありげに一吠えした。
「おぉ、さすが! 気をつけて行くんだぞー?」
と、カイが言う。「住人は荒れてるし、バイクとか気をつけてよー?」
ラムネはもう一度一吠えすると、尻尾を振りながらその場を後にした。
「大丈夫かなぁ」
「ラムネは一般の犬より嗅覚が優れているし人の言葉がわかるんですって」
と、ミシェルは微笑む。
「俺はミシェルちゃんの気持ちが知りたいんですって」
カイはそう言って、ニッと笑う。「ミシェルは俺のこと好きー?」
「……みんな好きよ。それより、カイさんはベッドの下に隠れていたほうがいいわ。もし見つかったら私一人じゃ助けられないもの……」
「ミシェルがそう言うなら隠れよっかなぁ」
いつの間にかミシェルのことを呼び捨てにするカイ。ベッドの下に潜り込みながら、「側にいてねー」とお願いする。
「うん。……あ、シドさんに連絡しなきゃ」
「じゃあミシェルお願いー」
と、ベッドの下から携帯電話を渡した。「着歴から掛けるといいよー」
「わかったわ。でも運転中だったら出ないかもしれないわね」
そう言いながら、一応電話を掛けてみた。
思った通り、すぐには出なかったが、3度目の電話でようやく電話に出たシド。随分と息が上がっていた。
『カイか?! てめー今どこいんだよっ』
「あ、シドさん? ミシェルです」
『あ? ミシェル? ミシェル……あぁ、男にボコられてた女か』
「……え、えぇ。今カイさんと一緒にいます。今から場所を言うので、来てもらえますか?」
『あぁ、了解』
「あっ、住人さんは連れて来ないでくださいね」
と、電話の向こう側から騒がしい声が聞こえたので、念を押したミシェル。
『うっせーな……早く言えよ』
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かくれんぼの鬼と化した住人達の足元を駆け抜けていくラムネ。
一瞬、白い犬に目を向けた住人だが、あまり気にも止めない様子で情報紙に視線を戻した。なにしろターゲットは4人もいるのだ。顔を覚えるのも一苦労である。
ラムネは道の端を沿って走る。その目は心なしかやる気に満ちているようだ。
時折スピードを落として空気中の匂いを辿る。
さほど離れた距離ではなかったため、無事にルイのいる駐車場へとたどり着いた。
しかし、駐車場には男が4人ほど集まっていた。他にもちらほらと自転車やバイクに跨がる人が数名いる。
ラムネは息を切らしながら、駐車場の隅に身を置いた。床に寝そべり、人間たちの動きを観察している。
「お? なんだこの犬」
と、住人の一人が気づき、近づいてきた。
ラムネは尻尾を振り、一吠えしてみせる。
「なんだなんだ?」
と、一緒にいた男達も犬を取り囲む。
「どこの犬だ?」
「さぁな、見たことねぇ」
「尻尾振ってんぞ……可愛いな」
と、男はラムネの頭を撫でた。
「残念だがここに餌はねぇぞ?」
「野良犬じゃなさそうだな。毛並みが綺麗だ」
「街はこの騒ぎだ。飼い主が家を空けてる間に飛び出してきたんじゃねーのか?」
「かもな。──あんま出歩いてると危ねぇぞ」
ラムネに向ける住人達の表情は、アール達を追うときとはまるで違い、とても綻んでいる。
「そろそろ行くか。まだ誰も捕まえてねぇよな? 先越される前に早いとこ見つけようぜ」
「あぁ。じゃあな、ワンコロ!」
ラムネは男達が駐車場を後にするのを見送った。
駐車場にいる他の住人の様子を伺いながら、男子トイレの前まで移動。聞き耳を立て、鼻も使って念入りに人がいないかを確認し、侵入。
個室が並んである一番奥まで行くと、ドアの前で腰を下ろした。前脚でカリカリとドアを鳴らす。しかしルイは警戒しているのか反応がない。
ラムネは「クゥーン……」と、小さな声で喉を鳴らした。
すると、カチャリとドアノブが回り、ルイが顔を出した。ルイの姿を確認したラムネは、尻尾を振って立ち上がる。
「ラムネさん、ですね? 人が来るといけないので、一先ず中へ」
と、狭い個室にラムネを招いた。
「ラムネさん、この紙を持って、来た道を戻っていただけますか? カイさんに紙を1枚渡したあと、次はアールさんの元へもう1枚の紙を届けて頂きたいのですが……」
ルイはそう言ってゲートの入口を開く紙を2枚見せた。ラムネは前脚でルイの足を掻いて返事を表した。
「ありがとうございます。──それにしてもよく僕の居場所がわかりましたね」
ルイはシキンチャク袋からお守りを取り出した。「これに紙を2枚入れて、首に掛けておきますね。ちなみにこのお守りには結界の魔法が掛けられています」
そう言ってルイはラムネの首にお守りをぶら下げた。
「お気をつけて」
ラムネの頭を撫で、個室のドアを開けると、ラムネは勢いよく飛び出して行った。
Thank you... |