voice of mind - by ルイランノキ


 心の声12…『仲間』

 
城内の一角で、4人は落ち合った。2時間ほど城内を捜し回ったけれど、アールの姿はどこにもない。
 
「こんだけ捜してもいないってことは、外に出たんじゃねぇのか? 城内は兵士にでも頼んで俺らは外を捜したほうがよさそうだな」
 と、シドが言う。
「ヴァイスんまた鼻で捜して!」
 と、カイが頼みの綱であるヴァイスの鼻に期待する。
「残念だが外は酷い雨だ。においが消える」
「あの……みなさん」
 と、ルイは重い口を開いた。
「みなさんにきちんと謝っておきたいのですが……」
「アールのこと……?」
 と、カイ。
「えぇ……。僕は、ゼンダさんのことを過剰に信じ過ぎていたのかもしれません。はじめ、ゼンダさんからグロリアをこの世界にとどめることも考えていると聞いたとき、僕は賛成していました。世界の平和を保てるのならば、それもいい案だと……」
「でも今は違うんでしょ……?」
「もちろんです。僕が馬鹿でした……」
「まぁしょうがねぇよ。普通の国民は普通に国王を信じてんだし。あのおっさんただの駄洒落じじいのくせに妙に国民の信頼得てるからなぁ」
「ただの駄洒落じじい!」
 と、カイが笑う。
「今は、アールさんを守りたいと思っています。ゼンダさんが彼女をエテルネルライトに閉じ込めるという計画を、どうにか阻止したい……」
「約束したしな。帰してやるって」
「そうそう!」
 と、カイが腰に手を置いて言うと、ヴァイスも頷いた。肩にいるスーも、協力しますと拍手をして意思表示をした。
「では、急いでアールさんを捜しましょう」
「けどどこ捜すんだ? 範囲が広すぎる」
「アールんが行きそうな場所って誰が一番わかるー? シドの時は俺が一番わかってたけどー」
 と、カイ。
 
全員が腕を組んで考えた。──わからない。今の彼女がどこへ向かったのか、全く思い当たらない。
 
「僕たちはアールさんのことをきちんと見ていなかったのでしょうか……」
「いや、違うだろ。女が考えてることは男にはわからんようになってんだ」
 と、シド。
「思考回路が複雑だと聞く」
 と、ヴァイス。
「俺さ、アールはなんとなくすぐ連絡くれると思うんだ。誰かに。俺かな?!」
「連絡は来そうだがお前にはねぇよ」
「ひど!」
「いえ、僕はカイさんに連絡しそうな気がします」
「ほらね!」
「アールさんを見てきて思うんです。むしゃくしゃしているときはシドさんと口喧嘩をして気を紛らわせていますし、話を聞いて欲しいときには、ヴァイスさんの側にいますし、気分が沈んでいて、リセットしたいときはカイさんに笑わせてもらっている。今はひとりでいたいから僕らの前から姿を消したのだと思います。その間に彼女が何を考え、何を思うかはわかりませんが……しばらく一人で考えた後に連絡を入れるのは、カイさんだと思います。重い空気も、カイさんが相手なら軽くなるでしょうし」
「お前は?」
 と、シド。
「そうだよ、ルイと一緒にいるときのアールは?」
「……気を遣っている。僕が心配するあまりに、逆に居心地が悪いんだと思います」
「そんなことはない」
 と、ヴァイスが言った。
「そーだよ。アールはほっこりしたいときにルイといるよ?」
「そうそう、例えばカイが鬱陶しくなって、俺にキレててハイマトスに話すようなことでもねぇがなんかモヤモヤすんなって時とかな」
「アールが俺のこと鬱陶しいって思うわけないじゃん!」
「つか、普通に会話が出来るのはお前しかいないだろ。ハイマトスはほとんど喋らねぇ、カイはうっせぇ、俺はいちいち立て付くからな」
「……ありがとうございます」
 と、ルイは笑った。
 
