voice of mind - by ルイランノキ


 捨てた想い3…『イメチェンディ』

 
ルイ、カイ、シド、アールの四人は揃って椅子に座った。カイはアールの隣にしようか散々迷ったあげく、結局向かい合わせになる席に決めた。
シドは左端のひとりの席に座り、不機嫌そうに肘をついて、モーメルからそっぽ向いている。
 
「そういえばシド、仕事は?」
 と、アールが訊いた。
「まともな仕事がなかった。明日また探しに行く」
 シドは目を合わせず、ぶっきらぼうにそう答えた。
「仕事を選んでる暇なんてないよぉ」
 と、カイは自分で持ってきたスナック菓子を食べながら言った。
「カリフラワーに言われたくねーよ」
「カリフラワーって言うなよ! カリフラワーは白いじゃないかぁ!」
「ほぼ白じゃねぇか」
「かろうじて黄色だよ!」
「アールさん、あれからなにかわかりましたか? 防護服のことなど……」
 と、ルイ。
「あぁ……なんか私の力? が、影響してるみたい。今は結界のこと調べてもらってる」
「そうですか……。なにかわかるといいですね」
「うん」
「ねぇねぇルイー」
 と、カイがなにかを企んでいるような笑みを浮かべながらイメチェンディが入っている瓶をルイに差し出した。「ルイもイメチェンディ食べてみてよぉー、俺だけアフロは嫌だー」
「イメチェンディって髪型と髪の色が変わるだけ?」
 と、アールが訊く。
「ううん、他にも色々! ささ、ルイも食べて」
 瓶を傾けて、ルイに急かした。
「しょうがないですね……」
 と、ルイは飴玉を選ぶ。
「食べるんだ……」
 アールは、ちょっと意外だなと思った。こういうおふざけには付き合わないタイプかと思っていたけれど。
「これにします。では、いただきます」
 と、ルイは飴玉を口に入れた。
 
そっぽ向いていたシドも、ついルイに目を向ける。
ボンッ! とルイの頭から白い煙りが立ち上がる。
 
「ぶはっ!!」
 と、カイはお菓子を吹き出した。
「どうなりました?」
 爽やかに微笑みながら訊いてくるルイを見て、シドも思わず笑い出しそうになるのを必死にこらえている。
「アールさん、僕どうなりました?」
「えっ、いや……あの……」
 
見てはいけないものを見てしまったような気がしたアールは、黙って立ち上がると鏡を持ってきた。鏡を渡されたルイは、変化した自分の姿をまじまじと観察。
 
「これは……ただちに育毛剤が必要ですね」
 サラサラヘアーだった髪は、見事にハゲ上がっていた。
 
一言でハゲといっても、フランシスコ・ザビエルのようにてっぺんだけに毛がない。残っている毛は変わらずサラサラである。
シドが頬杖をついている手で口を押さえ、笑いを堪えている。
 
「なんだか頭がスースーしますね。夏はいくらか涼しいかもしれませんが、直射日光が……。それに髪が減ると少し老けたように見えます」
「ちょ! やめてっ!!」
 と、カイが顔を真っ赤にして笑った。「ハゲた感想とかいらないから!」
「そうですか?」
「おやおや、楽しそうだね」
 と、モーメルが紅茶を持ってきた。「飲むかい?」
「いただきます」
 と、いつもの笑顔で言うルイだが、髪型のせいでなんだかマヌケに見える。
「シドも飴食べなよ」
 と、今度はアールが勧めた。
「冗談言うな」
「みんな食べたのにシドだけズルイ……」
「うるせーな! ぜってぇ食わねぇからな!」
「そんなに変になるのが嫌なんだ。そこまで子供みたいに嫌がらなくてもいいのに」
「なんだと……?」
 と、シドは“子供みたい”と言われたことに苛立った。
「ささ、どーぞどーぞ」
 アールはテーブルに置いていた瓶をシドの前に置いた。
「……食えばいいんだろ、食えば」
「お。シド男らしいぃー」
 と、言ったのは残念ながらカイである。
 
シドは適当に飴玉を取ると、口に放り込んだ。しかしボンッ! と白い煙りが出たのは頭からではなく、首元からだった。
 
「あれ? 髪型変わらないね、色も……」
「不良品じゃね……?!」
「あーっ!!」
 と、カイが立ち上がった。「声が!」
「シドもう一回声出して」
 と、アールが言う。
「……もう喋らねぇからな!!」
 
そう叫んだシドの声は、可愛いらしい女の子の声だった。
それからシドは3時間、一言も喋らなかったのは言うまでもない。
 
━━━━━━━━━━━
 
「今夜は泊まっていきな」
 と、モーメルは言った。
 
あれからモーメルは再びアールのことを調べ、アールたちはモーメルがカイのために用意していたおもちゃで遊んでいた。
すっかりアールの髪は元の黒髪に戻り、勿論、カイもシドもルイも元通りだ。
 
「いえ、迷惑はかけられませんので」
 と、ルイが遠慮する。
「迷惑じゃないさ。それにもう少し調べたいことがある。遅くなるだろうからね」
「そうですか……。でしたらお言葉に甘えて」
「俺は帰るぞ」
 と、シドは席を立った。
「あんたにもまだ用がある。大人しくしてな」
 と、モーメルは何か探し物をしながら言った。
 
