voice of mind - by ルイランノキ


 指名手配13…『フードの男』

 
「あなた……だれ?」
 アールは不安げに訊いた。ハンドルを握る手に力が入る。
 
人が2人ぎりぎり通れる細道。男と自分以外には人の気配がない。アールはちらりと視線を自分の胸元に落とし、首にかけている武器を確認した。──男が不審な行動をしたらすぐに剣を向けよう。
 
フードの下から見える男の口元が、ニタリと不気味に歪む。
 
「声を掛けるのは二度目ですね。アールさん」
「なんで私の名前……」
「いろいろと調べさせてもらいました。初めて声を掛けたのは、あなたが病院から出てきたときでした。ご一緒にいたルイという男性に止められましたけどね」
「覚えてます。調べたって……どうゆうことですか?」
「まずは軽く自己紹介を。私はこういう者です」
 そう言って男はコートの裏ポケットに手を伸ばした。
 
アールは警戒し、首に掛けている武器に手を伸ばす。しかし男がポケットから出したのは、名刺だった。アールの前に差し出す。
アールは男から目を離さないようにしながら、名刺を素早く受けとった。一歩下がり、名刺に目を向ける。
 
「ログ街情報新聞記者? テリー・バスラー……」
「テリーと呼んでください」
「新聞記者って……?」
「私の仕事はログ街で起きていることを記事にし、住人に知らせている」
 そう言ってテリーは丸めた情報紙をアールに差し出し、続けた。
「ログ街で起きた事件などを調べ、載せたものです。中には仕事の依頼も載せてありますが」
 
アールは情報紙を広げ、目を通した。カゲグモのことも書かれている。一面を占めているカゲグモの記事の裏面をめくり、目を丸くした。アールと、ルイ、シド、カイの顔写真が載っていたのだ。どれも隠し撮りをした角度だ。
 
「なに……これ……」
 目を懲らしてみると、《要注意人物》と書かれている。
「勝手ながら私が撮影しました。──これは“第二の警告”ですよ」
「警告……? 警告って……エレベーターの事件は貴方が?!」
「私はなるべく自分の手を汚すようなことは趣味としていないのでね。逃げるチャンスを与えたのですよ」
 と、テリーは鼻で笑う。
「……要注意人物っていうのは? 私達が何かしましたか?!」
「えぇ。まだその情報紙には詳しいことは載せておりませんが、種はいくらでもある。まず、ルイ・ラクハウスという人物はエルナンという男を、殺害した」
「あれはルイが殺したわけじゃない!」
 と、アールは情報紙をグシャッと握り潰した。
「そうでしょうか」
 と、テリーはまた胸元から写真を一枚取り出した。
 
アールはテリーが差し出す前に自ら奪い取り、目を向けた。
 
「……ルイ」
 その写真には、ルイが写っていた。ルイの手前でエルナンが死ぬ瞬間をとらえた写真だ。
「まって……これがなんの証拠になるの? ルイからエルナンさんの話を聞いたけどエルナンさんは突然……勝手に死んだって……」
「えぇ。ですが、その写真を見た者はどう思うでしょうね」
「なにそれ……」
「それから、カイ・ダールストレーム。彼は無垢な子供を恐喝している」
「くだらない……笑わせないでよ!」
 ふつふつと怒りが込み上げてくる。この男はなにを目論んでいるのだろう。
「シド・バグウェルは……今のところ大人しくしているようですね」
「言い掛かりをつけるのはやめてください。ルイはエルナンさんを殺してなんかないし、カイも恐喝なんかしてない。でたらめばっかり!」
 と、アールは情報紙を地面にたたき付けた。
「でたらめだろうと、関係ないのですよ。これらは単なる飾り立てにすぎない。一番重要なのは……あなたたちがゼフィル兵と何らかの繋がりがあるということ」
「ゼフィル兵……」
 アールは咄嗟にジムとの一件を思い出した。
「ここは、国に監視されることもなく、自由な街。しかしこの街にはこの街の暗黙のルールってものがある。それに従えない者は、排除する」
「意味がわからない……」
「この街にはスィッタもゼフィル兵もいらないんですよ」
 と、テリーはアールにじりじりと歩み寄った。「誰も必要としていない。寧ろ敵対している」
「ゼフィル兵を呼んだだけで……?」
「呼んだだけ? 我々の自由を奪う行為だ」
「なにが自由よ……」
「あまり勝手な行動をするようなら、街の住人が黙ってはいないということだ。外から来た者に、荒らされたくはないでしょうからね」
「どうしろっていうの? 街から出て行けばいいの?」
「そう言いたいところですが、あなた方を調べているうちに、気になることがありましてね」
「なに……?」
「ルイという男は、ヘーメルという街で生まれ、イリスにて好成績を残している。シドという男はある程度剣豪として名が知れているので簡単に調べられました。カイという男はトォーポという街で育ち、これといった経歴はない。──問題は、あなたですよ。彼らにアールと呼ばれている貴女を、いくら調べても何も出てこない」
「…………」
「貴女は一体、何者なのでしょうか」
 アールは黙って顔を伏せた。
「とにかく、新しい記事はもう出来上がっている。あとは配るだけです。……賞金は50万ミル」
「賞金……?」
「あなた方を捕らえた者へのご褒美です」
「はぁ? それじゃぁまるで指名手配みたいじゃない!」
「ご存知ですか? この街で殺人が起きてもさほど問題にはならない。ただし、外から来たよそ者の手によるものなら大問題となる。何故かわかりますか? ──この街は犯罪者の集まりであり仲間意識が高く、裏切り者は殺されて当然。そして、外から来た訪問者は金づるだとしか思っていないのです。旅人を迎え入れるのは金稼ぎの為。そして……暇つぶしですよ」
「暇つぶし……?」
「カゲグモが現れた日、街の住人が興奮して暴動に走った。ログ街の住人は暇を持て余しているのですよ。彼らは何かしらイベントを待っているのです。神経が怒れ狂った輩の集まりだということです」
 

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©Kamikawa
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