voice of mind - by ルイランノキ


 累卵之危2…『トゲトゲの森』

 
スーパーライトからトゲトゲの森に向かって攻撃を開始。一部のロクトアントスを燃やすことが出来ればアールがいると思われる崖まで辿り着きやすくなる。けれど、攻撃を放った場所から黒煙が上がったものの、燃えた箇所を隠すように四方八方から棘の蔦が伸びて覆い被さってしまった。
 
「どうなってんだ?」
 上空に待機しているスーパーライトの一機に乗っている男が呟いた。
「今度は何発か攻撃を仕掛けよう」
 別の機体に乗っている男が言う。
 
同じ場所を目掛けて再び攻撃を放った。轟音と共にふた回り大きい黒煙が空へと上って行く。暫く煙が風に流れていくのを待ったが、ロクトアントスはまた同じように傷を負った部分を隠すようにあらゆる方角から蔦が伸びて、重なり合った。
 
「隠しているだけとは思えないな」
「変化が見られません。攻撃を続けますか?」
 と、上空からデリックのレシーバーに連絡が入る。
「参ったな……スーパーライトからの攻撃も効かないらしい」
 と、デリック。
「上空からアールさんを引き上げることは出来ませんか」
 切羽詰った様子でルイが言った。
「それがお嬢と思われる人影も蔦が覆いかぶさっているんだ」
「その覆いかぶさっている蔦を上から引き上げることは出来ませんか」
 そこにシドが会話に入った。
「隙間が少しでも出来れば引き上げられるんじゃねぇのか」
「ここから見たら蔦の高さは2m程度だが、奥はもっと密集してんだ。その下の方に人影がある」
「難しいかもしれませんが、少しでも可能性があるならお願いします」
「聞こえたか?」
 と、デリックはレシーバーに向かって言った。
『はい。釣り上げロープも用意してありますので早速開始致します』
「お。用意がいいな」
「一応、他の方法も考えましょう」
 と、ルイ。
「あ、あの……僕を助けていただけないでしょうか……」
 と、未だに蔦に捕まって身動きが取れなくなっているボリス。
「お前はしばらくそこにいろ」
 デリックは面倒くさそうにそう言った。
「そ、そんなぁ……」
 
突然、ヴァイスの肩からスーが地面に降り立った。体から手を作り出し、トゲトゲの森の奥を指差した。
 
「お前が行くというのか?」
 と、ヴァイス。
「スライムが行ったところでどうなる」
 と、シド。
「様子を見に行くことならスーさんにも出来ます」
「様子を見に行かせたとして見てきた様子をどうやって伝えんだよスライムが」
 シドは苛立ちながら腕を組んだ。気持ちばかり焦ってしまうのは全員同じだった。
 
スーもアールのことを気にかけている気持ちは同じだった。なにか自分にできることはないかと、体の形を変形させながらトゲトゲの森へと入っていった。
 
「俺がスーちんだったらなぁ。なにも出来ないかもしれないけど、様子だけでも確かめたい……」
 と、カイ。
「…………」
 ルイも同じ気持ちで、足元に流れる血を見下ろした。
 
モーメルの家でもそうだったが、彼女の身体に異変が起きているのは明らかだ。一人の人間から流れる血の量ではない。ルイはちらりとヴァイスの顔を盗み見た。ヴァイスは森の奥を眺めている。心配そうではあるが、アールの“死”を悟っているようではなかった。これだけの血を流しても尚、彼女は生きている……。
その不安を抱いてるのは、シドやカイも同じだった。そして、なぜこんな場所にいるのか……その疑問も付きまとう。
 