──けれど、その笑顔もすぐに消えてしまう。
カイの笑顔も、シドの笑顔も、ヴァイスの綻んだ顔も、時間が経つにつれて消え去った。
 
アールからの連絡が来ないまま数日が過ぎる。
一同は毎日時間が許すまで一度は訪れた場所を手当たり次第に回り、アールを捜した。どこにも彼女の手がかりはない。シドのときのように心当たりもない。
ただ刻々と時間が過ぎてゆくばかりだった。
 
━━━━━━━━━━━
 
──シュバルツが眠る死霊島。
 
アールがいなくなったことは、組織の耳にも届いていた。
 
「グロリアが仲間の前から姿を消してどのくらいになる」
 黒いコートのフードを深く被っている男は、目の前で片膝をついて頭を垂れている男に訊いた。
「5日目です」
「居場所は把握しているのだろう?」
「えぇ、もちろんです。僕の監視下にあります」
 と、顔を上げたのはコテツだった。
「まだ生きているのか?」
「はい。ドルバードに擬した無人航空機で生存確認をしたところ、まだ生きているようです」
「グロリアの中に自分の血が流れていることをシュバルツ様が知っておられるのかが不明だ。またシュバルツ様のお声が聞けるまで、生かしておけ」
「承知しました。ノワル様」
 
ノワルという男はコテツに歩み寄り、目の前で立ち止まった。
 
「私ならば自分の血を受け継いだ我が子を殺そうとは思わん」
 ノワルはコテツの顔に触れた。「なぁ? 息子よ」
「父さん……」
「お前の命だけは、私が守ろう」
「ありがとうございます」
「戦いが終われば自由にしてやる。それまでは耐えて、私に尽くせ」
「耐えるだなんてとんでもない……」
「お前はまだ若い。夢は無いのか?」
「夢……?」
 
二人がいる少し離れた場所に、ゲートが開かれた。コテツは警戒して立ち上がったが、見覚えのある顔に驚愕した。
 
「なぜお前がここに……」
 ゲートから現れた男から父を守ろうと間に立ち塞がったが、ノワルはその肩に優しく手を置いた。
「彼は、我々の仲間だ」
「え……でも彼はゼンダの近衛兵ですよ!」
 
ゲートから現れたのは、いつもゼンダと行動を共にしていたジェイだった。
 
「ご挨拶が遅れ、申し訳ありません」
 と、ジェイはノワルの息子であるコテツに片膝をつき、頭を下げた。
「私はムスタージュ組織総隊長……“ブラン”と申します」
「ブラン……」
 その名は知っている。
「謝る必要はない。互いに仲間だと知らなかったのだからな」
「…………」
 ジェイこと、ブランは立ち上がり、コテツを見下ろした。
「私も驚きましたよ。まさか突然現れた小さな見習いカウンセラーが、総帥の息子だったとは」
 
コテツの父、ノワルはムスタージュ組織を率いる総帥であり、頭領であった。
コテツの身体には属印はない。血の繋がりがあれば必要なかった。けれど、ジェイことブランの身体にも属印は無い。
 
「ブランさん……あなたはいつから組織に?」
 コテツが尋ねると、ブランが口を開く前に、ノワルが言った。
「彼が私に組織の頭にならないかと声をかけてくれたのだ。ある意味私よりも上の立場と言える」
「なにをおっしゃいますか」
「…………」
 
コテツは父と話すブランの顔を盗み見た。彼も組織の人間? 考えもしなかった。こんなにも近くに仲間がいたなんて。それも、国王が最も信頼を寄せている男が、組織の仲間を生かすか殺すかの判断を任されていると言われている総隊長ブランであったなんて。
 
──シドを追放すると決めたのも、彼だ。
 
「なにか、顔についていますか?」
 コテツの視線を感じたブランがそう言った。
「あっいえ……未だに信じられないだけです」
 
どんな気持ちで国王の側にいたのか、どんな気持ちでシドの追放を決断したのか、実に興味深い。
 

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