voice of mind - by ルイランノキ


 心の声20…『ひとり』 ◆

 
アールは動画フォルダを開いた。友達や雪斗と撮ったムービーが入っている。
再生して、思い出に浸った。
この場所はとても寒いけれど、思い出に触れることですぐに消えてしまうマッチの火のように、ほんの少しだけ心が暖まる。そして、煙になって消えてゆく。
 
『ちょ、なに? 写真?』
 と、動画の中の久美が慌てている。
『ちがう。ムービー』
『げ、もっと最悪なんだけど!』
 と、両手で顔を隠した。
『なんでよ』
『今日めっちゃメイクの乗り悪いから!』
『メイクの乗り悪くてもすっぴんでも元が綺麗なんだからいいじゃない。なにか歌ってー』
 
そうだ、カラオケボックスで撮ったんだ。久美がなかなか曲を選ばないから退屈になって、私は動画を撮りはじめた。
 
『いやいや、じゃあ良子歌ってよ』
 と、携帯電話を奪われる。
『わわ! ちょっと! やめてよ!』
 と、当時のアールが映し出される。両手で顔を隠し、携帯電話を取り返そうと試みる。
『人のこと勝手に撮影しといて自分のことは撮らせないっておかしいでしょー』
『いいじゃん久美歌うまいんだし!』
『良子のが上手いよ。てか撮るなら出演料払ってね』
 と、ケータイを返してもらい、再び久美が映し出される。
『いくらでしょうか』
『んー、そうねぇ、ざっと、200万ってところかしら』
 と、大女優のように足を組む。
『高っ!』
 
アールは動画を見ながら、笑った。懐かしい。
それから、雪斗の動画も開いて、その大好きな顔と声を、聞いた。
 
『写メ?』
 と、ゲームを中断してピースを向ける雪斗。
『うん』
『…………』
『…………』
『まだ?』
 と、笑う。
『うん、ずっと撮ってる』
『え? ……あ、動画?!』
『そう!』
 
爆笑。
 
『やめろよ恥ずかしいわ!』
 と、照れ笑いをした顔がすっごく可愛くて、お気に入りの動画だった。
『超キメ顔でピースしてたよね』
『ちょ、やめろ! 消して』
『やだ』
 と、動画はここで終わる。
 
消されそうになって慌てて保存したんだ。
雪斗の声、聞けてよかった。声を聞いただけでどきどきする。当たり前にあった幸せが、そこにある。
  
携帯電話をぱたりと閉じた。
 
「雪斗……雪斗ーっ!!」
 
繋がれない遠い場所から 君の名前を呼ぶ。
返事は返って来ない。
 
同じように、友達や家族を声に出して叫んだ。──帰りたい。
元の世界へ帰す気はないと言っていたゼンダの言葉が返ってくる。
 
「…………」
 
アリアンの塔で日記帳を見つけた。最後の日付には……アリアンが子を身ごもっていたことが書かれてた。それも、シュバルツの子供だ
 
グロリアをエテルネルライトの中で眠らせる研究をしてきたのだ。もうじき、実現するだろう
 
彼女の力は世界を守る力になる。アリアンがシュバルツを封じ続けることで世界平和を保ってきたようにな。寧ろアリアンとシュバルツの力を受け継いだ彼女の方がより莫大な力を持っているはずだ。彼女をエテルネルライトに閉じ込めておくことでその力をいつまでも星を守るエネルギーとして生かすことが出来る
 
おいルイ! なに黙ってんだよ。お前からもなんか言ってやれよ!
 
…………=@ 
まさかお前……知ってたのか?
 
…………=@ なんとか言えよッ!?
 
……すみません
 
「ルイ……」
 
私はシュバルツとアリアンの間に生まれた子供で闇と光の力を持っている。この星を守っていくためにいずれはエテルネルライトの中で眠らされる。
 
彼女は、人の姿をした世界を守るための最終兵器だ
 
「さいしゅうへいき……」
 
アールさん、君が仲間や周りの人間からなぜ大切にされていたのかわかりますか?
 
コテツに言われた言葉が頭の中で再生される。
 
君を最終兵器として使うために“使える状態”を保っていないといけないのです。君を使うその日まで。君への優しさも、全ては、世界を救うためのものなのです。当たり前ですけどね
 
 
 誰 も 私 を ひ と り の 人 間 と し て 見 て い な い
 
 
「誰も私を見ていない……」
 
誰も
これまでの優しさは全て
私を気遣ってのことじゃない
みんなはいつも 私の後ろにある世界を見ていた。
 
大切な兵器を 傷つけるわけにはいかないよね
そうだよね
 
私がなにをしても、みんなは我慢するのだろう
全ては世界平和のために。
 
 
「…………ッ」
 
アールは拳を岩肌に打ちつけた。冷淡な感情がこみ上げてきて、狂いそうになるのを痛みで抑え込んだ。何度も何度も岩肌を殴り、手の甲の皮膚を削った。滲み出た血がべっとりとついている。
いくら涙を流しても、その涙をぬぐえるのは自分だけだ。例え今ここに仲間が駆けつけて私の涙をぬぐい、私を抱きしめてもそれはすべて……
 
「すべては世界のため……」
 
 
  私は 独り ……
 

第四十六章 心の声 (完)

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