voice of mind - by ルイランノキ


 竜吟虎嘯18…『そろそろ』

 
──問う。
 
いま、どんな気持ち?
 
 辛くて、悲しくて、苦しくて、心が張り裂けそうだ。
 
どうして?
 
 受け入れたくないことばかり起きるから。
 
どうして?
 
 そんなの知らない……
 この世界で人の死は当たり前のように身近にある。
 私は人を殺せる武器を持っている。
 時折自分自身がわからなくなるときがある。
 とても怖い。
 命を奪うことを爽快に感じている自分がいる。
 
だれにでも 黒い部分ってあるんじゃないの?
 
 そうかもしれないけど
 ここまで酷いものはない。
 
どうしてひどいとおもうの?
 
 命を奪うことはいけないことなのに
 痛みを伴わないなんておかしいから。
 
でもこの世界ではそんなこといっていられないじゃない?
 
 そうだけど……
 
世界を救うには犠牲を伴うの しかたがないことでしょう?
 
 命を奪うことを仕方が無いという言葉で片付けたくはない。
 
じゃあどうしたいの
 
 誰も死なせずに 世界を救いたい。
 
できるの? そんなこと
 
 …………
 
できるの? そんなこと
 
 …………
 
できないでしょう。
敵は貴女を、皆を、殺しにくるのだから。
 
 …………
 
理想や夢を語るのは結構。でも理想や夢と、現実は違う。
 
 …………
 
全てを手に入れようなんて、甘い考え。
 
 …………
 
そうやってこんなの嫌だとわがまま言っている間にまた誰かが死ぬの。
  
 …………
 
大切な人が殺されるの。
 
 …………
 
あなたが 優しい自分に酔っていたいが為に 大切な人が殺されるの。
 
戦いはもう始まっている。
 
止めることはできないの。
 
なかったことにも出来ないの。
 
でも、終わらせることはできる。
 
その手で。
 
 邪魔者は殺せというの?
 
そう。邪魔者は殺すしかないの。大切な人を守るために。守りたいものを救うために。
 
 …………
 
いいの? あなたが優しさを振りまいて殺せないと迷っている間に仲間が殺されても。きっとあなたは殺しておけばよかったと思うの。さっさと殺しておけば、仲間が死なずに済んだのにと思うの。優しい自分に酔っている自分に絶望するの。
 
 …………
 
いま、どんな気持ち?
 
 自分を 殺したい 気持ち。
 
━━━━━━━━━━━
 
外に出していたテーブルはヴァイスが自分のシキンチャク袋に片付けていたようで、結界の中にテーブルを出すとルイはすぐに朝食の準備をはじめた。といっても、リアが持ってきた料理をお皿に分けて並べるだけだ。テント内に出したローテーブルに全て並べるには小さすぎたのだ。
 
「先に食べていてください。カイさんとシドさんを起こしてきます」
 と、ルイはヴァイスに言って、テントへ。
  
テントに入るとシドが既に起きており、腕立て伏せをしていた。
 
「おはようございます。今日はゼフィル城専属の料理人が作ってくれた朝食です。リアさんが持ってきてくださいました」
「へぇ、たまにはいいな」
 と、シドはテントの外へ。
 
ルイがカイを揺さぶると、カイはすぐに起きた。浅い眠りの日々なのだろう。寝てはいるものの、寝起きの顔色はあまり良くない。
 
「カイさん、おはようございます」
「はよー…」
「今日は豪勢ですよ」
 と、言ったとき、ルイの携帯電話に着信があった。
「ゼンダさんからですね……」
 
ルイが電話に出ると、カイは四つん這いでテントの外へ出た。既にヴァイスとシドは食事を始めており、カイも眠気眼で食事を始めた。
 
「はい」
『私だ。急だが、そろそろアリアンの塔へ戻りなさい。他にシュバルツやアリアンに関することでなにか資料はないか調べてほしい』
「え……あの、ですが今は……」
『アールのことは我々が引き続き捜索を続ける』
「…………」
 
なにも言えなかった。本当に急だ。シド、カイ、ヴァイスは今日もアールを捜すつもりでいる。決断しなければならないと思ってはいたけれど。
 
『居場所がわかれば連絡する。そのときはお前たちが迎えに行けばよい』
「……はい」
 腑に落ちなかった。
『モーメルに頼まれている歩行地図の完成もなるべく速めるよう、心掛けなさい』
「わかりました」
 
電話を切り、浮かない表情でテントを出た。食事を進めている3人を見遣り、どう切り出そうかと考える。
 
「どうした」
 ルイの様子に気づいたヴァイス。カイとシドも、手を止めてルイに視線を向けた。
「ゼンダさんから……連絡がありました」
「…………」
「そろそろ……アールさんのことはこっちに任せて旅の再開を、とのことです」
「…………」
 カイは視線を落とすと、急に食欲が無くなり、箸を置いた。
「まずはアリアンの塔へ戻りましょう。まだ調べ切ってはいないので」
「やだ。」
 カイは俯いたままそう言った。
「だったらお前だけ残ってろ」
 シドはそう言って、食事を再開した。
「アールさんのことが心配なのはわかります。でも、僕等にはやるべきことがあるのですから」
「アールがいなければ調べようがないがな」
 と、ヴァイス。
「え? ……あ、そうでしたね」
 ルイは苦笑した。そうだった。アリアンの塔があるテンプルムに入るにはアールがいなければ不可能だった。ゼンダはそのことを知らないのだ。
「ゼンダさんに連絡します。ですが、塔へは戻れなくても旅は再開しなければなりません。僕等はもっと強くならなければ。時間がありません」
「…………」
 カイは何も言わず、下を向いている。
「アールさんが戻ってきてくれたとき、彼女を無事にシュバルツの元へ届ける必要があります。彼女の力になるためにも、僕等はもっと自身を強化しておかなければならないのですよ? 足手まといになるわけにはいきません」
「わかってる……」
 消え入りそうな声で呟いた。
「本当は、僕等だけで全てを終わらせることができたら一番いいのですから……」
 
彼女を危険な場所へ届けずに済むのなら。
 

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