voice of mind - by ルイランノキ


 因果の闇17…『3階』

 
アリアンの塔、3階の扉を開けると、奥に宝箱がひとつ、置いてあった。それ以外にはなにもない。
 
「なんか……嫌な予感がする」
 アールは警戒しながらゆっくり部屋に足を踏み入れた。
「わかるぅー。なんにもないと逆に不安だよねー」
 と、鼻をほじるカイ。もう飽きてきたようだ。
「宝箱に警戒しましょう」
「そう言って1階ではまったく魔物出なかったけどな」
 と、シドは警戒せずに宝箱に近づいて行ったが、部屋の中央に差し掛かったところで床に大きな魔法円が広がった。
「離れてくださいっ!」
 
一同はそれぞれの武器を構えた。魔法円から現れたのは鷲鼻で大きな人間の頭に巨大な耳が生えている魔物だった。シドとルイは耳を羽ばたかせてコウモリのように飛び回るこの魔物を見たのは2度目だった。
 
「気持ち悪いっ!!」
 と、アールとカイが口を揃えた。
「チョンチョンです」
 と、ルイはロッドを構えた。
「え? チョンチョン?」
「チョンチョンという名の魔物、吸血鬼です」
 ルイが説明する後ろで、シドは既に刀を振るっていた。
「以前グリーブ島の洞窟内でシドさんと一緒に戦いました。あのときは数体いましたが今回は1体のようですのでシドさん一人でも──」
 と思った矢先に、チョンチョンがこっちに向かって歯をガチガチと鳴らしながら飛んできた。
「ぎゃあああああぁぁぁ!」
 と、逃げ惑うカイとアール。
「てめぇーらも戦えボケッ!!」
「人間の顔じゃん! 無理!」
「俺も無理ー!」
「手を貸します」
 ルイはロッドを振るった。
 
久しぶりに睡眠の魔法を使ってみると、1発で効いたものの5秒もしない内に解かれてしまう。ヴァイスは自分の出番はないなと、腕を組んで壁にもたれかかった。スーもヴァイスの肩の上で戦闘を見守る。
 
「こっちに来させないでよッ!!」
 アールはシドに怒鳴った。
「だったらテメェで追い払えッ!!」
「お二人は結界の中にいてください」
 ルイはアールとカイを結界で囲んだ。
 
部屋が広く、すばしっこいため攻撃を仕掛けても簡単に交わされてしまう。
 
「そちらに誘導しますから、お願いします」
「まかせろ」
 
シドとルイは以前戦ったチョンチョンよりもすばしっこく戦闘レベルも高いチョンチョンを相手に悪戦苦闘。そんな2人をアールとカイは結界の中で体育座りをしてのんびりと眺めていた。
 
「私シドとルイのコンビ好き」
「俺とシドはー?」
「ボケとツッコミでいいコンビだよね。でも戦闘ではルイシドがいい」
「俺アールとシドのコンビ嫌いじゃないけどー」
「そう? 息は合ってないと思うけど」
「各々がんばってる感あるよねー」
「やっぱり?」
「でもたまに気が合う。その瞬間が好きー」
 
アールは壁に寄りかかっているヴァイスを見遣った。
 
「ヴァイスとシドは仲良くならないのかな」
「あのコンビはねー、難しいんじゃないかなぁ。性格も年齢も違いすぎるんだよねー」
 そこにシドの攻撃を受けたチョンチョンが吹っ飛んできて結界に激突した。
「わ! びっくりしたー…」
 と、二人。
 チョンチョンはすぐに起き上がると、再びシドに向かって行った。
「確かにヴァイスとシドが仲良く話しているの想像できないね」
「でもさぁ、最初の頃よりも打ち解けたっていうかぁ、シドが受け入れたっていうかぁ、そんな感じするー」
「あ、わかる。あと、ルイとヴァイスのコンビも好きかも」
「えー、普通じゃん。てゆーかあんま二人きりでいることないじゃん」
「なんか綺麗なのよ」
「綺麗?!」
「二人並んだときの絵面がね。どっちも中性的だし」
「なーる!」
 なるほどの、略である。
「俺とヴァイスんは? てか俺も中性的じゃなーい?」
「んー…可愛い顔してはいるけどちょっと違う」
「可愛い?! 君には負けるさ……」
 と、流し目でアールを見遣った。
 そこにまたチョンチョンが飛んできて、バンッ!と結界の壁にぶつかった。
「わぁ!?」
「もう! ビックリするじゃない!わざとでしょ!」
「おめぇらがヘラヘラ雑談してるからだろ!」
 床で伸びきっているチョンチョンの頭に、刀の刃を突き刺し止めを刺した。
「さーせん」
 と、カイ。
「さーせん」
 と、アールも真似をした。
 
チョンチョンを倒すと、チョンチョンの姿が消えたと同時に壁に4階への扉が出現した。
 
「宝箱、開けてみますか?」
「もちでしょー、チョンチョンが守ってた宝箱の中身はきっとものすんごいお宝が眠っているはずー」
 と、カイが宝箱を開けたが、中に入っていたのはどこかの鍵だった。
「また鍵か」
 シドが壁や天井を見遣ると、アールたちも天井を見上げた。
「4階で使うのかもよ」
 と、アール。
「行ってみましょうか」
「じゃあよろしくー」
 と、カイは鍵をルイに渡した。
 

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©Kamikawa
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