voice of mind - by ルイランノキ


 秋の扇17…『新しい朝』

 
──翌朝。
 
アールはルイと朝食を部屋へ運んでいた。
朝食にしては随分と量が多い。自分とミシェルの2人分だ。昨夜は何も食べていないミシェルの為に、ルイが多めに作ったのだった。
 
すっかり修理されたエレベーターで4階へ上がる。
 
「壁が崩壊するほど壊れてたのに、復旧早いね。もしかしてこれも魔法で?」
 と、エレベーターの中で、アールが訊いた。
「修復魔法は本来禁止されているのですよ、例外もありますが。業者さんが頑張ったのでしょうね」
「がんばっただけでこんな早く修復するものなの? あ、魔法円はどうなったのかな。カイたちが言ってたよね、罠の魔法円があったって」
 
エレベーターが4階につき、ドアが開いた。
 
「あの罠は、アールさんを乗せたエレベーターが落ちたあと消えてしまっています。事件が起きたあと調べてみたのですがどこにも見当たりませんでしたから」
 
20号室の前へ着き、2人は立ち止まった。
 
「そっか。でもまた罠が仕掛けられるかもしれないよね」
「そうですね……。あの時、僕がもう少し気をつけていれば……」
「どうしてルイが気をつけるの?」
「魔法円の力を少なからず感じることが出来るのですが、魔法円によっては感じ取りにくいものもあったり、気を配っていないと分からないものもあったりするので……。すみません」
「ルイが謝ることじゃないよ」
 と、アールは微笑み、20号室のドアを開けた。
「ミシェルさんのご様子は?」
「今はまだ寝てる。大分落ち着いたみたいだよ」
「そうですか」
 
足音を立てないよう、アールの後から静かに部屋に入ったルイ。
 
「どうせ今からミシェルさん起こすから、静かにする必要ないよ」
 と、アールは笑った。「あ、テーブル小さいから床で食べることにするよ。ベッド畳むから待って」
 
ミシェルはアールが寝ていた隣のベッドでスヤスヤとまだ夢の中だ。
アールは朝食をテーブルに起き、自分が寝ていたベッドを畳んだ。
 
「ミシェルさーん、起きてくださーい」
 そう声をかけながら、アールはテーブルに置いた朝食を床に下ろした。
 
ルイも埃が立たないようにゆっくり床へと置いた。
ミシェルは直ぐに目を覚まし、上半身を起こした。
 
「アールちゃん……ルイさんも……」
「おはようございます」
 2人は声を揃えてミシェルに挨拶をした。
 
ルイが窓のカーテンを開けると、朝日が部屋に入り込み、ルイの料理を照らした。
 
「ミシェルさん朝食床で食べるけどいい? テーブル小さくて……」
 と、アールは気遣う。
「えぇ。ありがとう」
 ベッドから起き、ミシェルは埃が立たないようにそっとベッドを畳もうとした。
「──僕がやりますよ」
 と、ルイが声をかける。
「あ……すみません。ありがとう」
「食べよーミシェルさん!」
 アールが床に座り、手招きをする。
 ミシェルは笑顔で隣に座った。
「ルイさんは……?」
「僕はもう済ませましたから」
 ベッドを畳み終えたルイはそう言って部屋を出ていった。
 
「あの方はホテルマンじゃないわよね?」
「あはははは! ホテルマンっぽい!」
 と、アールは笑った。「この朝食は彼の手作りです」
「ほんと? なんでも出来るのね……」
 ミシェルは感心した。「いただきます」
「いっただきまーす!」
 
時刻は午前7時半。
ルイがカーテンを開けた窓から、天気のいい空が見える。
 
「アールちゃん……怪我大丈夫?」
 ミシェルは箸を止め、アールの顔を覗き込んだ。
「大丈夫、大丈夫!」
 と、笑顔を見せる。「泉の水でパッティングしといたし、すぐに治りますよ!」
「泉の水……?」
「聖なる泉の水。ルイが汲んでたみたいで、7時頃に起きてパッティングしたんですよ。薬を使うのは勿体ないし、ルイの治療魔法は熱いから……」
「……ごめんね、聖なる泉って?」
 アールも箸を止めた。
「街の外を歩いていると、休息所がありますよね、そこにある泉のことです」
「そんなものがあるの? 街の外には出たことがないから知らなかった……」
「一度もないんですか?」
「えぇ。外に出たことがある人のほうが珍しいわ。だって危険な外へ出て行く必要もないもの……」
「あ、そっか」
 
目から鱗だった。この世界の人々は街の外がどうなっているのか、知っていて当然だと思っていたからだ。
 
朝食を食べ終え、アールは立ち上がった。
 
「よし。朝風呂浴びて出かけよう! 着替え、用意しておきましたから」
「え……?」
「え? お風呂入らないの?」
「入るけど……」
「あ、着替え? 大丈夫ですよ、着てないやつ用意したので。それに貰った服でサイズが大きいのがあるし! ……全部ツナギだけど」
 と、アールは微笑した。
「ふふ、ツナギは初めて」
「ほんと? 私はこっちに来てからツナギばかりです……」
「ログ街に来てから?」
 と、ミシェルは食器を重ねた。
「いえ。このせか……」
 “この世界に来てから”と言いそうになり、慌てて言い換えた。「旅を始めてからずーっと」
「そうなの? ツナギってちょっと憧れる」
 
ミシェルはアールの食器も重ね、立ち上がった。
 
「あ、私が食器持って下りるから、ミシェルさん着替え持ってくれます? 個室に並べてるので」
「わかったわ」
 ミシェルはアールに食器を渡し、個室のドアを開けた。
 
個室には、アールが朝、隣の部屋から運んできたボストンバッグが置かれ、その手前に二人分の着替えが置かれていた。
 
アールは少し警戒しながら2人でエレベーターに乗り、1階へ下りた。
ロビーでホテルのオーナーと会い、挨拶を交わす。
 
「まぁまぁ、わざわざ持って下りてくれたのかい」
 と、オーナーは食器を受け取った。「助かるよ」
「いえ。じゃあお風呂入ってきます」
 と、アールは頭を下げた。
「ごゆっくり。一番風呂だよ」
「わーい!」
 2人は顔を見合わせて笑った。
 

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