voice of mind - by ルイランノキ


 因果の闇2…『本格的始動』

 

   
「ローザ。なにかあったのか?」
 
喫茶店、《花の種》の窓から土砂降りの雨を思いつめた表情で眺めているローザに、マッティが席を立って歩み寄った。
 
「いいえ別に。随分と降るわと思っただけよ」
「隠し事か?」
 マッティはローザの顔に触れた。
「大したことじゃないわ」
 ローザはマッティの手首を掴み、下ろした。
「つれないな」
「そっちこそ急にどうしたのよ。これまでそんな素振り見せなかったくせに」
 悪い気はしないけれど、と窓に背を向けて寄りかかった。
「悪い予感がする」
 マッティは窓に打ち付ける雨を眺めた。
「雨だからよ。天気が悪い日は悪いことが起きそうな予感がするものよ」
 席に座り、メニューを手に取った。
「…………」
 マッティはそんなローザの後姿を眺めた。
 そして、彼女の向かい側に腰掛ける。
「最近報告が雑だな」
「なんの話?」
 マッティを見向きもせずにそう言った。
「あまり把握していないところで勝手なことをされると助けが必要となったとき、手を貸せないぞ」
 と、胸ポケットからタバコを取り出した。
「私に?」
「あぁ」
「私に危険が及んだら、命を掛けて助けようとしてくれるわけ?」
「あぁ」
 と、一本タバコをくわえ、火をつけた。
「……即答するのね」
 少し驚いてマッティを眺めた。
「同士だろう」
 ふぅと、顔を背けて煙を吐いた。ローザにかからないようにだ。
「…………」
 
ローザはメニューを閉じて、窓の外を眺めた。雨音が煩く、耳障りだ。
 
「貴方は人を殺したこと、ある?」
「…………」
 マッティは無言でローザを見遣った。
「ないのね」
「誰か殺したのか?」
「……えぇ。不要になったから」
「どうやって」
「小型爆弾。原始的でしょ? プレゼントしたチョーカーに埋め込んでおいたの。そういう女なのよ、私は」
「…………」
 
店内はがらんと空いており、オーナーもレジの奥にいるのか姿がない。
 
「ジムは殺すなよ?」
 と、マッティは立ち上がり、パソコンを置いていた隣の席へ移動した。
「……殺さないわ」
 
ローザは椅子の上で膝を抱え、顔を伏せた。そんな彼女をパソコン越しに眺めるマッティに、メールが届いた。
 
【急に慌しくなった。もう時間がない】
 
「…………」
 くわえタバコで返事を打った。
 
【詳しく話せ】
 
【シュバルツの声を聞いた。属印があるもの全員が、だ】
 
「…………」
 マッティは膝に顔をうずめているローザを盗み見た。
 
【その内容を一語一句送れ】
 
返事を待ちながら、灰皿にタバコの火を消した。そして、再びメールが送られてきた。
 
【時が近づいている
 砂嵐に飲み込まれ 炎に焼かれ
 息吹が消えたその場所に
 たった一人生き残るおぞましい存在が
 汝等の目に映っているか

 人々の生活を脅かし

 この世界から全ての光を奪い去る闇の力が
 すぐそこにまで迫っている

 今立ち上がらなければ
 この世に光が戻ることはないだろう

 今こそ願いを 祈りを捧げよ

 今を生き 未来を守りし者たちよ
 時を刻み続ける為に 命を絶やさぬ為に
 光満ち溢れる未来を 存続させるために

 その命に願いと祈りを込め 我に捧げよ

 時が近づいている

 我が光への道しるべとなろう】
 
「……ローザ」
「?」
 ローザは顔を上げた。
「これからますます忙しくなるぞ。覚悟は出来ているか?」
「…………」
 ローザは椅子の上に乗せていた足を下ろし、切なげに笑った。
「もう、後戻りする気はないし、覚悟なんてとっくに出来てるわ」
「そうか、それならいい」
「…………」
 
外は激しい雨が降り続いている。どんよりとした雨雲が空一面を多い、雨が止む気配は全く無い。
 
「そろそろ本格的に始動だ」
 
マッティはそう言って、ノートパソコンを閉じた。
 

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