voice of mind - by ルイランノキ


 竜吟虎嘯17…『敵は身近に』

 
中途半端な心で
再スタートを切ることはできない。
 
安定しなければ再スタートは切れない。
 
息切れした状態でまた走り出したって、
すぐに立ち止まってしまうから。
 
呼吸を整えて
どうすればもっと長く走れるのか
どうすればもっと力強くいられるのか
とことん追求して
これならいけると思うところまで
自分を知って
あとは
 
飛び出す勇気。
 
━━━━━━━━━━━
 
早朝、ルイはテントを打ち付ける雨音に目が覚めた。
体を起こすと、テント内にヴァイスが座っていた。
 
「おはようございます」
「おはよう」
 
布団を片付け、テント内にローテーブルを出した。ヴァイスにコーヒーを入れてから、歯磨きをしようと外に出た。外に出していたはずのテーブルがない。ヴァイスが片付けてくれたのだろうか。一先ず結界で雨を凌ぎながら歯磨きと洗顔を済ませる。
テントに戻ろうとしたところで、城の敷地から左手に傘を差して右手には紙袋を下げているリアが出てきた。
 
「おはよう、ルイくん」
「リアさん……おはようございます。どうしたのですか、早朝に」
「この時間ならルイくんは起きてるかなと思って。差し入れよ」
 と、紙袋を手渡した。
 中身を見遣ると、豪勢な料理がタッパに詰められている。
「私が作ったわけじゃないけど、よかったらみんなで食べて? 城内で出されるお料理は豪華なだけじゃなくて栄養満点だから」
「ありがとうございます」
 笑顔で受け取りながら、アールのことを気にかけた。自分たちだけこんな料理を食べるのは少し気が引けた。
「なかなか見つからないわね……手が空いている兵士たちも捜してくれているんだけど。不自然なほど見つからない」
 と、表情が曇る。
「不自然……確かにそうですね」
「だって、最後にアールちゃんを見たのは城内よ? そのまま外に出て森の中のゲートを使ったとしても、そこからいける街は限られているし、そこは早くに捜し回った。でも見つからない。もちろん城内も。急に消えてしまった」
「城内のゲートを使った形跡は……?」
「ないわ。見張りが必ずいるから、見ているはずだし」
「やはり遠くに行ったのだとしたら、森のゲートを使って……としか考えられませんよね」
「えぇ。スーパーライトなども使われた形跡はないし」
「意外と近くにいる可能性はありませんでしょうか」
「それは私も考えたけど……一人になりたいのに見つかりやすい場所にいるかしら」
「そうですよね……」
「それに近くにいたらきっと、彼なら見つけられるんじゃない? ヴァイスさん」
「確かに……彼なら」
 と、ルイはテントを見遣った。
「外は魔物がいるし、アールちゃんはテント持っていないんでしょう? 結界も使えないし、となるとゆっくりひとりになれる場所はどこかの街だと思うのだけど……」
「えぇ……。ですがもうひとつ、可能性が出てきました。シドさんが言っていたのですが、もしかしたらアールさんの失踪に組織が関わっているのではないかと」
「え?」
「城内にまだ組織が入り込んでいたとしたら、それも考えられると思うのです。ただそれも手がかりはないので、あくまでもそういう可能性もあるというだけのことですが……」
「警戒は十分なのにまだ組織の人間がいるとしたら、属印はないってことになるわね。そうなると捜し出すのは難しいわ。よほど怪しい行動でもしてくれない限り……」
「そうですよね。でも……」
 と、眉をひそめる。
「でも?」
 
組織の人間が未だに入り込んでいるのだとして、その役目は恐らく情報を渡すためだろう。でもその辺の兵士だったならスタンフィールドが言ったように自由がない。ある程度の自由があって城内の動きを監視出来る人物。
 
「リアさん。まだ城内に組織の人間が潜んでいるとは言い切れませんが、もしもいるのだとしたら、ある程度の自由が利く人物だと思います」
「自由が利く人……」
「もしかしたら、案外近くにいるのかもしれません」
 リアは身の回りの人間を思い浮かべた。その中にはジェイやコテツの顔もあったが、リアは首を振った。
「身近な人で怪しい人なんていないわ」
「わかりやすくいたら今頃とっくに、捕まっていますよ」
 と、微かに笑った。
 
リアはあまり人を疑わない。彼女に組織の人間を見つけ出すのは無理だろう。
 
「念のため、注意深く見てみるわ。──それから、父が言ったことだけど」
 リアは申し訳なさそうに俯いた。
「聞いたのですか」
「えぇ、でも……私は断固反対よ。ルイくんたちもそうだと思うけど、私はアールちゃんを、帰りたい場所に帰してあげたいと思っているの」
 ルイはリアの言葉に微笑んだ
「ありがとうございます。心強いです」
「この星を守る方法はきっと他にもあるはずだもの」
「えぇ」
「じゃあ私はそろそろ戻るわね」
「わざわざ、ありがとうございます」
 と、頭を下げた。
 
リアは一度ルイに背を向けたが、思い立って立ち止まった。マッティという男と会い、言われた言葉を思い出す。
 
「ルイくん」
 と、ルイを見遣った。
「はい」
「あなたの……あなたたちの味方は沢山いるわ。でも敵も多くいるし、もしかしたら今は敵のほうが多いのかもしれない。味方と思っていた人からの裏切りもあると思う。それで誰も信用できなくなってしまうこともあるかもしれない。でも、絶対的な仲間がいるってこと、忘れないで」
「はい」
 ルイは肝に銘じるように、頷いた。
 

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