voice of mind - by ルイランノキ |
自分に問う。
ここで独り 世界の終わりを見届ける気はあるの?
お腹が空いているのに死んでしまう気がしない。
このままずっとここで生き延びる気がする。
世界が炎に包まれても、私だけが平然と生きている気がする。
どんなに悩んで苦しんでも、
私が出すべき答えはひとつしかないことはわかっている。
みんなもそう。私がいなくなっても、私に行く場所がないことくらい知っているんだ。
私が戻らなければきっと、みんなは私を恨むのだろう。全てを私のせいにするのだろう。
世界の終わりを前にして、ルイもカイもシドもヴァイスも。血相を変えて私の名前を呼ぶの。お前のせいだと声を揃えて。裏切り者だと叫ぶのだ。
ほんとうに?
叫ぶのかな。裏切り者だって。
ルイが? カイが? シドが? ヴァイスが?
お前のせいだと叫ぶの?
──叫ばない。
彼らはそんなこと、思いもしない。私を責めたりしない。
俺たちがちゃんと、アールを元の世界に帰してあげるから
カイが言ってくれた言葉を思い出す。あの言葉に嘘はない。はっきりそう言える。彼らのことはすぐ側で見てきた。
世界を救うためならあんな嘘もつく? つかない。そこまで彼らは器用じゃないことも、知っている。
彼らはとても純粋で、いつだってまっすぐだった。
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いるはずがないとわかっていても、立ち寄ってしまう場所がある。
ムゲット村の跡地は、今日も満開の花が咲き誇っている。
「…………」
ヴァイスは村の出入り口から全貌を見渡し、アールの姿がないことを確認するとそのまま道を引き返した。ここに来ると必ずスサンナの墓に手を合わせていたが、今はその時間さえも惜しい。
アールがいなくなってから、これまでの旅を思い返す時間が多くなった。
アールに初めて会ったのはまだライズだった頃だ。モーメルに伝言を頼まれ、仕方なく彼女たちが泊まっている宿を訪れた。ハイマトス族の姿では目立ってしまうため、深夜に訪問したが案の定魔物と間違えられ、武器を向けられた。人間の言葉を発した途端に彼女の目が変わったのを覚えている。きょとんと目を点にして、笑った。
あの頃はまだ、彼女が世界の運命を握っているという意識は無かった。彼女だけでなく、カイ、シド、ルイを見ても子供にしか見えなった。仲間になるなど、考えられなかった。子守をするのかと思ったくらいだ。
人の姿になって初めて彼女たちの前に姿を見せたのは、水の都、ブラオ街だった。ブラオへ向かう途中、妙に多くのルフ鳥が上空を飛び交っているのを見て気になり、後をつけた。そこでルフ鳥の巣で苦戦していたカイを見つけた。手を貸し、カイを連れてブラオ街へ。
そして仲間たちが逃げ込んでいた一軒家で対面した。
“ハイマトス族”に怯え警戒する彼等の視線を掻い潜るようにアールと視線があったのを覚えている。
ヴァイス……?
ヴァイスじゃないの? ヴァイスでしょ?
姿形が違えど、声を発する前に、彼女は気づいたのだ。そして、嬉しそうに笑った。
「…………」
またどこかで独り、泣いているような気がする。でも今回はそう仕向けたのは我々の方だろう。なにも知らなかった自分を悔やむ。どこにいるのかわからない以上、為す術も無い。
どこにいても繋がれる携帯電話も、今は一方通行だ。
ヴァイスは足を止めて道の先を見遣った。アールが歩いて気やしないかと願ってみても、ただ風が通りぬけるだけ。
パチパチと耳元で音がした。肩に乗っているスーだ。
「……どうした?」
すっかり存在を忘れていた。それほどまでにヴァイスの意識はアールへと向けられていたのである。
スーは地面に降り立つと、体を縦長に伸ばして海草のようにうねって見せた。
「笑わせようとしているのか?」
と、微かに微笑む。
スーはパチパチと拍手をして、道の先を指差した。──元気を出して。またアールを捜しに行こうと言っている。
「そうだな」
ヴァイスが手を伸ばすと、スーはすぐに飛び乗った。
「せめてお前が側にいてやれたらな」
風の匂いにアールの香りが混ざっていないかと探ってみるも、微かな存在も感じ取れない。その度に心がギュッと痛んだ。
──思い出す。
夜、谷底村で小川に足を取られて倒れこんだアールに手を差し伸べた日。
アールはヴァイスに驚いて小川に倒れこんだ。だからアールはヴァイスの手を借りるふりをして仕返しに小川へと引き寄せたのだ。ヴァイスも足首までびしょぬれになった。
「…………」
逢いたいな……家族とか友達とか……雪斗に
グリーブ島で、海を眺めながらアールがそう言った。
ゆきと?
あのとき、初めて婚約者の名前を聞いた。
私の好きな人。婚約者なの
私の夢は、愛する人と結婚して、愛する人との子供を産んで、
老後も愛する人と縁側とかでお茶を嗜むの。
平凡かもしれないけど、最高の幸せだと思わない?
その夢は、ここじゃ叶えられない。
「…………」
アールの幸せは、この世界では手に入らない。
会うことも声を聞くことも許されず、どんなに離れていても、それでも今も尚、彼女の心の支えになっている婚約者の存在は大きい。自分に世界への執着心かもしれないが……。
Thank you... |