voice of mind - by ルイランノキ


 青天の霹靂19…『エルナン』

 
「……なんか大したことなかったな」
 シドはコートから顔を出してそう呟いた。
「うーん……やっぱり引っ掛かるよ」
「あのエルナンっつーオッサンか?」
「あぁ。それによ、何人もここで命を落としてんだよ? こんな呆気なく終わるかよ」
「呆気ないっつっても大分時間食ったし回復薬も使っちまったけどな。──ま、とにかく山下りようぜ」
 と、シドは右手を掻きむしりながら言った。
「納得いかねぇよ……」
 カイはキョロキョロと辺りを見回しながらシドの後を歩いた。
 
──そのとき、突然木の枝が折れる音がしたかと思うと拳ふたつ分くらいの黒い塊が2人のすぐ横に落下してきた。
 
「うわっ! なんだよ!」
 と、シドは咄嗟に刀を構えたが、よく見てみるとそれは生き物ではないようだ。
「……ビデオカメラだよ」
 カイはそう言いながら手に取った。
「はぁ? なんでこんなもんが上から落ちてくんだ」
 
木を見上げると、折れた枝があった部分は腐っていた。そして、蔦のように黒いコードが巻き付いている。
 
「毒糸が引っ掛かって木が腐ったんだろうがなんでカメラが……」
「あのオッサンだよ」
「まーたその話かよ……」
「俺の推理を聞いてくれよ。──エルナンはこのビデオカメラを通してカゲグモの様子を見てたんじゃないかと思うんだよ。カゲグモを退治しようと訪れた奴らの様子も、カメラを通して見れる。だからわざわざここに来なくてもいいってことだよ」
「エルナンがカメラを設置したのか。まぁ所有地にバケモン現れたら無視はできねぇし監視するわな」
「エルナンはそんな話してたかよ」
「……いや。まぁわざわざ言うことでもねぇだろ」
「俺がエルナンから聞いたのは、ここで亡くなった奴らの死因は、依頼を請けて帰ってきた奴らから聞いたって話だった。なんで嘘つく必要があるんだよ」
「どんだけエルナンを疑ってんだお前は……。ドラマの観すぎじゃねえの? カメラで監視もしてたし、請けた奴らからも聞いたってとこだろ……」
 シドは呆れ返ってそう言った。
「だってよぉ! ──ん?」
 
カイは言いかけて後ろを振り返った。──山の上からなにかが近づいてくる気配がするのだ。
 
「嫌な予感がすんな」
 と、シドも警戒を高めた。
 
シドが射止めたカゲグモの奥から、姿を現したのは、一回り小さなカゲグモだった。
 
「げぇ?! 2匹いるのかよ!!」
 カイは驚いてシドの背後へ身を隠す。
「めんどくせぇな」
 と、シドは顔を歪めながら、肩で頬を拭った。
「シド、あんたまだやれるかよ?!」
「さぁなぁ……力使いすぎたか、ちょっと熱っぽいけどな」
「……熱っぽい?」
 
一回り小さなカゲグモは、死んでいるカゲグモの上を乗り越えてジワジワとシドたちがいる方へと距離を縮めてくる。シドは両手で刀を構えていたが、ふと右手をまた掻きむしった。
 
「シド……あんた、もしかしてよぉ……」
「あー? 話してる場合じゃねぇだろ。おまえは下がってろ」
「あ、あぁ……」
 
カイは少し動揺しながらシドに背を向け、その場から離れようとしたが、足を止めた。
 
「シド……エルナンのお出ましだよ……」
「あ"ぁ?」
 
突如現れたエルナンは、ライフルを構え、シドへ銃口を向けていた。
 
「カイ、お前の予想は間違ってなかったのかもな……」
 

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