voice of mind - by ルイランノキ |
──数時間前。
「アールがいない。ルイもいない……ついでにシドもぉ……」
と、漸く起きたカイは部屋の中を捜し回りながら歎いていた。
テーブルの上に置いてあったメモ用紙を見つけ、目を通した。
「“アールさんをVRCまで連れて行ってきますね。食事はルームサービスか、お金を置いておきますのでどこかで食べてください”……って、俺一人でぇ?!」
肩を落とし、メモ用紙もハラリと床に落ちた。呆然と虚空を見遣る。
「ひどい……。ひとりにするなんて……可哀相な俺……」
力無く床に座り込み、メモ用紙をぐしゃぐしゃに丸めた。ため息がこぼれる。
「おいしくないルームサービスは嫌だ。ひとりぼっちで食事に行くのもやだ。お金なんて渡されても嫌なもんは嫌だ! ……ん? お金?」
カイはすくと立ち上がり、テーブルに置かれていた封筒からお金を取り出した。2千ミル入っている。
「これ……2千ミルで何が買えるかなぁ! パズル、フィギュア、お菓子、新しいパンツ……よし! カイ様いざ外へ出陣!」
ルイがカイの食事代として置いていったお金だったが、カイの頭の中はおもちゃやお菓子でいっぱいだった。ひとりぼっちの寂しさなどどこかへと吹っ飛び、刀を腰に掛けてすぐに部屋を飛び出した。
「なにも恐れることはないぞカイよ。確かに物騒な街ではあるが、カイ……君は勇者なのだ」
と、カイはブツブツと言いながら街を歩く。「お前には相棒がいるじゃないか。ビビアンという名の刀が」
すれ違うログ街の住人が、カイに目を向ける。ブツブツと独り言を喋っているのだから無理もないが、それだけではなかった。
「おい、そこのモヒカン!」
と、一人の男が声を掛けてきた。その後ろから二人の男が近づく。
「モーヒーカーンー? あっ! 俺モヒカンだった!」
すっかり忘れていた。モーメルの家で食べたイメチェンディプラスの効果はまだ切れていないのだ。
「変装したってバレバレなんだよっ!」
そう言ってカイの腕を二人の男ががしりと掴んだ。
「わわっ! なんだよぉ! なんのことっ?!」
「お前だろ! 前髪を縛ってた男ってのは! よくも俺の息子を殺そうとしやがったな!」
「なぁんのことだよぉ!! ──あ。」
カイはアールが話していたことをすぐに思い出した。変な噂が流れていると言っていた。
「お前ら、こいつを倉庫に連れていけ」
と、男はカイを拘束している二人の男に命令をした。
「まっ、待ってよ! 誤解だってぇ! あれは子供……あのお子様にカメラ屋はどこか訊いただけなのにいきなり『僕を殺そうとした』とかなんとか言い出してぇ……」
「俺の息子が嘘を言うわけねぇーだろうが!!」
「ひぃーん……親バカぁーっ」
「なんだとッ?! さっさと連れていけッ!」
「ぎゃああぁあ! 誤解ですってぇ!!」
抵抗も虚しく、カイは一軒家の隣にある倉庫に連れて行かれた。両手を後ろに縛られ、刀を奪われ、されるがまま言われるがまま従うしかなかった。
「返してくださいビビアンをぉ……」
「なに訳のわからねぇこと言ってんだ。お前等、もう下がっていいぞ」
と、男は、手を貸した二人の仲間にそう言った。
カイと男は二人きりになった。倉庫内にはただならぬ空気が漂っている。
「さて、どうシバくかな」
「こんな弱い俺が子供を殺そうとするわけないじゃないですかぁ……」
「弱い奴ほど自分より弱い奴を虐めるんだ!」
「あ、確かに。いいこと言いましたねぇ、そうかもぉ!」
カイは笑顔で納得したが、すぐに笑顔は消えた。「ごめんなさい……でも俺本当になにもしてなくてぇ」
「だったらなんで息子はあんたに怯えていたんだ!」
「ですからそれはぁ……」
「息子が嘘をついたとかバカなこと言うんじゃねーぞ?」
「…………」
親バカに真実を話しても理解するわけがない……と、カイは悟った。
「息子を呼んで来よう」
「おっ! 証言を訊くのですかぁ?」
「お前をどう処分してほしいか訊くんだよ!」
「…………」
親がこうだから息子がああなる。と、カイは確実した。
男は倉庫にカイを放置したまま、息子を呼びに出て行った。カイは一人、うなだれた。
「はぁ……。おもちゃを買いに行くはずがなぜ倉庫へ……」
腕を縛っている縄をどうにかして解こうとしたが、きつく縛られているため緩めることすら出来ない。しかし運良く足は自由だ。カイは立ち上がり、辺りを見回した。
「なにか縄を切る物は……いざカイ様の脱出劇! チャラーン!」
「なにが脱出劇だ」
と、早くも男が息子を連れて戻ってきた。
「脱出劇……完。人生そううまくは行かなかったのでした。」
「さーて息子よ、お前が見たのはコイツだな?」
「うん! 僕に刀を向けたんだ!!」
「抜いてもないのにぃ……。ビビアンは鞘の中でおねんねしてましたよ……」
と、カイは落胆した。
「嘘つけ! ──父さんがコイツを懲らしめてやるぞ。どうしてほしいんだ?」
「んーとね、んーと……お金!」
「お、お金?」
男は意外な発言に驚いた。
「お金で解決してあげるんだ」
「金か……金ねぇ……」
カイは、さすがに親バカでも叱るだろうと黙って成り行きを見ていたが……。
「いい子だ! さすが俺の息子! 暴力はいけないよなぁ! 暴力を振るうくらいなら金で解決だ! お前はいつからそんなに大人の考えを持つようになったんだ? 父さん嬉しいよ……」
恋に効く薬と、親バカに効く薬はきっとない。……と、カイが学んだ瞬間だった。
「お金なんて持ってませんよぉ……」
「あるじゃねーか」
と、男はカイのポケットから財布とお金の入った封筒を取り出した。
「その封筒のお金は勘弁してくださいー…。仲間から授かった大切な大切なお金なんですよぉ……」
おもちゃを買おうと思っていたけれど。
「あんたの財布には小銭しかねぇじゃねーか! それに封筒の金もたったの2千ミルか……」
「僕それだけでもいいよ!」
と、少年が目を輝かせて、手を出した。
「おぉ……たったの2千ミルでもコイツを許すなんて……自慢の息子だ!」
と、男は息子を抱きしめた。
「どこがだろう……」
カイは呟く。
「おいお前! 少しは俺の息子を見習え!」
「はい。」
返事をしたものの、本当に了承したわけではない。「あの……お金はさしあげますのでそろそろ縄を……」
「反省しろ」
「……へ?」
「暫くここで反省してろ」
「そんなぁ……」
「息子よ、しばらくコイツを倉庫に閉じ込めておくから、近づくんじゃないぞ?」
「うん!」
男は倉庫の奥から縄を持ってきて、カイの足までも縛った。
「足の自由も奪うの?!」
「あたりめーだ! 2時間大人しくしてろ」
「2時間っ?!」
「2時間後に解放してやる」
そう言い残し、男は倉庫を出て鍵を閉めた。
Thank you... |