voice of mind - by ルイランノキ


 捨てた想い15…『DINO』

 
アールの手には、しっかりとライズの父親が残した形見、魔銃が握られていた。
 
『見つかったのかい』
「うん! 多分これだと思うけど……」
 
グリップ部分に、月の紋章が嵌め込まれている。アールは銃を傾け、さまざまな角度から眺めた。
 
「あ……なんか持つとこの底に……」
『なんだい?』
「D……I……N、O……ディノ!」
『おやおや、名前が掘られていたなんて知らなかったよ』
「よかったぁ見つかっ……て……」
 
アールは背中に生温い風を感じた。振り返ると今まではなかったはずの重厚な扉が、そこにあった。
 
「とびら……?」
『なんだい? なにかあったのかい?』
「扉が出現しました」
 アールはふらつきながら立ち上がった。「ど〇でもドア?」
『なんだいそれは……』
「あ、いえ……。これは開けろってことですよね?」
『そうだね。でも待ちな。なにがあるか分からないんだ。気をしっかり持って挑むんだよ?』
「……はい」
 
──正直、不安だし怖い。
気をしっかり持てと言われても、なにが起こるのかわからないのにどうしっかりすればいいのだろう。
 
アールは泉に飛び込んだ瞬間は自分でも驚くほど前向きだったが、今は、ライズには悪いけれど少し後悔している自分に嫌気がさしていた。
 
『アール、みんな、待ってるからね』
「え?」
『ライズと、カイとルイはあんたがいる泉の上で、シドはアタシと家で待ってるよ』
「シドも? それは嘘でしょ。シドが待っててくれるわけないよ」
 と、アールは苦笑した。
『いいや、ちゃんといるよ』
「なんで? 柱にでも縛り付けたの?」
『聞こえてんだよバァーカ!』
 と、シドの怒鳴り声が響き、アールは度肝を抜かれた。
「……ほんとにいたんだ、ごめん」
『いちゃわりぃかッ』
「怒鳴らないでよ……こっち洞窟みたいなとこで案外声が響くんだから……」
『泉に飛び込むとかバカだろテメェは!』
『シド! 怒るのはアールが帰ってきてからにしな!』
『帰って来なかったら怒れねーだろが!』
『まだ信じてないのかい! 人を信じれない奴は誰からも信じてもらえないよ!』
『うっせーババァは黙ってろッ!』
 
耳を塞ぎたくなる二人の言い争いが、アールの首から下げられたペンダントから聞こえるのは、滑稽だった。
 
「私そろそろ行こうかな……」
『…………』
 
二人の言い争いが、弱気になって強張っていたアールを落ち着かせていた。
 
『大丈夫かい?』
「うん……多分……」
『多分じゃだめさ。扉の向こうへ行けば、沢山の痛みを見ることになる』
「痛み?」
『希望を、無くしてはいけないよ?』
 

──帰れる
 
本気でそう思ったんだ。
 
なのに……。
 
希望なんて どこにあるの
 

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©Kamikawa
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