voice of mind - by ルイランノキ


 因果の闇5…『これからの流れ』

 
シドが振るった刀がグリフォンの首を刎ねた。
次から次へと上空からやってくるグリフォンに、態勢を整える。時折義手である左手に持ち替えてみる。違和感はあるが、使いにくいということはない。刀を握る強さも、振り下ろす時の腕の角度もその速さも、頭で思った通りに動いてくれる。──悪くないな。そう思った。
 
「アールさん、シドさんは?」
 と、ルイが廊下を歩いて来る。
「まだ戦闘部屋。カイは?」
「どこにもいません。もしかしたらキッズルームにいるのかもしれません」
「見に行かなかったの? 真っ先に行くべきところじゃない?」
「ヴァイスさんが行ってくれました」
「ヴァイスが? キッズルームに? 大丈夫?」
「大丈夫だとは思いますが……なぜです?」
「泣かれそう」
 と、笑う。
「アールさん、今日はみんな揃っていますし、後で食堂でお話が」
「……?」
 
シドの本義手が出来上がってから2日目の朝。もうすぐ正午を迎えようとしている。
今日はめずしく全員揃ってのVRCだ。昼食は一緒にという話になった。
 
シドが戦闘部屋から出てくると、待っていたルイがタオルを差し出した。
  
「先に食堂へ向かいましょうか」
 敷地が広いVRCでは食堂が2つある設置されていることもあるが、ここはトマトゥ町のVRCで食堂は一箇所にしかない。ヴァイスとカイが戻るのを待つより、食堂で合流した方が早いと見た。
「うん。じゃあヴァイスに電話する」
 と、アール。カイはさっきからルイが何度も電話を掛けているが出る気配がなかった。
「携帯電話持ってる意味がないよね」
 そう言った直後に、ヴァイスが電話に出た。
『──カイは見つかった』
 携帯電話の向こうから、騒がしい子供の声が聞こえる。
「そっか。まだキッズルーム? 私たち今食堂に向かってるけど」
『わかった』
 と、電話が切れた。
「わかったって言ってすぐ電話切るのどうにかならないかなぁ」
 アールはそう言いながら携帯電話をパンツのポケットに入れた。
「ヴァイスさんと、シドさんにはよくありますね」
「なにがわりぃんだよ」
 と、シド。
「他にも用件があったらまたかけなおさないといけないので困るのですよ」
「私はそれもあるけど、なんか用が済んだらはい終わりーって感じで寂しいよ」
「意味わかんねぇ」
「例えば『わかった』って言った後、こっちからの『はーい』とかを待ってほしい」
「意味わかんねぇ」
「ルイはワンテンポ置いてから電話を切るよね。私もそう」
「めんどくせぇよ。用件が2つあるときは先にそう言えばいい」
「シドって女の子と長電話したことないの?」
「女の長電話ほど無駄なものはないな」
「ムカつくんですけど」
 と、廊下から階段を下りてく行く。
「将来彼女が出来たらさぁ、用がなくても電話くらいするでしょ?」
「用もないのになんで電話すんだよ」
「声が聞きたいからに決まってんじゃん! 会えないときとか彼女寂しがるよ? 寂しいから声が聞きたいって言われたら、断るの?」
「忙しけりゃな」
「あ、じゃあ別に忙しくなかったら電話してくれることはしてくれるんだ?」
「掛けてくりゃな。何事かと電話には出るだろ」
「なにその特に用がなかった場合は切る、みたいな」
「まぁ切るわな」
「信じらんない。シドは一生独身だね」
「…………」
 なんか腹が立つ言い方だったが、特に結婚願望などないシドはなにも言い返さなかった。
「ルイは? 長電話付き合うタイプ?」
「えぇ。忙しい場合はあまり長くは付き合えませんが……」
「素敵。シドとは大違い」
 
