voice of mind - by ルイランノキ |
──朝を迎える度に、夢のような世界(げんじつ)が待っている。
逆に、寝ている間に見る夢のほうが現実的だったりする。
家族がいて、友達がいて、恋人もいて、
生まれ育った場所、思い出がある。
時折、どっちが夢なのかわからなくなる。
そのせいで、最近見る夢がおかしい。
家族がいて、友達がいて、恋人もいて、
生まれ育った場所、思い出がある。
その場所にいる私は、
“良子”ではなく“アール”だったりする。
気が狂いそうになるけれど、そんな暇もなく時間は流れてゆく。
のんびりと 心の整理をする時間がない。
だけど、それでいいと思った。
考える時間があったら、歩き出す気力を失うような気がしたから。
━━━━━━━
「アールさん」
と、後から洗濯所を出てきたルイ。「先程話し声がしましたが……なにかあったのですか?」
「ううん。昨日の夜、窓から街を眺めてたときに外からきた旅人さんいたじゃない? あの人たちもここのホテルに来たみたいで、挨拶されただけだよ」
「そうですか」
本当にルイは心配性だなとアールは思った。けれども普段心配ばかりかけているのだから、無理もない。
ルイはアールの隣で歯を磨きはじめた。アールは先に部屋へ戻ろうかと思ったが、ただなんとなく待つことにした。特に意味もなく誰かと一緒に行動したくなるのは女性特有なのかもしれない。
「モーメルおばあちゃんって何歳くらい?」
と、アールは訊いた。
「…………」
「ルイ? あ、まぁどうせ今日会うんだもんね……」
そう言うとルイは歯ブラシを口から抜いて口をゆすいだ。
「すみません、歯を磨いていたので……」
「あっごめん! あとでいいよ!」
「すみません、急いで終わらせますね」
と、ルイは再び歯を磨きはじめた。
「ゆっくりでいいよ! 先に戻っておくね」
アールは部屋へ向かった。シドもカイも歯を磨きながらでも話しをするため、ついルイにも同じように話しかけてしまった。確かに歯を磨きながら喋るルイの姿はあまり想像できない。
部屋に戻るとカイはベッドで眠っていた。いつものことである。アールは床に座り、ストレッチを始めた。
暫くして、ルイが部屋に戻って来るとカイを起こしながらアールに言った。
「そういえばモーメルさんの年齢は訊いたことがありませんでした」
「そっか。あ、ライズもいるかな?」
「どうでしょうね。僕たちも彼の存在は初めて知りましたので」
「そうなんだ。喋る狼かぁ、なんかカッコイイよね。普通の狼より一回り大きかったかな」
と、アールは立ち上がって背伸びをした。
「狼型の魔物……でしょうか。彼のことも気になりますね。──カイさん、起きてください!」
「んー…、俺の眠りの邪魔をするというのはよほどの理由があるんでしょうねぇ……」
と、目を閉じたまま言うカイ。
「カイさんもモーメルさんに会いに行かれるのでしょう? 起きましょう」
「うーん……やっぱり行くのやめようかなぁ……このまま寝たほうが幸せな気分」
アールはそんなカイに近づいて言った。
「ライズの他にも若い女の人が住み込みで働き始めたって聞いたけど、どんな人なんだろうね」
「マジでっ?!」
と、カイが起き上がった。
「嘘ぴょん」
「…………」
カイから表情が消え、再びベッドに横になった。
「わっかりやすいな……」
「アールさん、残念ですが今回は2人で行きましょう」
「そうだね。2人で行こっか」
「手土産を持っていきませんか? お菓子でも。ケーキなどいいかもしれません」
「いいね! ルイとモーメルさんと私と3人で美味しくいただこう!」
「……4人分でお願いします」
と、カイが言った。
アールとルイは顔を見合わせて笑った。
Thank you... |