voice of mind - by ルイランノキ |
カイは病院の前で立ち尽くしたまま、迷っていた。リハビリセンターまで行くべきか、ここで待つべきか。シドのことを考えると、ここで待ったいたほうがいいだろうという結論に至った。苦戦している姿をあまり見られたくはないだろうし、邪魔もされたくはないだろうからだ。
ベンチに座って携帯電話を取り出した。
【シド待ち中。今日の夕飯なにー?】
気を紛らわせるために、アールにメールを打った。返事はすぐに返ってきた。
【マゴイの煮込みハンバーーーグ☆だそうです。※ルイの愛情入り】
「うまほー」
と、思わず笑う。
【アールの愛情も入ってますか?】
【うん、隠し味程度に】
【やったー! デザートはなんですか?】
【デザートはないってさ】
【デザートは、なんですか?】
【ないってば】
【食後のデザートは、なんでしょうか】
【ないっつってんだろ!笑】
「あははは!」
と、思わず声に出して笑う。
「なに一人で笑ってんだよ」
「──?!」
いつの間にかシドが立っていた。
「シド……おつかれー…。どうだった?」
「どうもこうも……」
と、隣に座った。
「扱いづらいの?」
「思ったとおりに動くには動くが、慣れてねぇからイライラするしきもちわりぃ」
「ふーん……」
と、メール画面に視線を落とした。
「今日のデザートはないんだって」
「は?」
「いや、なんでもない……」
と、ぎこちなく携帯電話を閉じた。
「…………」
気まずい空気が流れる。なにか話題を探さなきゃとカイはちょうどいい話題を探すが、見つからない。
「そういや、刀が綺麗になってたな。ルイか?」
「あ……それ俺……」
「お前が?」
「やり方は覚えてたから。片付けはルイがしたけど」
「なんじゃそりゃ」
「あと、最初に刀磨こうとしたのはアールだよ。シドが目を覚ましたときに、すぐに旅の再開ができるようにって……。でもアール磨き方とか知らなくて。シドが刀を磨いてたのをルイが見てたから見よう見真似で磨こうとしたんだけど、ルイよりは知ってるからって俺が」
「たらい回しだな」
と、シドは笑った。
久しぶりに見たシドに笑顔に、カイにも少し笑顔が戻った。
「──ありがとな」
「え……あ、うん」
「エロ本は趣味じゃなかったが」
「あ、やっぱり? あれマルックから貰ったんだ。俺が選んで買ったやつじゃなくて」
「マルック?」
と、虚空を見遣る。誰だっけか?
「ほら、ログ街でさ、手を貸してくれた人。大男連れてた」
「あーぁ」
「ばったり会ったんだ。病院で」
と、そのときのことを詳しく話した。
「大男の名前がナスビって笑えるな」
「ナシビだけどね! もうナスビだよね!」
「…………」
「…………」
また、沈黙が戻って来た。
せっかくアールたちが気を遣って2人になれる時間を作ってくれたんだ。無駄にはしたくない。
カイは視線を落として、深呼吸をした。
「シド、俺……」
「謝らなくていいからな」
「え……でも……」
「感謝してんだよ」
「…………」
「あのままじゃ確実に死んでたしな。つか、助かるとは思わなかった」
「うん……」
「つかお前っ!」
と、急に思い出したようにカイを見遣った。
「え?! はい!」
「見てなかったろ!」
「へ?」
「俺の腕斬る時だよ! あん時俺が咄嗟にお前がやろうとしていることを読んで自ら腕をさし出したから上手く腕だけ斬れたものの、斬り落とす寸前に目ぇ逸らしたろうが!」
「あ……」
直視できずに確かに目を逸らした。
「ったく……やっぱハリセン出せ」
「えーーーーっ!?」
「えーじゃねぇ! 考えて見りゃお前が斬り落としてくれたんじゃねぇ、俺が斬らせてやったんだ。俺が斬らせてやらなきゃテメェ俺を殺してたからな?!」
「えーーーーっ?!」
「えーじゃねぇ! バット出せ」
「ハリセンからバットに?!」
「プラスチックのバット持ってたろうが」
「叩かれるためにバットを自ら差し出すの?! プラスチックとはいえ! プラスチックとはいえ!」
「うっせぇ出せ。」
「ひどい!」
と、渋々プラスチックの黄色いバットを差し出した。
「プラスチックだから痛くねぇだろ。それにこっちは片手だしな。立ってベンチに手を突いてケツ出せ」
「変態!」
「ケツバットで許してもらえるんなら安いもんだろ」
「俺の可愛いお尻!」
「早くケツ突き上げろ」
「変態!」
そして。
薄暗い夜空にパーーーーン!と破裂音が響き渡った。
カイはお尻を押さえながら崩れ落ちた。
「いい音が鳴った」
「痛いし恥ずかしいし痛いし恥ずかしい……」
「先に帰るぞ」
シドはバットを振り回しながらカイを置いていく。
「ひ、ひどい……俺のほうがもっと酷いことしてるけどシドの方が酷く感じるのはなぜなんだろう……」
お尻を押さえながら立ち上がり、シドの後を追った。
Thank you... |