voice of mind - by ルイランノキ


 ログ街10…『闇夜の礫6』

 
7才くらいのあどけない少年がキョトンとしたつぶらな瞳で見上げている。
 
「だからねぇ? 写真屋さん知らない? もしくはカメラ屋さん」
 と、カイは少年に繰り返し訊いていた。
「……知らない」
「ほんとにぃ? この辺にはないってことなのかなぁ……」
 
カイが困り果てていると、少年はじっとカイの腰に掛けてある刀を見ていた。
 
「ん? 刀に興味あるのぉ?」
「……それ本物?」
「そりゃそうだよー、お兄ちゃんは剣士だからねぇ! 剣士といってもこれは剣ではなく刀だけどぉー! いや、正確には刀というより実は刀剣なんだけどぉ」
 カイは自慢げに笑うと、少年はニヤリと笑って、
「ママぁー!! 助けてー!! お兄ちゃんが僕を殺そうとするんだー!!」
 と、突然とんでもないことを叫んだ。
「んなにぃ?!」
 カイは度肝を抜かれ、慌てて訂正した。「違いますよぉー?! そんな恐ろしいこと微塵(みじん)も考えてませぇーん!!」
 
そう大声で叫んで誤解を解こうとしたカイだったが、周囲にいた大人達の鋭い視線に思わずその場から逃げ去った。
 
──10分後
 
「ハァ…ハァ……なんだよぉ……あの少年……」
 
体力が切れるまで走り続けたカイは、小さな店の前にあるゾウのオブジェに寄り掛かりながら腰を下ろした。子供なら怖くないと思って声を掛けたのにこの様だ。
 
「カメラ屋も見つからないしぃーあの見るからに良い子っぽい少年には騙されるしぃーほんとツイてない。ねぇ、君もそう思うでしょ? ゾウさ……ん?」
 
ゾウのオブジェを改めて見てみると、ゾウの首にカメラがぶら下がっている。勿論そのカメラもオブジェの一部なのだが。
 
「君もカメラに興味があるのかい? 雑貨屋さんかなぁ……」
 
身をよじって店に目を向けると、入口の上に《思い出を残そう! カメラ屋》と丸文字で書かれたポップな看板が飾られていた。ところどころ塗装が剥がれている。
 
「おぉー!! 神は俺を見捨てなかったぁー! すっげーツイてる!!」
 
偶然座り込んだ場所がカメラ屋の前だったことにテンションが上がり、急いでシキンチャク袋からカメラを取り出して店内に入った。
 
「すんませぇーん! 現像をお願いしたいん……です……けど……」
 
カイは一気にテンションが落ちた。レジのテーブルに肘をついてテレビを見ていた店員は、顔に切り傷があり、ヤクザのような男だったからだ。やっぱり神なんていやしない。と、心の中で呟いた。
 
「そこに置いとけ」
 低い声の店員はぶっきらぼうにそう言うと、またテレビを観はじめた。
「あの……出来れば急ぎでお願いしたいのですけれども……」
 恐る恐るレジに近づいてそう言ったが、店員はテレビに夢中でこちらに目も向けなかった。
 
店内には今ではなかなか手に入らない古いカメラから最新のカメラまで並べられていて、隙間には猫や犬などの小さなフィギュアが飾られている。壁にも動物の写真が貼られ、全体的にくすんではいるが見るからにポップで可愛らしい店だというのに、店員は場違いなほど無愛想だ。
カイはそっとカメラをテーブルに置くと、そこにあった用紙とボールペンに目を止めた。《現像をご希望の方はこちらの用紙に名前、連絡先……》と書かれている。
 
「これに書けばいいのか……」
 
必要事項を書いていくと、一番下の欄に《ご要望》という項目があった。カイは迷わず、「なるべく早めにお願いします」と書き加えた。
 
「じ、じゃあ宜しくお願いします……」
 テレビから視線を離さない店員に向かってそう言い残し、店を出た。
 
現像を頼まれたのにこの調子では今日中には無理かもしれない。カイはため息をつくと、ポケットから携帯電話を取り出してルイに掛けた。
 
『もしもし、カイさん?』
 と、ルイは直ぐに電話に出た。
「あ、ルイ? オレオレー」
『今こちらから連絡しようかと思っていたところです。カメラ屋さんは分かりましたか? 僕はチェックインをして部屋の確認をしたところです』
「そっかぁ、俺は今現像頼んだとこー」
『どれくらい時間が掛かりそうですか?』
「え……えっと、一応なるべく早めにとお願いはしといたけどぉ……」
『そうですか。僕はこれから、シドさんが向かっている鉄工所に行く予定ですが、カイさんはどうします?』
「鉄工所?」
『えぇ、そこに行けばアールさんの手がかりが見つかるかもしれないようで』
「俺は部屋で待ってようかなぁ。ほら、現像がいつ仕上がるか分からないし?」
 と、カイは単に嫌な予感がして現像を理由に行くことを拒否した。
『わかりました。では、鍵を渡したいので途中で落ち合いましょうか』
「えっと……どこで?」
 
カイは慌てて地図を広げたが、自分が今いる位置すら分かっていない。
 
『地図持ってますよね? 鉄工所は西側にあるので……指定してもらえますか?』
「えぇっと……うーんと……」
『………』
 
ルイはカイからの返答を待ちながら腕時計に目を向けた。針が時間を進めるごとに脳裏に浮かぶのはアールの安否だった。
 
『カイさん、やはり鍵はフロントに預けておきますから、もう直接ホテルに来てください。部屋は4階の19号室です』
「う、うん。わかったぁ」
 
──時刻は午後3時過ぎ。
彼等は空腹にも気づかず、一刻も早くアールを助けることで頭がいっぱいだった。彼女を危険から守らなくてはならない。その使命を果たさなくてはならないのだ。
 

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©Kamikawa
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