シドはよほどモーメルのことが苦手のようだ。気がつけば、ライズの姿がなかった。
 
「ライズ……またいないね」
 アールはライズが横になっていた床を眺めながら呟く。
「まったく、出かけるときは一言言えと言ってるんだけどね」
「また沈静の泉かな……」
「どうだかね」
「沈静の泉ですか? この近くに?」
 と、ルイはモーメルを見遣った。
「泉は近くだよ。崖を下った先にある」
「ルイ知ってるの? 沈静の泉」
 と、アールは紅茶をすすりながら訊いた。
「ええ。魔導師や魔術師は大抵知っていると思います。ライズさんは泉に何をしに行かれたのですか?」
 
モーメルはまだ何か探し物をしていたので、代わりにアールがモーメルから聞いた話を伝えた。
 
「父親の形見……ですか」
「うん。詳しくはまだ聞いてないけど」
「形見ってなんだよ。犬歯か?」
 と、シドが笑う。
 モーメルは探し物をしていた手を止めた。
「あんたたちにきちんと話すべきかもしれないね。本当は本人の口から話すのが一番なんだろうがね」
 そう言いながら、空いている席へと腰掛けた。
「でもライズは話すなって言ってた……」
 アールはライズを気にかけたが、モーメルは暫く考えた後、口を開いた。
「──ライズのことだが、あんたたちとは無関係だとは言えないからね」
「どういうことですか?」
 と、ルイ。
 
シドも黙って耳を傾けた。床におもちゃを散らかして遊んでいたカイも、席に座って話を聞く態勢を構えた。
 
「その前にルイ、あんた“新しい仲間”のことはみんなに話したのかい?」
「いえ……アールさんにはまだ……」
 と、ルイは視線を落とした。
「なに? 新しい仲間って……」
「アールさん、実は……アールさんをこの世界へ召喚させた黒魔術師ギルトという方が、言い残した言葉があるのです」
 
 
──それは、アールがこの世界へ召喚される前の話である。
 
彼には未来を見る力があった。水晶を通して見える未来。
暗黒の闇に包まれた世界の中に、一際目立つ光があった。それが、アールを示す光だった。
ギルトは、その光が闇全体を照らし、世界を救うのを見たと言った。それから、その一際目立つ光を囲むように、緑色に輝く光が4つ。その光の持ち主が、シド、カイ、ルイ、そして……ヴァイスという名の男。
ギルトは自身の目で見た未来をゼフィール国の王であるゼンダに告げ、それぞれの光を放つ者の捜索に向かった。そして、彼らに使命を伝えるべく、ゼフィル城へと誘った。ただ唯一見つからなかったのは、ヴァイスという男だった。
  
「見つからなかっただと?」
 アールがこの世界に召喚される前こと。ゼンダがギルトにそう言った。
「あぁ。支えとなる光がひとつ足りないとなると希望も薄れる」
「世界は滅びへと向かい、五つの光が滅びゆく世界を救う……。まことに信じがたい」
「まだ疑っているのか。信じる信じないは自由だが、信じなければこの世界が終わるだけだ。この世界を救える唯一の手段が五つの光だ。そのたった一つの希望の為に、私は始まりとなり、命を捧げる」
「……偉大な力をもつ黒魔術師、ギルト。お前はそれを望んでいるのか?」
「私の命をどう使おうが、私の勝手だ。それに例え心変わりをしたとしても、黒魔術師であると打ち明けた以上、もはや生きる術もない。まぁ、心変わりなどありえんがな」
 
ゼフィル城に集められたルイ、シド、カイは、国王と黒魔術師ギルトと直々に対面し、それぞれ己に課せられた使命を請け負った。誰もが半信半疑でありながらも真実であるならば黙殺できない世界の未来を託された使命に混乱と押しつぶされそうになる中で、真っ先に口を開いたのはカイだった。
 
「俺も光に含まれてるってほんと……?」
「あぁ、本当だ。選ばれし者の支えとなれ」
 そう言ってギルトはカイの肩に手を置いた。「お前は……なくてはならない存在だ」
「ふーん……」
「気が進まないか?」
「俺はねぇ……シドといれるならそれでいい」
「気持ちわりぃこと言うな!」
 と、シド。
「威勢がいいな」
 ギルトはシドに目を向けた。「シド……お前は一番力がある。戦闘では頼りになる存在となれ」
「……あぁ」
「ルイ、君には負担が大きいかもしれないが……」
「僕に出来ることなら、何でも致します」
「そうか。それは頼もしい。もし旅の途中でヴァイス・シーグフリートという男を見つけたなら、仲間にすることだ」
「四人目の光、ですね?」
「あぁ。難しいかもしれないがな……」
「…………?」
 
 
──アールはその話を聞いて、また重荷が増えたような気がした。
 
少しずつ明かされてゆく真実。全てを受け止めていかなければならない。
一方的なものでも、歩き出した以上、背負っていかなければならない。
逃げることは、許されない。  
 
 

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