食堂に着くと、空いている場所を探して席についた。ルイがすぐにテーブルの上にあったメニューを広げ、真っ先にアールに渡した。
 
「あんまりお腹空いてないからなぁ」
「じゃあ食うな」
 と、シドは相変わらず椅子の座り方が悪く、行儀が悪い。
「いちいち突っかかってこないでよ」
「お前がな。俺はステーキならなんでもいい」
「サイコロステーキ?」
「あれはステーキに入んねぇだろ」
「お肉小さく切っただけじゃん! だいたいシドもカイもよく噛まずに飲み込むから小さく切ってあるほうがいいよ」
「肉は頬張るもんだろ」
「意味わかんない」
「僕は鯖定食にしましょう」
 と、ルイ。
「お魚かぁ……」
 
アールが悩んでいると、カイを連れたヴァイスが食堂にやってきた。
カイは椅子取りゲームのように足早にアールの隣に座り、メニューを覗き込んだ。
 
「いやーもー聞いてよー。ヴァイスんがキッズルームに来た途端に俺の人気は消え去ったんだよ! あ、からあげ食べたいなぁ」
「子供たちに人気だったの?」
 ヴァイスも空いている席に座った。
「一緒に遊んであげてたからねぇ。ヴァイスんが来た途端にヴァイスんのところに駆け寄ってって俺の周りから子供たちがいなくなったんだ」
「ヴァイスって子供に人気だったの?」
 それは意外だ。
「男の子ばっかりだったしー、なんか今ガンマンが人気らしいんだ。ガンマンアニメが流行ってんだってー。だからヴァイスんの腰の銃を見た途端に『かっけー!』って」
「カイのブーメランもかっこいいのにね」
「俺の武器であるブーメランを見て子供たちなんて言ったと思う?」
「飛ばしてみてとか?」
「そんなのおもちゃじゃんって言ったんだ!」
 と、拳をテーブルに叩きつける。
「あら……それはショックだね。よし、マーボー豆腐にしよ。ご飯少なめ」
 と、アールから見てカイの向こう側に座っているヴァイスにメニューを渡すと、カイはメニューを目で追った。まだ決め兼ねているようだ。
「どんぶりもいいなぁ。シドはなににしたのー?」
「肉。」
「シドはステーキならなんでもいいって。サイコロ以外」
 と、アールが言い足す。
「あ、じゃあ俺サイコロにしよー」
「同じものでいい」
 と、ヴァイス。
「ヴァイスんと俺っちサイコロ」
「店員さん、呼びますね」
 
ルイは全員分の注文を済ませ、待っている間にこれからのことを話し始めた。
 
「アールさん、あれからアサヒさんから連絡はありましたか?」
「ううん」
「そうですか……。今、組織の方々がジムさんの居場所を捜していますが、見つかったからといってシーワンの大剣も見つかるとは限りませんよね。時間がもったいないと思うのです。ですから、シドさんに問題がなければもう一度僕たちだけでテンプルムに行きませんか?」
「私は賛成」
 と、アール。
「俺もー」
 と、カイが言うと、ヴァイスも頷いた。もちろん、彼の肩にいるスーも拍手をして賛成を表明した。
「シドさんはどうですか? まだ、旅の再開は早いでしょうか」
「いや? 問題ねぇ」
「さすがですね」
「まぁ以前のように元通りってほどじゃねぇけど、自分の身は自分で守れるくらいにはなったからな」
「でしたら、いつ頃向かいましょうか」
「明日は?」
 と、アール。
「僕は明日でもかまいません。食材の買い足しもしておきたいですし」
 
全員一致で明日の朝、宿をチェックアウトしてパウゼ町を出ることになった。
 
「では僕はこのあともう少しトレーニングをして、一足先にパウゼに戻りますね」
「じゃあ俺も一緒に戻る」
 と、カイ。
「トレーニングはしないのですか?」
「俺の武器はブーメランよ? あんまりトレーニングし過ぎると腰やられちゃう」
「腰やられねぇようにトレーニングすんだろうが」
 と、シド。
「身体を労わるのも大切なんだよ」
「労わりすぎだお前は」
「みなさん今日はあまり遅くならないようにしてくださいね」
 

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