voice of mind - by ルイランノキ


 因果の闇3…『ギップスへの手紙』

 
「どーもー! いつでもどこでも何時でも、あなたの元へ大切な商品をお届けに伺います!マジック業者専用宅配会社リーファーンのアジシオです!」
 
ウペポとテトラの元に、宅配業者がやってきた。玄関で小包を受け取り、差出人を確認するとモーメルの名前が書かれていた。
それぞれ小包を持って室内に戻り、中身を確認する。魔道具がひとつと、手紙が入っている。手紙にはこう書かれていた。
  
《力を貸してくれるのなら、いつでも出れる準備をしていてほしい》
  
小包に入っていた魔道具は、強力な力を持った護身符だった。口は堅く結ばれており、開けることは出来ない。仮に開けてしまえばこの護身符の効果はたちまち無くなってしまう。
 
誰にも彼女を止めることは出来ないだろう。
ウペポとテトラは護身符を握り締め、モーメルを思った。
 
━━━━━━━━━━━
 
モーメル宅には、長い使いを終えたギップスが、死に物狂いで集めた魔道具が入っているシキンチャク袋を握りしめて立っていた。モーメルはテーブルの上にそれらをひとつひとつ慎重に取り出し、確かめて行く。それをギップスは無言で眺めていた。
 
「凄いじゃないか。本当に全部集めてくれたとはね」
「最後に訪問した魔術師の方は……正直、最悪でしたよ」
 と、乾いた笑いをこぼす。
「だから一番最後に書いておいたのさ」
 と、モーメル。
「すぐに会ってはくれましたが、魔道具を渡す代わりに突きつけられた条件が多すぎで……」
「一番ケチな魔術師として有名だからね。ゆっくり休んでおくれ」
 と、モーメルは懐から分厚い茶封筒を取り出し、ギップスに渡した。
「これは?」
「少なくて申し訳ないが、受け取っとくれ」
「…………」
 封筒の中を確認すると、500万ミルほど入っていた。
「なんのご冗談ですか……?」
「好きに使うといい。研究にでも、娯楽にでも」
「魔道具を集めるのは苦労しましたが、こんな大金を貰うほどでは……」
「結果論だろう? いいからそれを持って帰んな」
「…………」
 用が済んだからもう帰ってくれと、言われているようだった。
「モーメルさん、私に出来る事は他にありませんか」
「もう十分さ」
「ですが……」
「邪魔しないでおくれ」
 と、語調を強めた。
「……はい。失礼致します」
 
ギップスはお金が入った封筒をスーツケースに入れ、モーメル宅を後にした。
ゲートへ向かいながら、もう二度と会えないような気がして振り返らずにはいられなかった。
 
「…………」
 
ゲートを使う前に、モーメルから受け取った自分宛の手紙を取り出した。使いを頼まれた日に渡された手紙だ。今一度読み返す。
 
《ギップス
 
これから話すことは誰にも口外しないという約束をしておくれ。
お前に頼んだ使いは、この先の未来を左右するものさ。
 
以前、ギルトという男の話をしたのを覚えているかい?
彼は世界の未来を見ることが出来た。
そして闇に覆われる未来を 何度も 何度も 繰り返し見たのさ。
闇から救い出すための光を、その道筋を見つけ出すために、幾つものルートを探して、たったひとつだけ、その方法を見つけることが出来た。
どこかひとつでも歯車が狂えば実現しない、たった一つの限りなく細い道。
その幾つもの歯車のひとつが、あたしなんだよ。
 
ギルトから託されたあたしの使命を何があっても全うしなければならない。
だけど老いぼれたあたしひとりでは難しくてね。
酷だとは思うが、お前の協力なしではやり遂げられない。
お前はあたしが知っている若手の魔術師の中では一番信用出来、頼りになる男だと思っているよ。
 
ギップス、あたしはね 例え国家魔術師でも決して許されない黒魔術を遂行しなければならないんだよ。
決して簡単なことではないけれど、悪魔にこの身を引き裂かれようとあたしにしか動かせないひとつの歯車を動かす為に、あたしは長く生きたこの身体を葬る覚悟でいるんだよ。
怖くないと言えば、嘘になる。
けれど、世界の為に命を捧げたギルトのように、あたしも覚悟を決めなければならない。
 
これからはお前たち若者の時代さ
ここで終わらせるわけにはいかないんだよ。
 
例え大切な誰かをこの手で壊してしまうことになっても
お前たちを未来へ導く道しるべを照らすひとつになれたらと
思っているんだよ
どうか、わかっておくれ》
 
「…………」
 
避けられない運命が、近づいている。
空はこんなにも青く澄んでいるのに、世界の終わりへの予兆はまだ見えてこないというのに、すぐそこまで忍び寄っている。
 
「“大切な誰か”を壊す……?」
 
言い知れぬ不安が押し寄せてくる。けれどもう、自分に出来る事は何も無い。
ギップスはモーメル宅に背を向け、ゲートからその場を離れた。
 
我々を待っている未来は、光と闇のどちらへ傾くだろう。
当たり前にあると思っていた未来は今、終焉へと進んでいる。それを死に物狂いで阻止する為に欠かせない歯車が音を立てて回り始める。ギルトが見た一筋の光を目指して、その身を削り、悲鳴を上げる。
 
新しい世界が 光で満ち溢れていることを、願うばかり。
 

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©Kamikawa
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