ルイの携帯電話が鳴った。リアからだ。
 
「はい」
 電話に出ながら、上空にいるスーパーライトに目を向けた。一機から垂らされているロープの先に、太くて大きい釣り針のようなものが付けられている。
『そっちに行けなくてごめんなさい。様子はどう?』
「まだ、救出出来ていません……。今は上空から救い出せないか試みているところです」
『そう……なにか……便利な道具でもあるといいのだけど』
 そのリアの言葉に、モーメルの顔が浮かぶ。
『アールちゃんであることは確かなの?』
「えぇ……ヴァイスさんが言うには……」
『そう……』
「すみませんが、アールさんがどうしてこんなところにいるのか、調べることはできませんか。森の外から崖付近の奥まで入ることは不可能です。……上から落ちたのではないかと思うのですが」
『上から……』
「もちろん、自らの意思で落ちたとは限りませんが……。崖の上を調べていただきたいんです。なにかわかるかもしれない」
『……わかったわ』
 
ルイは電話を切った。
 
「落ちたって、なに」
 と、カイ。
「崖付近にいるとのことなので、崖の上から落ちた可能性を……」
「自らの意思でって……それって……自殺ってこと?」
「……わかりません」
「…………」
 
一同は黙り込んでしまった。絶望の先に選んだ彼女の選択肢。足元を広がり続けている血を見て、思わず後ずさってしまう。けれど幾ら離れようとしても一面に広がっていて逃れることはできなかった。彼女の苦しみが形となって視界に入り込む。
 
その頃スーは、なるべく棘に触れないように気をつけながら体を自由自在に変形させて崖の方へと進んでいた。スーの体はあっという間にぬかるんだ泥とアールの血で汚れていく。
 
そして、スーはある場所で立ち止まった。上を見遣り、じっとそれを見つめた。スーの目の前には、アールがいた。身体の数箇所を棘が貫いている。アールの顔面に太い棘が刺さっているため、彼女の顔が無くなっていた。ボタボタと血が流れ落ち、赤い池をつくっている。
 
スーは手を作り、アールに伸ばした。生きているとは思えない。顔に突き刺さっている棘の横から頬に触れ、ペチペチと叩いてみる。反応は全くなかった。せめてアールの身体から棘を引き抜けないかと試みるも、小さな棘くらいしか動かせなかった。頭上を覆っている何本もの蔦の隙間から、スーパーライトが見え隠れする。周囲の蔦が動き始めた。蔦の意思で動いているのかと思ったが、よく見れば機体から下ろされたロープに引っ掛けられて持ち上げられているようだ。もしかしたらアールの周囲の蔦を取り除けるかもしれない。スーはアールの側に身を置きながら成り行きを見守った。──けれど、蔦の動きはすぐに止まってしまった。蔦を持ち上げるのを止めたのだろうか。
 
『駄目です。動かなくなりました。びくともしません』
 と、デリックのレシーバーに連絡が入った。
「植物相手に苦戦するとはなぁ」
 デリックは頭を掻き毟った。
 
応援を増やしたところでどうしようもない。なにか他に手立てはないか。
ルイはモーメル宅に電話を掛けた。
 
『はい。モーメルは不在だよ』
 と、ウペポが電話に出る。
「ルイです。アールさんが見つかりました。ただ、トゲトゲの森の奥にいるようで、助け出そうにも出来ない状況です。なにか使えそうな道具はありませんか」
『トゲトゲの森……』
「ロクトアントスという植物に覆われているところです」
『ロクトアントス……それはまた厄介だね。入るのは難しいよ』
「だから困っているんです」
 と、ルイも苛立っていた。
『ちょっと待ちな。調べてみるよ。かけ直す』
「お願いします」
 電話を切り、他に出来る事はないかと考える。
「デリックさん。僕をスーパーライトに乗せてもらえませんか。モーメルさんが入院している病院へ行きたいのですが」
「こんなときに何言ってんの?」
 と、カイが怪訝な表情を向けた。
「モーメルさんに直接相談してきます。彼女なら今のアールさんのことも助け出す方法も考えつくかもしれませんから」
「貸すのはいいが街によっては途中からゲートで行ったほうが早いな。どこの街だ?」
 

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