voice of mind - by ルイランノキ


 因果の闇20…『主犯』

 
「見つけた」
 
シェラの視線の先に、フードを被った若い男が立っていた。怯えるまなざしでバケモノを見ている住人と違って、ほくそ笑んで今後の展開を期待している。
 
シェラは星影丘に逃げてきた住人たちを掻き分け、その男に近づいた。
 
「楽しい?」
 と、声を掛けた。
「え?」
 振り返ったのは、アサヒだ。
「笑っているようだったから」
「…………」
「…………」
 2人は無言で顔を見合わせた。
「あれ、君はなんだと思う? 元は人間なんだ」
「…………」
「黒魔術で化け物化した。化け物を作り出した張本人も、その一部になった。面白いよな」
「やっぱり、あなたが犯人なのね」
「俺はただ連れてきただけさ。君になにが出来るかな。一人で」
「人間の怖さを知らないの?」
「人間の怖さ?」
「ここにいるのは私だけじゃない」
「…………」
 シェラはアサヒの首に腕を巻きつけ、叫んだ。
「主犯はこいつよッ!! こいつがバケモノを連れて来たの!! 誰かゼフィル兵に連絡してッ!!」
「あーらら。それは俺の苦手な展開だなぁ」
 と、シェラに取り押さえられながらアサヒは苦笑した。
 
避難所に入れず星影丘に集まっていた住人たちが騒ぎ立て始めた。
 
「魔物を放った犯人がいるぞ!! 取り押さえろッ!!」
 住人の男が叫び、一斉にアサヒは取り囲まれた。
 
丘への階段付近にいた住人は騒ぎを聞いて慌てて階段を駆け下り、ゼフィル兵の元へ向かう。その人数は20人以上だ。
 
「観念しなさい!」
 と、シェラ。
「いててて……気の強い女は嫌いじゃないな」
「私の大切な町を汚すなんて……」
「恨むなら、アールっていう子を恨むことだよ」
「アール……」
「アールを困らせたくってね。みんなあの子をいじめるのに必死なんだ」
 と、アサヒは笑った。
 
丘への階段をゼフィル兵が駆け上がってくる。集まっていた住人は道を開け、アサヒをゼフィル兵に引き渡した。
 
「組織の人間か」
「よくご存知で」
 ゼフィル兵はアサヒの両手を後ろ手に縛り、星影丘を後にした。
 
シェラはその様子をじっと眺め、咆哮を上げているバケモノを見据えた。
 
「アールちゃん……」
 
カモミール町の3分の1は人が住める状況ではなくなっていた。崩された家から火の手が上がり、隣の家屋に飛び火して炎がどんどん大きくなっていく。その煙が風に乗ってシェラの元まで届いた。
 
「こんなの酷いわ……」
 
兄や祖母のことが気がかりだった。階段を駆け下りていると、ゼフィル兵たちが一斉にバケモノに攻撃を仕掛けた。いくら人数がいても巨大なバケモノ相手に勝てるとは思えない。不安を胸に、駆け下りる。
ゼフィル兵たちが建てたいくつもの結界は、バケモノの攻撃魔法によってすぐに消し去ってしまった。それを目の当たりにしたシェラはゾッと身を強張らせた。結界が通用しない。兄達を守っている結界もすぐに壊されてしまうだろう。
 
「急がなきゃ……」
 
自分が行ったところで何も出来ないけれど、ゼフィル兵に助けを求めることは出来る。
──と、そのときだった。バケモノが上空に向かって両手の拳を掲げると、体の一部が分離して黒い塊がいくつも町の上空に浮かんだ。
 
「今度はなに……?」
「伏せろーッ!!」
 誰かの叫び声がした。
 
黒い塊は矢の形に変貌し、町中に降り注いだ。
シェラの悲鳴が町に響き、矢が直撃した星影丘は木っ端微塵に吹き飛んだ。
 

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